第79話銀翼傭兵団

 シルヴァを含めた6人で、傭兵団が用意した会議用のテントの中に入る。


 1人多いって?

 フルフェイスを付けたサビナが付いて来ているのだ。

 カラーレンジャーには入らず、傭兵に混じって隠れていたのだ。

 流石にサビナが居ると俺の正体がバレバレになってしまうからだ。


 周りは銀翼傭兵団の中でも、信用におけるメンバーで囲っている。


 そのため中に入るなり、当然、俺はユリーナを抱き締める。

「ですから! 私は婚約者以外に抱き締められたりはしません!」

 そう言って力付くで俺の腕の中からユリーナは抜け出し、こちらを威嚇するように睨む。


 俺、婚約者……。

 それにそんなに嫌なら言ってくれれば解放するのに……。

 ちょっと切ない……。


「大将、仮面仮面」

 黒騎士が顔を指差す。


 あっ、と思い仮面を外す。

 サビナもフルフェイスを脱ぐ。

 暑いよな、ごめんなぁ〜、苦労を掛けて。


 恐る恐るユリーナに手を伸ばすが、今度は逃げない。

 優しく腕の中に囚われユリーナからも抱き返してくれた。


 俺の頭の中で花畑の花が一斉に咲いた。

 ユリーナの中で、赤騎士はただのファンでありハバネロは婚約者と、自分なりの線引きがあるらしい。


「ねえ、ポンコツ大将。

 話しないといけないんじゃなかったの?」


 元祖ポンコツ娘のメラクルがジト目でそう言う。

 言い方はともかく、言っていることはもっともだ。


「そうだな。

 ユリーナの部隊には、このシルヴァ率いる銀翼傭兵団と共に帝国宰相オーバル打倒を目指して貰いたい。

 シルヴァは俺の事情も知っているから、何か俺の方に連絡を付けたい時は黒騎士でもシルヴァの方でも、どちらかに伝えて貰えれば構わない。


 本当は正規軍を回したいところだが、そんなことになればユリーナたちも軍閥派に取り込まれ、どんな目に遭わされるか分かったものではない。

 それに正規軍もピンキリだ。

 下手な部隊より銀翼傭兵団の方がよっぽど信頼が置ける」


 シルヴァは髪をかき上げ、任せておきたまえ、と頼もしい言葉。


 このシルヴァだが、公爵邸を突然訪問して来て俺に雇って欲しいと言って来た。


 他にもいくつか王国御用達のような扱いの傭兵団が居るので、ゲームではそこと一緒に王国に雇われたのか、それとも自らで雇われに来たのか。


 ゲームではそのまま王国軍に雇われたが、名誉欲に目が眩んだ軍閥派から大公国が配置されている辺境に回され、混乱の最中、部隊の3分の1を失いながら主人公チームと合流して共に戦場を駆け巡ることになる。


 シルヴァと銀翼傭兵団はこの戦いの後、そのまま主人公チームに入りハバネロ公爵討伐、邪神討伐を戦っていく。


 そういう流れであるが、今回はシルヴァから俺の方に営業を掛けてきた。

 腕の良い傭兵団はいりませんか、と。


 ゲーム設定では特に情報もないが、シルヴァたち銀翼傭兵団は傭兵団の中では新参であり、今回の大戦をチャンスとみてこんな風に俺に営業を掛けてきたのだろう。


 他にも出来たての傭兵団のいくつかが王国、おそらく帝国にも渡りを付けているようだ。

 それはそうだろう。


 今回のような大規模大戦は珍しく、小競り合いとは違い大きく儲けるチャンスなのだ。


 しかし俺のところにも銀翼傭兵団のように多数営業に来ているかと言えば……全くそんなことはない。


 当然である。

 誰が悪虐非道のハバネロ公爵の元で戦いたいと思うだろうか。

 傭兵団というのは、その命を切り売りして金を稼ぐのである。

 命を賭けるのに危ないと思われる場所に、真っ先に向かうバカは居ない。


 では何故シルヴァが俺のところに来たのか、であるが。

 ギャンブラーなのもあるだろうが、マーク・ラドラーたち反乱軍(正確には反乱分子止まりだが)から情報を得たからだと言う。


 無論、シルヴァは反乱軍やマーク・ラドラーの関係者ではない。


 ただ反乱軍がその活動の中で本格的に動く際には、銀翼傭兵団を雇えないか水面下で動いていたためだと言う。


 本来は信用第一の傭兵団である以上、依頼主候補となる反乱軍の情報を売り渡すようなことはしない。

 今回は逆に反乱軍側が、こちらの信用を得るために『紹介』して来たと言うことだ。


 そんな流れもあって雇うことが出来た銀翼傭兵団だが、こちらの南方戦域に連れてきたことは実は少し危うい。


 もちろん俺が正式な雇い主になった以上、銀翼傭兵団は秘密はきっちりと守るだろう。


 そうではなくて俺と銀翼傭兵団が一緒に居ることで、俺がハバネロであることをラビットが気付く可能性があるからだ。


 すでにこの段階で疑念程度はあるだろう。

 なので俺はバラすか秘密にしておくか選択に迫られることになる。


 だったらここに来なければ良いのに、と言われそうだ。

 俺がユリーナ逢いたいし、で来た……という訳では勿論ない。

 何を押しても逢いには来たいが、それはユリーナの安全という最優先事項を確保してからの話だ。


 ラビット……反乱分子の頭領マーク・ラドラーにバラしてリスクを負ってでも俺がここに来て、これからのことについて説明が必要だったからである。


 なので結局は特定のメンバーには、ここで赤騎士の正体をバラすこととなる。


 まったくいつでも辛い現状だ。

 たった一つのミスで詰むことになる。

 これは、そんな話だからだ。

 願わくば上手くいきますように……。


「それであんた、いつになったら姫様離すの?」


 メラクルがジト目で行ってくる。

 腕の中のユリーナは既に真っ赤な顔をしている。


 良いじゃねぇか、もう少し。

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