第78話我が名は赤騎士、おまけの駄メイド

「……何をしてらっしゃいますの?」

「え? ユリーナ、様の援軍」


 キッと可愛い顔で俺を睨みつけるユリーナ。


『貴方、指揮官でしょ! なんでこんなところに居るのよ!さっさと軍を指揮しなさいよ!!』

 通信で話しかけながら、わざわざ首根っこ引っ張られグイッと顔を近付け。

 側から見れば、とってもお怒りに見えるユリーナのお姿。


 わぁお! 美しいユリーナのご尊顔が間近に!


 クンカクンカ。


 戦場は生易しくない、そんな匂いである。

 それでもユリーナの匂いがして嫌いじゃない。

 殴られた。


『言ったじゃないか。初戦は俺がしゃしゃり出ると、軍閥派が抗議してくるから動けないんだよ』

 俺は肩をすくめて見せる。


『そうですが……しかし、そこまで……』

『残念だが、そこまで腐ってんだよなぁ……』


 戦争してるのに内部で争おうとするなんて……。

 実際にそうなんだから仕方ない。

 よくあることだ。


『戦争を放り出して来ている訳ではない。

 それを理解してもらえればそれで良い』


「というか!?

 赤騎士はまだしも、茜の騎士ってなんですか!?

 あとそこの銀の方は誰なんです!?」


 ふえ? と駄メイド騎士、いやいや茜の騎士は目を見開き、銀騎士についてはフッと髪をわざとらしくかき上げる。


「姫様にもうバレた!?」

「バレるに決まってるでしょ……」

 メラクルの動揺にユリーナは肩を落とす。


「この銀騎士は『銀翼傭兵団』の団長シルヴァだ。

 こんなのでも信用出来る男だ」

「よろしく、お姫様」


 そう言いながらシルヴァ・リコールはわざとらしく髪をかき上げる。

 シュッとした美形でナルシストっぽい。

 そこに残念感が漂う。


 シルヴァはこれをわざと『らしく』ではなく、わざと『そうしている』。

 これで相手の反応を確認して、信用出来るかどうか見極めるのだそうだ。

 ……半分以上は本気のナルシストなんだと思う。


 傭兵団というのは、本来荒くれ者で団によっては山賊と大差がない。


 冒険者や傭兵団から英雄になる。

 残念ながらそれも夢物語の世界であり、多くはただの社会からのはみ出し者で学がある者も少ない。

 だからまともな判断が出来る存在さえも貴重なのだ。

 最低限、負け戦で逃げるならまだしも裏切らない傭兵団を探すことも、なかなか困難だ。


 だが、このシルヴァは信用出来る。

 何故信用出来るかと言えば、無論、ゲーム知識だ!


 ありがとう! ゲーム設定知識!

 初めてまともに役に立った!?

 いえいえ、中途半端なだけで色々と役には立っている。


「ユリーナ、様の部隊にこの銀翼傭兵団を連れて行って貰いたいと思ってな」

「……何をお考えです?」

 ギロッと睨むユリーナ。


 あれ〜?

 前回会った時の甘い感じは何処いったんだ?


 もう一度抱き締めて愛を伝えねばならないか?

 俺が手をワキワキさせるとユリーナが後退あとずさり、聖騎士2人が前に出て来てガード。

 後ろにも大公国の聖騎士が並ぶ。


 ガイアやラビットは頭を押さえため息。

 見知らぬ聖騎士っぽい茶髪の兄ちゃんは面白そうに見ている。


「……ねえ、ちょっとあんた、なんで姫様こんなに警戒してるのよ?

 ナニしたの?」


 開戦前に会ってから一回も会ってないぞ?

 以前のことが理由なら……。

「……乙女のキスを奪った、かな?」


「万死に値する! 死ねー!!」

「あぶねーだろうぁが!! いきなり切りかかって来るんじゃねぇえええ!!!」


 メラクルがいきなり斬りかかるのを避けながら叫ぶ。

 以前の話だ!

 お前も見てただろうが! 今更斬りかかるな!


 ユリーナはそんな俺たちをため息混じりに見て、聖騎士を手で制し。


「赤騎士と……茜の騎士でしたか? 詳しい事情を聞かせて貰います。 

 ローラとセルドアは急ぎ部隊をまとめて、不足の事態に備えて下さい、頼みましたよ?

 私の護衛は……黒騎士。

 色ついでにお願い出来ますか?」


「色ついでって……、一緒にされたくはないんだが。

 あいよ」


 ローラとセルドアは少し躊躇っていたが、黒騎士がセルドアの肩を軽く叩くと頷いて他のメンバーを連れて離れる。


 前回ユリーナと逢った際にローラとセルドアについて確認したが、信頼はおけるしパールハーバー伯爵との繋がりについては、裏でどうこうという心配はないそうだ。


 ただし、ハバネロ公爵に対し忌避感きひかんや嫌悪感が強く、俺との繋がりについて教えると動揺して他の人に気取られる可能性は高まってしまうので、タイミングを見計らう必要があるとのことだ。


 ハバネロ公爵の過去のやらかしが重い〜。


 これからする話は、その2人にも聞いてもらわないといけないんだがなぁ……。


 黒騎士は少なくともユリーナの護衛を任せても良いと思える程度には、上手く部隊に溶け込めているようだ。


「黒騎士、フォローありがとね?」

 ユリーナは黒騎士に微笑みかける。

 実際、こういった部下へのちょっとしたフォローはないがしろにしてはいけない。


 少しぐらいが不和に至る訳ではないが、上に立つ者はこういったちょっとしたところを油断してはいけない。


「姫さん、そんなので礼を言うのやめて。

 大将がエライ顔で睨んでくるから」


 黒騎士が俺を見ながら、げんなりとした表情。

 無意識で睨んでしまっていたようだ。

 ユリーナからの微笑みなんて超羨ましい!


「あんた……、姫様のことになると本当にポンコツになるよね……」

 ポンコツ駄メイド騎士にまで、そう言われてしまった。

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