第88話メラクルとローラ②

「私は何も分かってなかったのよ……」

「そんなこと……そんなことない!

 メラクルは皆に慕われていたわ」

 ローラは否定する。


 それに対してメラクルは首を横に振る。

「物事の本質は片側だけでは見えない。

 こいつにそう教えられたわ」


「どうでも良いが俺をこいつやらあんた呼ばわりが、俺が公爵と信じてもらえない理由じゃないか?」


 雰囲気出してるが、ちょっと不敬過ぎんか?

 ……うん、まあ今更どうでも良いし、こいつにかしこまれても気持ち悪い。


「うるさいわね! じゃあ、どう呼べば良いのよ!」

 どう呼ぶも何も……。


「そんなの好きに呼べば良いだろ?

 公爵でも閣下でもハバネロでも、まあ、レッドでも良いがな。

 あ、『様』は付けろよ?」


 全員好きに呼んでるだろうが。

 最初からこいつだけ、あんたやら公爵やら適当な言い方してるから『様』を付けるだけ上等だ。


「どう聞いてもあんたのソレが疑われる理由じゃないの……。

 あんた……、ファーストネーム呼ばせるのどんな意味があると思って……あ、姫様? こいつ絶対分かってないだけだから。

 私がファーストネーム呼んでたらシャレにならないわよ」


 社交界では大問題だがな、どうせ俺が王都の中枢に関わる気はない。

 対外的な見た目だけ取り繕えばなんとでもなるだろうよ。


 ふと見るとユリーナが頬を膨らませている。

 やばい、超可愛い。

 我慢出来なくなった俺はユリーナを優しく抱き締める。


「無論、レッドと呼び捨てにしても良いのはユリーナだけだ」


 メラクルの後ろに隠れるユリーナの手をそっと引く。

 あ、抵抗される。

 グイグイと軽く引っ張るが出て来ない。

 残念。


「あ〜、はいはい、とりあえずバカップルが好きにやってるうちに話進めるけど、要するに大公国だけで見れば正しいように見えて、外に出てみると全く正しいことじゃなかったと言うことよ」


 半ば投げやりにメラクルは話を進める。


「メラクルが美人なのに大公国では合コンで上手くいかないのと同じで、外に出ればモテモテということ?」

「うるさいわね! 合コン関係ないじゃん!

 相変わらずモテないわよ!」


 ローラまで茶化す。

 美人なのにモテないのね、ホロリ。


「ちょっと! 公爵!

 わざとらしくハンカチで目元を押さえたりしないでよ!

 同情するなら、良い男紹介してよ!」


 喧々轟々けんけんごうごうと俺に食ってかかる。

 そういうところがモテない理由なんだろうねぇ。

 友達としてなら面白くて良いやつなのにな……。


 見ろよ、ラビットなんてドン引きしてるぞ?

 他の男は全員、面白いモノを見る目で見ているが。


 美女なのに……、世の中上手いこといかないね……。


「やめてよ〜、そんな同情の眼差し〜。

 殺されかけたことよりそっちの方が悲しいわ〜……」


 ヨヨヨとわざとらしく倒れるのをユリーナがそっと支える。

 メラクルはふとその支えてくれるユリーナをジトッと見て。


「……前までは姫様も同じ男運無い仲間だったのに、すっかりイチャイチャバカップルの仲間入りして。

 女の友情って、そうよね」

「バカップル違う、バカップル違う」

 ユリーナが必死に横に首を振る。


「あ〜……、上手くやってるようで良かった、安心したわ。

 変わり無さそうだし」

 ローラが遠くを見るような目で、顔を逸らしながらそう締め括った。


 結局、なんの話だっけ?


 とにかく俺は再度、全員をテーブルの地図を見るように指示を出す。

 駄メイドも嘘泣きをしつつ、ユリーナと一緒に。


 ユリーナは一生懸命メラクルの良いところを褒めている。

 うむ、ユリーナの好感度がさらにアップだ。

 当然、とっくの昔に好感度限界は超えてるが。


「なあ、大将。

 マジでなんの話だっけ?」

 黒騎士も呆れ気味。


「駄メイドのことは気にするな。

 いつものことだ。」

「このやり取りいつもなんだ……。

 ところで駄メイドって何で?」

 ガイアもヘニョっと眉を下げて、複雑そうな顔でそんなことを聞く。


「メラクルは当初、メイドに扮して暗殺に来たからな。

 その流れでそのままウチでメイドとして雇ってる」

 メイド服姿のメラクルがドヤァと胸を張る。


「……え?」

 ガイアが信じられないものを見たような顔をする。


「暗殺者をメイドとして雇うとか、公爵閣下は変わってるな……」

 普段は飄々ひょうひょうとして軽口を叩くようなレイルズさえも、引き攣った顔でそう言った。


 そうだよなぁー、俺も変だと思うよ?

 でもしゃーないじゃん?


「もうどうでもいいから話を続けてくれよ……」

 完全に脱力したように肩を落としラビットはそう言った。


「……うん、すまん」

 俺は正直に謝った。

 今は仮面を付けた赤騎士だから謝っていいよね……。

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