第89話今後の流れ

「……話を戻すが、そんな訳でここはもうユリーナたちが離れても敵の侵攻はないし、あっても少数だ。


 ユリーナたちを置いて逃げ散った不届きな王国兵は、指揮官を処罰して公爵の名で無理矢理呼び戻して、頭をすげ替えておいたから兵100も居ればどうにでも出来る。


 形式上は大公国が守りについていることになっている。

 どうせ王国が落ちれば、大公国も降伏せざるを得ないから、帝国も無理してこちらに兵を回すことはない」


 それを1番避けたいから、俺は無理をする訳だがな。


 王国の西側に帝国があり、俺たちが居る場所は王国の南側に位置する。

 この地方に公爵領があり広いが森がいくつもあり、大軍が移動するのには適していない。


 公爵領を東に行くと大公国がある。

 王都はやや北寄りの中央にあって、ユリーナが気付いた通り、帝国がこちら側から攻めるには効率が悪すぎるのだ。


「そんな訳で主力は帝国と接する中央部と北部側になる」

 俺たちの居るのが南方とするなら、帝国と王国両方を流れる大河を北に渡ると中央部になる。


「ユリーナたちにはその大河を登り帝国中央部に入り、さらに西側に向かった先にある帝都にてオーバル帝国宰相を討ち取ってもらいたい」

「おい、俺たちだけでか?」


 ラビットがいぶかしげな表情で即座にそう言った。

 レイルズも真面目な顔で地図を眺めたまま問い掛ける。


「公爵閣下。

 流石にそれは無理がありませんか?

 傭兵団を合わせたところで、50にも満たない数ですが?」


「言わんとするところは分かる。

 帝都にはまだ守りとして3000の兵が居る。

 その内、1000は共和国と教導国への国境の周りに配備されているが、まだ2000は残ったままだ。


 こちらには戦力の余裕が無いし、下手に数を集めたところでその2000が本格的に動かれる方が不味い。

 むしろ50でも多いほどだ。


 故に半数は帝国に入るための段取りで動き、帝都の襲撃は少数精鋭で仕掛けるべきだ」


 何やら考え込んでいたガイアが、その話にハッと気付いたように顔を上げてこちらを睨んだ。


「あまりに危険過ぎる!

 僕らを全滅に追い込む気か?」


 俺はユリーナの手を引き、その身体を後ろから抱き締める。

「あれ!?」


 今度はユリーナの不意を突いたらしく抵抗されなかった。

 抱き締められて混乱しながら顔を赤くしている。

 可愛いやつよのぉう。


「俺が望んでそうするとでも?」

 キッと見返すと、流石にここまでくると全員理解したのか、周りからも諦めたようなため息。


 ガイアに至っては、信じたくないという顔をしながら上を見上げ、すぐに諦めたように深い深〜いため息を吐いている。


 宰相討伐については、ゲームでもハバネロ公爵から予想外な活躍をしてみせる主人公チームに対し、戦場で遭遇した際に依頼というか命令される。


 ハバネロ公爵が軍を立て直し、帝国に対しての反抗の一手として相手の背後を強襲し、帝国軍の動揺を誘うというのだ。


 この時点でハバネロ公爵は必ず討ち取れとは命令していない。

 あくまで後方で騒ぎを起こすことが目的で、その騒ぎは大きければ大きいほど良い。


 命を捨てて行えとは命じてはおらず、傲慢な態度はあれど、王国さらには大公国が生き残るためというお願いベースであった。


 ゲーム設定で明らかにはしていなかったが、この時点でハバネロ公爵にも帝国相手にそこまでの余裕があった訳ではないのだろう。


 裏では色々あれど、帝国との大戦時までハバネロ公爵と主人公チームは敵ではない。

 特に大戦時においては、主人公チームはハバネロ公爵の指示系統の下に居るのでハバネロ公爵が命令するのは正しいとも言える。


 ただこれについて、ゲーム設定を知る俺は少し違和感を感じた。


 ハバネロ公爵は『依頼』はしたが、命令のように強い指示ではなかったはずだが、主人公チームは多くの犠牲を出しながら、からくも成し遂げている。


 ゲーム設定だからそんなものなのか、後方撹乱だけで良かったのではないだろうか?

 それともハバネロ公爵は宰相が邪教集団の幹部であることを掴んでいたのか?

 それらの設定は出て来ない。


「実際、私も聞いてないんだけど、何で姫様たちじゃないとダメなの?

 王国の精鋭とか」


 メラクルも何とも言えないような顔で、疑問を投げ掛ける。

 先程言った話の再確認の意味もあるだろう。


 なお、ユリーナが赤い顔でワタワタしている。

彼女の耳元で、暴れるならキスするよ?というと、う〜、と可愛く唸りながら大人しくなった。

 やべっ、この娘持って帰ったらダメ?


 とにかくメラクルの質問には先程同様、軍閥派に巻き込まれて使い潰される可能性があることを説明した上で。


「王国に余力は無い。

 それにお前ら以上の精鋭って何処に居るんだよ?

 今、ここに居るメンバーが世界最高峰だぞ?

 世界最強と言われた剣士まで居るしな」


 それを聞いてローラやセルドアも照れた様子を見せる。

 ごめんな……、お前らは普通だ。


「帝都でお前たちを止めれる存在は、その例の宰相ぐらいだな」


 有能な者はほとんど戦場に来ている。

 帝国最強の皇帝親衛隊隊長のロルフレットは最前線に居るはずだ。

 それを加えた精鋭の帝国兵が王国主力と当たるから、悪夢のような結果に繋がる。


 ゲームではこの戦いでハバネロ公爵は、それを片っ端から虐殺してみせた。

 とんでもねー。


「ちょっと待って下さい。

 宰相ですよね?

 なんで宰相がそんなに強いんですか?」


 ローラが不思議な顔で尋ねる。

 ふむ、と俺は一度考える。

 ここに居るのは大半が邪神討伐に関わるメンバー。


 ローラとセルドアは途中退場したが、まさか邪教集団の仲間ということもあるまい。

 ……それにそろそろ邪教集団とも無関係でも居られない、か?


 邪教集団についてはゲームでも明らかになっていないことは多いが、邪神は奴らの手によって復活させられている。


 カスティアという名の女性が主人公チームの目の前で生贄にされて邪神が復活し、怒涛のラスボス戦に入る。


 復活仕掛けていた邪神を生贄を使うことで、邪教集団の手により無理矢理その封印を解かれるのだ。


 ただし、それは無理矢理であったため、邪神は弱体化した状態で復活するので、主人公チームの決死の戦いにより辛くも勝利するのだ。


 そこで俺はガイアの方を見る。

「な、なに?」

 ガイアは俺の視線を受けて少したじろぐ。


 女の子と分かってから、なんだかこういう時、ちょっといじめてるような気分になるなぁ……。


「ガイアは邪教集団って知ってるか?」

 こいつに俺と同じゲームの記憶があるなら知ってて当然だが……。


「邪教集団……?

 邪教を信仰している集団のこと……?」

 緑髪の小娘が不思議そうに、可愛く小首を傾げた。


 あれ!? まさか知らない?

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