第87話メラクルとローラ①
メラクルとローラが無駄な言い合いをしており、楽しそうだがキリが無さそうなので。
「もういいか?
話を進めるぞ?」
ローラはその時ようやく俺を見て、メラクルを見て、俺を見て、メラクルを見た。
「……愛人にでもなったの?」
おぉい! 言うに事欠いてなんてことを言うんだ!
ふと視線を感じてユリーナと目が合う。
おい! 何というとばっちり。
メラクルを見ると、ハンッと鼻で笑いやがった。
「……よぉうし、ここでそこの駄メイドを始末して身の潔癖を証明してやろう」
俺は剣に手を掛ける。
「ちょ、ちょっと、あんた待って! シャレにならない! 助かったのに殺される!
ひ、姫様、笑ってないで止めてー!!!」
メラクルはユリーナに必死で訴える。
ユリーナはクスクスと笑いながら、俺の手に触れる。
「冗談ですよ?」
「そうか、分かってくれているならそれでいい」
「相変わらずあんた、姫様にちょろいわね……」
当たり前だろ?
愛しい婚約者だからな。
ユリーナは何故か苦笑いで、ほんとなんでこの人、こうなっちゃったんだろ?と。
ユリーナが美しいせいだな。
「……やっぱりその公爵閣下は、王国のハバネロ公爵とは別人なのでしょうか?」
ローラがおずおずと尋ねてくる。
やっぱりってなんだ、やっぱりって。
ガイアやラビット、セルドアはそうなのか、と俺の偽物説を信じそうな勢い。
「本物だぞ?」
「本物、のようですよ?」
俺の後にユリーナが肯定する。
本物のようですよって、ユリーナ……。
俺と目が合うとまたクスクスと笑う、分かってますよ、と言うふうに。
「とりあえず抱き締めていいか?」
「ひょっ!?」
驚いてメラクルの後ろにユリーナは逃げる。
「おのれ、メラクル・バルリット!
やはり我が行く手を阻むか!」
「……いやそれもういいから。
流石に姫様、婚約者同士のイチャイチャに私を巻き込まないで、辛くなるから……」
がっくりと駄メイドが肩を落とす。
その後ろで涙目で必死に首を横に振るユリーナ。
「イチャイチャ違う、イチャイチャ違う!」
「結局、どうして公爵閣下の元にメラクルが身を寄せることになったのですか?
メラクルが生きているということは、一体何が起こっているのですか?」
ローラの問いにふむ、と俺は一旦考える。
どうせ、これからさらに深い話もせねばならないのだ。
ある程度の情報開示は仕方ないだろう。
「まず最初に言っておくが、メラクルが生きていることをこの場に居る者以外で話すことは一切禁止だ。
もしもバラせば、少なからずユリーナ及びその部隊に居る者全てに重大な危機が訪れる可能性がある」
ラビットが不思議そうな顔をする。
「俺たちにも、か?」
「ああ、むしろお前たちの方にしか攻撃の手は向かないだろう。
腐っても公爵家の壁を超えて、この駄メイドに手を出すことは不可能だ」
いつの間にかテント内の椅子にちょこんと腰掛けていたガイアが手を挙げて質問する。
「それは……、メラクルさんを殺そうとしたのが、大公国の人間だからってこと?」
小首を傾げる様子は可愛らしい。
「うむ、その通りだ。
その前に質問だが、最強剣士のガイアは女性なのか?」
「……そうだけど、公爵様は僕が男に見えるの?
それ何か関係ある?」
あっさり認めたぞ〜?
ゲーム設定と違うのはもう今更というべきか?
最強と呼ばれる剣士に睨まれたけど美少年ではなく美少女の睨みと思うと怖くないのは、何故かしら〜?
本気で睨んでる訳ではないからだな。
「……いいや、全くない。気になっただけだ。
ユリーナにたかる余計なハエが減って喜ばしいだけだ」
「今、俺らのことハエって言った? 言ったよな?」
憎き青髪ラビットの声は当然無視だ。
……というか、こいつがマーク・ラドラーというのなら、主人公なのも
そもそもゲームでは主人公とマーク・ラドラーは別人だ。
リュークがゲーム主人公の名前だったが、そもそもゲーム設定では名前は自由に変更可能だ。
名前が変更可能とか、よく分からない話なのだが。
それにラビットの本名がリュークなのかもまだ分からない。
そうとは言っても、共通項は多い。
本名は聞いてないがリュークだとして、能力Aも同じ……あれ? 共通項そこだけか?
聖剣も名前違うし。
あれ? ゲームだからと流していたが、そもそも主人公ってなんだ? どんな意味があるんだ?
結局、プレイアの聖剣は何処行ったんだ?
重要アイテムじゃないのか?
確か預言者と関係があった気がするが……。
う〜む、いずれは預言者とも会わなければならないと思うが、何処に居るのか分からないんだよなぁ。
預言者なんて呼ばれる人物居ないしなぁ……。
ま、とにかく今は、メラクルのことについてだ。
「信じたくはないだろうがな。
メラクルを殺そうとしたのは、大公国の人間だ。
俺の暗殺を失敗したから、口封じにメラクルを殺そうとしたのだろう。
その結果が真に大公国のためだけならば大きく問題ではないが。
それなら、そもそもメラクルを始末しようとする必要がないのだがな。
メラクルは俺の暗殺は失敗しても、決して大公国を裏切った訳ではないからな。
残念ながら、メラクルが生きていることを相手が知って、ユリーナたちにどう影響するかは今は全く分からない。
更なる凶行に出るか、それとも。
故に、メラクルのことは今は秘密だ。
……特にメラクルの元部下には、な」
その言葉にローラは息を呑む。
「メラクルを殺そうとした者がメラクルの部下だとでも!?」
「……だとでも、じゃなくて、そうなんだよ」
俺がそう言うと、メラクルはローラに寂しそうに笑いかけた。
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