第80話リターンEX
私は死ぬはずだったらしい。
捕らえられた時は内心で、『あっ、私死んだ』と覚悟したんだけどね。
正確には廃人になるはず、だったかな。
廃人ですかぁ〜!?
死は覚悟して来たけど、凌辱はやめてぇー!
これでもまだ清い身体なのよー。
悪いかゴラァアア!
クッ殺せ! その言葉は世の中で通じないことが実証された。
結局、暗殺しようとした本人に助けられて廃人にはなってないけど。
その
多分、元々居なくなるはずの人間だからだそうな。
どういう意味?
そもそもあいつの周りはそんなに敵だらけだったのだろうか?
サビナもセバスチャンもアルクもカロンたちも、皆、あいつに忠誠を誓っているのに、まるで最後の一線を信用しないように一歩引いているところがある。
前にサビナとお酒飲んでその話をした時、グラスを軽く揺らして、寂しそうな顔すんのよ?
それがまたクールで似合うの、羨ましい。
サビナはなんだかんだでモテるのに、私には浮いた話が来ない、何故?
それはともかく、あいつはいつも詰んでるという。
何がそれほど『詰んでいるのか』、私たちには分からない。
説明を聞くと成る程と思うのだけど。
王国内部でも敵だらけだ。
王国は大きく貴族派と軍閥派の2派に別れていて、公爵は貴族派のトップだが実態は後ろ盾のバグラット・ハーグナー侯爵の傀儡。
今は違うみたいだけど。
軍閥派は軍務大臣レントモワール卿と第2王子ガストルと第4王子マボーと敵対関係。
つまり貴族の大半が敵ということ。
あ! やっぱり敵だらけだわ、あいつ。
それでも王と王太子は敵ではなさそうだけど、どうなんだろ?
婚約関係により後ろ盾の一つになるはずの大公国との関係は決して良いとは呼べない。
過去に公爵が大公国に対し無茶を言い過ぎたせいで、多くの者は恨みさえしている。
それが積もりに積もって暗殺者……私なんだけど、それを送って来られたほどだ。
それもあいつの推測では、味方のはずのレントモワール卿が公爵と大公国との繋がりを潰して、自分の一族を公爵家に嫁として入れるために仕掛けられたと。
どうやってそんな裏事情、分かったのよ?
そりゃあ、公爵という立場ならそれなりの諜報部隊はいるだろう。
だけど、それでは足りないのだ。
黒騎士のこともなんで知ってるのよ?
ミヨちゃんたち一族は隠れ里に住む忍びと呼ばれる諜報の一族。
その一族が気付かない内に、公爵に存在を知られていると聞いた時のミヨちゃんの表情は青いを通り越して白い顔だったわよ?
口を滑らした私を拷問してでも、口を割らせるという気迫があったわ。
助けられたのに殺されかける、これ
黒騎士の仲間ということで、許してもらえた。
後日、やって来た黒騎士が説明してたけど、黒騎士の説明も酷いものだった。
『敵ではない。それで割り切れ』
そりゃあ、それ以外無いわよね?
そんな説明なのに黒騎士は一族でも、特別な存在みたいで皆も大人しくなったわ。
ミヨちゃんだけは怒ってたけど……、あれはイチャイチャしてただけね。
良いなぁ、私も旦那になるようなイケてる幼馴染が欲しいと言うと黒騎士とミヨちゃんの2人から怒られた。
何故……?
私のこともそうだ。
そりゃ確かに暗殺未遂をした私の末路なんて悲惨なものだろう。
だけど、それがなんで『廃人』にされると分かるというの?
普通、処刑じゃないの?
それも処刑者はあんたじゃないの?
あんたは処刑せずに、あんたに気付かれない内に他の誰かが私を廃人にするとか知ってるとか矛盾してる話だと気付いてる?
それとなんで私の姫様の呼び方知ってるのよ?
今はお姫様(おひぃさま)じゃなく姫様(ひめさま)だけど。
お姫様呼びは子供の頃の呼び方だ。
それを知ってるのが逆におかしい!
おかしなところはいくつもあれど、暗殺しようとした直後にあいつを信じる気になったのは、簡単な話で姫様への愛が本気なのはよく伝わったからだ。
『だからいつも、もう少し周りを見なさいと言ったでしょ?』とユリーナが泣きながら“言ってたんだぞ!”
あいつはあの時、そう言った。
まるで『起こった未来の話』をするように。
おかしな話だった。
でも本気なのは伝わった。
姫様が言いそうなことだったから。
もしも私がそうなっていたら、普段は気丈な姫様は絶対、そう言って……泣く。
だから、信じた。
信じたことが正しいと言い切れるほど、あいつは噂とは全く違った。
何か隠していることはハッキリしている。
それも私も含めて全員に関わる何かを知っている。
でもサビナもセバスチャンも何も聞かない。
答えないことを分かっているからだろう。
反乱分子のこともそうだ。
反乱分子とは、反社会組織であり時にはテロなども行い
マーク・ラドラーだったか?
死の商人、つまり武器商人で反乱分子の親玉。
その居所も拠点も突き止めているとか。
それを交渉で受け入れると。
その理由は姫様の力になる存在だから、と。
あの男の中ではそればかりだ。
それに……。
「帝国が攻めて来て、王都まで追い込まれるってどういうことよ!
邪神が復活間近って、なんであんたが知ってるの!?
それと悪魔神って何よ!!
あー、ムカつくムカつく!」
思わず独り言を口にする。
私は
そのくせ、しかも……、しかもなのだ。
「何よ! あいつ、あんなに姫様にアプローチしといて!」
あの男は自分が姫様と結ばれると『思っていない』のだ。
あんなに姫様第一主義の『婚約者』のくせして、将来は姫様を嫁にもらうはずなのに、だ!
自分が姫様を見るときに、あんなに愛しさを感じさせながら……、届かない人を見るように寂しい目をしていることに気付いていないのだ。
それがまたイライラするのだ。
まだ何か重大な事実を隠しているのだ。
あいつにとって、すっごく大切にしている、全てとも言っても良いはずの『婚約者』を失う重大な何かが。
それを言わないのも、姫様だけ守れたら自分のことなんてどうでも良いと思ってるからだ。
口ではどうこう言いつつ、あの男は……あいつはそれしか頭にない。
「ムカつく!!」
なんで自分がムカついてるのかも分からないけど、これだけは言える。
あいつに自分を大切にさせるのだ!
「見てろよ! レッド・ハバネロ!
私は聖騎士だ!
あんたも護って見せるからね!!」
帝国との開戦前夜のこと。
私、メラクル・バルリットは部屋で1人宣言する。
詰ませてなんかやらないんだから!!
それはそうと……。
狙っていたモドレッドはマーク・ラドラーとの交渉に行っている間に、サビナとちょっと良い雰囲気になっていた。
もちろん、友人として心から喜ばしいし応援している。
だが、それはそれ、これはこれである。
大公国にいた頃、男に縁が無い仲間の筆頭であった姫様は見事に、その婚約者にベタ惚れされている。
性格はともかく、ハバネロは顔も良ければ腕も頭も良く地位もある、つくづく嫌われ者でさえなければ、誰もが羨む超優良物件である。
嫌われ者でさえなければ。
姫様超LOVEなので惚れたら最後、不毛な訳だけど。
「私も彼氏ほぴい……」
メラクル・バルリット22歳。
世間一般からはともかく、王国貴族などは10代で結婚や婚約者がいるもので。
それから見ると、ちょっと、ほんのちょっとだけ、行き遅れ……である。
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