第99話ちょっとは頼ってと

 ガイアは共和国の平民である。

 恐るべき美女姉妹である。


 当然、その姉も平民だったはずだが、教導国、つまり文字通り宗教国家に聖女として見出された。


 美女姉妹で最強剣士と聖女。

 すげぇぜ! 平民姉妹!

 うん、ちょっと平民セレブレイト家おかしい。


 教導国という国は国の面積こそ少ないが、聖教騎士団を擁し、女神教の総本山。

 宗教的権威は絶大なものがある。


 ゲームではその国の権威の1人が預言者であり、ハバネロ公爵討伐後、邪神との戦いにおいて主人公チームのバックアップをしてくれている……という名目だが、他には教導国の誰かが主人公チームに加入したとかはない。


 預言者だけが独自の判断で主人公チームと一緒に行動していたようだ。

 聖女が預言者と同一だというなら、それも納得もいく。


 しかし、情報を集めれば集めるほど、ゲームでは明らかにされていない謎がいくつも浮かび上がってくる。


 ハバネロ公爵討伐後、主人公チームは世界の各国々からバックアップを受けて邪神討伐を成功させているが、実際に各国が最前線で戦っていた描写はない。


 ゲームゆえに省いたのか、それとも一部の者しか戦っていなかったのか。


 これは物語の勇者と魔王の戦いに似ている。

 物語にもよるが、王は勇者を魔王討伐に向かわせ、実際に魔王軍を撃破していくのは勇者のみ。

 そういう物語の国のお抱えの騎士団は何をしているのだろう?


 何処かで奮戦していたのかもしれない。

 勇者の進む道をサポートしていたのかもしれない。


 ……或いは、何もしていなかったのかもしれない。


 世界が一丸となって邪神や悪魔神と戦っていたならば、そんな描写や設定がないのはおかしい。


 つまりはそういうことだ。

 各国はそれぞれ対処はしていただろう。

 だけど言ってしまえばそれだけしかせずに世界は滅ぼされる。


 気付いてしまうと、嫌でも理解する。

 ゲームの中の世界はもう本当に、とんでもない手前で詰んでいたということを。


「……ちょっと、ちょっと!」

「なんだ? 駄メイド」

 騎士服を着た駄メイドが横から俺を呼び掛けるので、仕方なく顔を上げる。


「なんだじゃないわよ! 俯いて考え事してると危ないわよ!」

 至極真っ当なことだった。


「ああ……悪いな」

 悪いと思ったらすぐ謝りましょう。

 謝れなくなる事もよくあることなので。


 そうやって黒いモヤのようなモノが溜まっていき、その人を苦しめる。

 誰もがポジティブに気にせず生きられたりはしない。

 まあ、それでも人というのは忘れる生き物だ。

 大切なことも、そうでない事も。


 お気楽な風のメラクルですら、それと無意味では居られないことだろう。


「あと私は今、メイドじゃないから!

 聖なる茜の騎士メラクルよ!」

 茜の騎士、気に入ったのね……。


「ところであんた!」

 ビシッと俺に指を突き付ける駄メイド騎士。

 不敬罪やっちゅうねん。

 スッゲェ今更だけど。


 サビナとアルクも含め、誰一人メラクルのその行動を指摘する奴は居ない。


 最初からこうだし、最初から許してたし、何事も注意するなら初めが肝心ということだ!

 分かってても注意する気なかったけど。


 それでも、もうちょっと態度考えろや!と、うろんげにメラクルを見る。


「なんだよ?」

 もう最近はこいつに関しては、あんた呼ばわりされる以外の呼ばれ方が浮かばない。


 いつも通りのふざけたやり取りになると思って聞き返したが、メラクルが返してきた言葉は今までと少し違った。


「ちょっとは頼ってよ」

 可愛く拗ねたように口をとんがらせて。


 誰だ、お前は?

 あと突然、何を言い出すんだ、こいつは?


 アルクがじ〜っとこちらを見ている……がすぐにため息一つ吐いて目を逸らしやがった。


「アルクまでなんだよ?」

「……いえ、ただメラクル殿のお言葉は皆の共通する想いで御座います」

 殿って……お前らの中でメラクルはどんな位置付けよ?


 そのアルクは出発前、同じ公爵邸で働く侍女と夫婦になった。

 当初は戦争が終わったらと言っていたが、盛大な死亡フラグなため断固として反対して出発前に結婚させた。


 他にも兵士たちの中でも出発前に恋人と結婚した者が多数。

 戦争前に結婚しないのは縁起が悪いと宣言しておいた。

 フラグってほら、バカにできないから。


 ところで、そもそも王国では結婚についての細かい決まりなどは特にない。

 通例や慣習などはもちろんあるし、貴族などは王の承認が必要だが、それは慣例であり必須ではない。


 王と言えど、その家が決めたことを覆そうとすれば、かなりの無理が伴い権力に大きな傷を負う。


 よって、王が結婚の承認を否決することはない。

 人民台帳の整備も万全ではない。


 国によっては教会がそういった台帳を管理していたりもするが、王国では一族内での承認、庶民では地域での承認、村社会なら村長や村役会のようなもので承認して婚姻を結ぶ。


 だから一夫一婦制とは限らない。

 当人と関係各者たちが良いなら、いくらでも結婚可能なのだ。

 極端に言えば、兄弟や同性ですら結婚は可能なのだ。

 認められるかは別の話だが。


 そうは言いつつも、相手を養える財力や家同士の関係性や世間体もある。

 裕福な商人などは妾などを囲ったりもすることもあるが、庶民ならば一夫一妻が多い。

 貴族はバラバラ。


 メラクルをめとる人物は現れるのか?

「何よ?」

「別に……」

 良い相手探してあげるからな。

 全部落ち着いたらな。

 ……何年後か分からないけどな!

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