第97話予言

「王道RPG有り、領地戦略有り、ヒロインとのイチャラブ恋愛有り、ギャンブル有り、スローライフ有り!

 自由度の高いことで爆発的大ヒットを生んだ大人気ゲームだとよ」


 俺が自嘲気味にそう言うと、メラクルはキョトンとした顔をする。

 そして、水差しから水を俺のカップに入れながら首を傾げた。


「何が?」

「この世界が」

「はぁ」


 目を細めて呆れ返られた。

 サビナまで額に手を当てて渋面な顔。


 おい! そんな顔すんな!

 言ってる俺だって呆れてるよ!


「じゃあ、何?

 あんたはこの世界がそんなゲームか何かだとでも言いたいわけ〜?」


 駄メイドが何やらぬけたことをほざくので、俺は即座に言い返す。


「言いたいわけねぇだろ、このスットコドッコイ」


「ムキー!!

 あんたが言ったんでしょ!?」

 メラクルはその場で地団駄を踏む。


 うん、そうだね。

 ついからかってしまった。


 とにかくゲームだかアニメだかなんだか知らないが、この世界がなんなのかなんて、そんな神の視点で物事を認識出来るなら、それこそ教祖にでもなった方が大成功する。


 せいぜい分かるのは、過去の記憶が無かろうと俺が俺であるという認識だけ。


 そもそもユリーナのキスで覚醒した当初に、何故、俺が転生だとかシナリオだとか考えたのか時間が経てば経つほど分からなくなる。

 そう、まるで夢から覚めた後のように。


 もちろん、ユリーナをそれで幸せに出来るなら神にでもなって見せよう、いやいや。


「……まあゲームとやらが、実際はどうとかは今はどうでもいい。

 大事な事としては、そのゲームのシナリオに沿って出来事が起こっているってことだ。

 お前の襲撃も大戦も」


 おそらくその後も。

 皮肉げな笑みが浮かぶ。


「へ!? あ、そっか、助けられたもんね、私。

 凄いよね……、未来予知というか予言というか……」


「まあな。

 この記憶……便宜上ゲーム設定と呼んでるが予言と言って良いだろうな。

 まるで預言者の力とも言えるかもな」


 我が事ながら実に怪しい。

 それでも、最近はそこまで便利ではなくなってきてはいる。

 状況が少しずつ変わり始めてもいるからだ。

 それが良いか悪いかは、まだ分からない。


「預言者って、教導国の創始者と呼ばれる伝説上の?」


 ああ、そっちもあったな。

 宗教を興した神の代弁者としての預言者のことだ。


 ゲームではその名を引き継ぐ人物が居た訳だが。


 現実では……行方不明となった聖女がそれではないだろうかと俺は疑っている。


 それにガイアだ。

 あの娘の記憶も同じ予言の類いのものだろうか?

 はてさて、さっぱりと分からん。


「それが予言と同じというのでしたら、メラクルをけしかけた真犯人が、ハーグナー侯爵閣下であるということは間違いないのですか?」

 サビナが真剣な目で尋ねる。


「いや、残念だが状況証拠だ。

 そういうところがこのゲーム設定の中途半端なところでな。

 ある特定の視点や基本的な情報以外での物事は推測するしかないのだ。


 メラクルは我が公爵家の地下牢にて、俺の目を盗んで廃人にされていた。

 それは大公国の伯爵『ごとき』では不可能だ。

 王国に影響を持ち、さらに俺に介入出来るだけの力が無ければ、な」


 対抗派閥の軍閥派が大ぴらに入り込んでいれば、実行自体は可能でも最終的にはハバネロ公爵とて流石に気付く。

 今日の夢から判断すると意外とアルクたちには人望があったようだしな。


 だがゲームでは最後まで不明のまま。

 ハバネロ公爵が語らなかっただけかもしれないが。


 故に実行可能なのは、ほんの少数。

 ハーグナー侯爵か、王太子や王、他数名だ。

 王太子や王は流石に無いと思うんだよなぁ〜、これも確証ないんだが。


「そのゲーム設定とかでは、王国は勝ったんでしょ?

 あんた色々準備してたし」


「勝つには勝つが、王太子殿下、アルク、ラリー、優秀な王国兵も含め多くが死に。

 帝国兵は皇帝、帝国最強の騎士ロルフレットを殺し、帝国兵1万については捕虜にして俺が生き埋めにした。


 ……王国を守るためにな。

 そんな被害を出してしまえば、悪魔神どころか邪神にも世界が対抗出来る訳がない」


 お手上げというように肩をすくめ、息を吐き出す。


「……どうするの?」

「どうにかするしかあるまい」


 仕掛けも用意した。

 だが戦場は思い通りにいくものではない。

 帝国兵1万の命を救う代わりに、己の命と王国とを滅ぼされてはやってられない。

 犠牲は大きくとも、確実にってしまった方が良いか大分悩んだ。


 もっともそれをした時、ゲーム通りならば世界は確実に滅びる訳だが。


「あ……、だからか。姫様を帝国に行かせたの」


 どちらにせよ宰相オーバルを倒さねばならないのは本当だが、もしもの際にそのままユリーナたちが共和国にでも逃げられるように、という思いも無くはない。


 そこでギンッとメラクルは分かりやすく俺を睨む。


「あんた、本当姫様のことばかりね。

 ……だから、吐け。


 何を隠してる。

 あんたが姫様から離れないといけない、決定的な何かがまだあるんでしょ?」


 俺はメラクルのその物言いがおかしくて思わず、口の端を釣り上げる。

 流れで助けた相手だが、随分と心配をしてくれる関係となったものだ。


「うわ! 人の悪い笑み!

 ちょっとサビナ!

 こいつのこの笑い方、なんとかした方がいいよ!

 ちょっとあんたも気を付けなさいよ?

 そんなだから悪虐非道のハバネロ公爵と言われるのよ?」


 これにはサビナも苦笑い。

 どうにか出来るならどうにかしてる。

 そういう人相だ、仕方ねぇだろうが。

 ……フェイスマッサージでもするかなぁ。


「悪名も勇名だ。

 戦争では役に立つ。

 利用出来るものはなんでも利用しないとな。


 どの道、この大戦を切り抜けないと一切の未来がないからな。

 難しいことは切り抜けてから考えようや」


 もっとも切り抜けたら、即次の事件が起きてしまいそうだがな。

 大公国を探らせている密偵からも逐次情報が入っている。


 大公国内部は爆発寸前なのかもしれないと。

 そうなると工作しても大公国がこの大戦中に爆発するのを防ぐのが精々か。

 それとも……。


 俺はメラクルが入れた水を一飲みして、立ち上がりテントから出る。


 いずれにせよ、この戦争を生き残らねば明日はないのだ。

 どう考えても負け戦の戦争を、だ。


 まったく、とことん詰んでやがる。

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