第84話メラクルバレる

 改めて他のメンバーに向き直る。

 自分がやらかしたこととは言え、この空気の中で作戦について説明するのはキツいなぁ。

 なんとも言えない微妙な空気……。


「閣下、少し休憩を挟まれた方がよろしいかと」


 サビナが丁寧に頭を下げる。

 この空気を察して間を置くように提案してくれたのだ。

 ありがとよ……。


「……いや、そうしたいがこの状況下だ。

 あまりゆっくりもしていられない。

 後方とは言え限度がある。

 疲れているところ悪いが、もう少し付き合ってくれ」


 先程、ユリーナにちょっかい出してたから時間がなくなったんじゃないのか、と皆が思っていそうな雰囲気だ。


 仕方ないだろ!

 滅多にユリーナに触れないんだ!

 婚約者なんだからこれぐらい許せ!


 ……まあ、だから誰も何も言わないのかもしれないが。

 それとも悪虐非道のハバネロ公爵のイメージと違いすぎて絶句してるだけ?

 それでも全員、文句を言うでもなく俺の方に耳を傾けている。


「早速だが今の状況を説明しよう」

 俺は全員を見回し、テーブルに概略地図を広げてそこに今の各軍の配置を書いていく。


「ここに帝国の本隊に5000、こちらの王都を狙うルートに陽動……と言っても大公国の全戦力の4倍以上の2000はいるからな?

 それで帝国本隊と対するのが王国本隊4000。

 王都防衛側は軍閥派の部隊である王都近衛が中心で1500。


 貴族派は一部本隊合流で、俺を含む大半1500程は予備役……この場合は本来の意味ではなく、後方待機だな。


 王国への主な侵入路は3つ。

 グロン平原を突っ切るルートに、シュミエール山脈を迂回するルートに、この俺たちがいるレクト大森林の横を通るルートだ。

 それでレクト大森林からの大規模な侵攻はない。

 これは分かるな?」


 ユリーナがおずおずと手を挙げる。

 はい、ユリーナ君。


「こちらのルートは大公国に向かうには最短ルートですが、王国の主要部を狙うにはどちらかと言えば僻地へきち

 帝国からしてもこの地域を確保してもメリットがないから……でしょうか?」


「正解。

 それに王国主力が軍閥派が中心であることは知られているだろうから、貴族派が前線に出ないこともバレているはずだ。


 わざわざ貴族派の公爵の領地のあるこちらの地方に侵攻するには、無意味に戦線を広げるだけで悪手と考えることだろう。

 優秀な生徒で嬉しいよ」

 先生と生徒で禁断の恋だね!


「何故かしら? あんたが何か下らないこと考えている気がする。」

「気の所為だ、駄メイド」


 そこで遠慮がちにローラが手を挙げる。

 ん? 珍しいな。

「何か質問か?」


 公爵相手ということで緊張してか、それとも今の状況を気にしてか、ローラは戸惑いがちに俺を見て、ユリーナを見て……メラクルを見た。


「……お話の途中、すみません。

 あの……、もしかしてなのですが……、メラクル?」


 俺はメラクルを見る。

「バレたぞ、駄メイド」

「あんた、それ毎回喧嘩売ってるわよね?

 言ったでしょ、ローラにはすぐバレるって」


 メラクルはジト目で返して来たが、すぐにローラの方に顔を向け……仮面を外した。


「久しぶりね。

 元気そうで何よりだわ」


 そう言ってメラクルは微笑む。

 ポンコツなことさえ言わなければ美女なんだよなぁ〜。


 その顔を見たローラは口をポカーンと開けて、やがて口を閉じたと思えば、みるみる目に涙を溜めて……泣き出した。


「うわぁ〜ん!

 メラクルー!!」

 泣きながら飛びついて来たローラをメラクルは優しく抱き止め、背中をぽんぽんとあやす。


 メラクルがユリーナに再会して抱きついたのと逆パターンだな。


 寡黙かもくで真面目な聖騎士の印象しかなかったローラだが、今は実に情のある女性だということが分かる。


「メラクルが死んだって聞いて、キャリアもクーデルもコーデリアもサリーもソフィアも皆、悲しんでたんだよ!

 生きてたなら連絡ぐらいして欲しかった。

 ハバネロ公爵の罠に掛かって殺されたって、聞い、て……」


 そこでローラは言葉を途切らせながら、俺を見ている。

 ローラは俺が知らぬ人物の名を口にしたが、メラクルの同僚や部下、友人の名だろう。


「罠に掛かったって聞いて……、聞いたはず……? なんだけど……?」


 そうですね、罠に掛けたというハバネロ公爵と一緒に居ますね。


 涙を流した後の顔で、どういうこと、とメラクルに対して首を傾げる。


 そこで何かに気付いたようにハッとする。


「ま、まさか!? 図ったわね! 偽メラクル!」


 なんでやねん!


 思わずツッコかけたが、それより前に当然の如くメラクルが反応する。


「なんでよ! どうやったら私を偽物だと思うのよ!

 この完璧な美女がそんなに簡単に居てたまるもんですか!」


 それに対してローラが目を見開く。


「ま、まさか!? 幽霊!?

 お願い成仏して!

 ナンマンダブ、ナンマンダブ……」

「ローラも道連れだぁ〜、ってなんでよ!」


「大公国の聖騎士はあんなポンコツばっかりか?」

 ローラを指差し、近くに居たセルドアに尋ねる。


「いえ、そのようなことは、ない、かと……多分。

 ローラもメラクル殿も任務の時にはキリリとしており、近衛隊の中でも一際目立つ存在ではありましたが、あのような姿は一度も……」


 メラクルもそうだが、銀糸のような艶やかな髪を持つローラも美女と言えた。

 だけど、2人とも美女の前に『残念』の文字が付きそうだ。


「つまり、2人とも素がポンコツなんだな」

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