第81話赤騎士の正体

 ラビットことマーク・ラドラー、ガイア、騎士レイルズ・カートン、ローラ、セルドアがテントに入って来た。


 その5人が来る直前までユリーナを離さなかったが、話が出来ないということで泣く泣く離れる。


 メラクルは念のため仮面を付けたまま。

 メラクルの元部下はテントに入れないが、念のためである。


 それでなくてもメラクルはローラとセルドアとは顔を合わせたことがあり、ローラに至ってはまずバレるだろうとのことだ。


「説明してくれる、ということで良いのかな?」

 ガイアはチラッとシルヴァを見て、それから俺の方に視線を合わせそう言った。


 この段階でシルヴァが居ることを疑問に思ったか?

 いや、ガイアのゲームでの参入は大戦後である。

 ならば単に後の仲間であることを認識しただけなのかも知れない。


 むしろ、俺に対してあんたがなんでまだ居るのか、と思っているのかも知れない。


 ある意味でこいつに色々とバレる方がマズイのかもしれない。


 ユリーナに言わせれば、とても真っ直ぐで良い娘であり、人を裏切ったり誰かを貶めたり出来る子では無いと。


 俺が知ってるゲーム設定でもそうだった。

 それならば、この状況はとんだイレギュラーかな?


 大きな敵の1人であるはずのハバネロ公爵が全面的な味方だということは、ゲーム設定からしてもガイアの記憶からしてもあり得ないことでは無いか?


 だが、である。

 いつかは伝えねばならないだろう。

 何故ならガイアは世界最強と呼ばれる剣士。


 今は良くとも、邪神とその先、今は勝てる方法が皆目見当も付かない悪魔神との戦いにおいて、ガイアの力は必須だ。


 そうであるならば、出来るだけ早く仲間に引き込まなければ、ユリーナの安全にも大きく関わってしまう。


 むしろゲームでもまだ序盤とも呼べるこの段階で、味方であろうとここに居てくれるならば、それは非常に都合が良いことのようにも思う。


 ユリーナの苦難はむしろここからなのだから。


 ラビットを見る。

 特に俺を警戒しているようには見えない。

 強いて言えば、シルヴァがここにいる事については疑問を抱いているらしく、戦闘終了後にシルヴァを見た時には一瞬だけ訝しげな顔をしたが、すぐに素知らぬ顔に戻していた。


 まだ気付かれては居ないのだろう。

 普通に考えれば、この男との対応は1番気を付けなければならない。


 今からの話は、俺の最大の弱点がユリーナであることを知られることでもあるからだ。


 交渉により和睦に至ったとは言え、それはマーク・ラドラーが他のメンバーに配慮して恨みに蓋をしているだけのこと。

 今も奴の心を煮えたぎった恨みは収まってはいないだろうから。


 レイルズ・カートンは飄々ひょうひょうとしたチャラそうなオッサンだ。

 ユリーナに手を出したら、地獄以上の地獄を見せたる。

 ゴゴゴと威圧すると、呆れた顔でユリーナに小突かれた。


 何を考えたか分かったらしい。

 以心伝心ね!


「……いや、あんた姫様を前にすると単純になり過ぎるだけだから」

「な、なんだと!?

 駄メイド茜の騎士にまで見破られたというのか」

 俺は愕然がくぜんと呟く。


「いい加減泣くわよ」

 怒るじゃなくて、泣くんだ。

 それはそれで鬱陶うっとおしそうなので、ほどほどにしておく。


 多分、実際に泣かれたらとっても動揺する。


 どうにもこの駄メイドに俺が緊張していることに気付かれて、大丈夫と励まされた気がする。


 ……気のせいではないのか、メラクルだけではなく、その隣でサビナも軽く微笑む。


 ここで赤騎士の正体を主人公チームにバラすことは2人にも話してある。

 それが必要であるが、俺にとって最もしたくないことでもあることも。

 この結果次第で、ユリーナが最大の危機に陥る可能性があるからだ。


 姫様をもっと信じなさいよ、とはメラクルの言だ。

 俺と同じユリーナ第一主義のメラクルがそう言うのだ。

 きっと大丈夫。


 ……それにここからの戦いは易くはない。

 邪神討伐まで可能としたゲームでの展開も、あまりに多くの苦難をユリーナに与えた。

 今度はその先、悪魔神という悪夢まで越えなければならないのだ。


 ここで名乗るのは他にも理由がある。

 シルヴァが俺に雇われたことで、俺の意を汲んでユリーナを護衛してくれる人間が増えたからだ。

 最悪、ラビットが恨みを抑えきれなくとも、部隊の数的優位は覆らないからだ。


 もっとも、そうなると部隊そのものは崩壊してしまうのだが。


 ローラとセルドアを見る。

 信じられるかどうかも分からない。

 ゲームでは深い情報はなく、いつの間にかゲーム上から去った2人。


 裏は取ってある。

 ユリーナへの忠誠は疑いようがない。

 それが大公国とユリーナ、どちらを取る忠誠か。

 そこまではまだ分からない。


 俺は一度目を閉じて開く。

 黒騎士が口の端を上げて面白そうに。


「大将、最悪でもなんとかしてやるよ。

 だからあんたらしく面白く行けばいいさ」

「ぬかせ、ミヨちゃんを今度こそ紹介してもらうぞ」


 ミヨ関係ねぇだろ!! そう黒騎士が訴えるのを無視して、ガイア、ラビット、レイルズ、ローラ、セルドアに顔を向け……。


 仮面を取り、5人を見る。


「我が名はハバネロ。

 まあ、よく知ってる通り王国の公爵だ」


 息を飲む彼らに、口の端に笑みを浮かべながら、そう名乗った。

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