第74話ユリーナへの依頼
「……なあ、せめてユリーナの隣に」
「ダメ! 姫様が妊娠しちゃう!」
ユリーナを守るようにメラクルがユリーナをギュッと抱き締め、ユリーナも涙目でメラクルにしがみ付きながら、ふるふると首を横に振る。
「ちぃいい! 人質を取って要求はなんだ? メラクル!」
「……いや、え? これ私が人質に取ってんの?
……あんた、ホント姫様のためになんでもしそうね?」
するぞ?
当たり前じゃないか。
……いつまでもユリーナを愛でていたいが、本当にそういう訳にもいかない。
俺は深く深くため息を吐く。
「こんな風に俺がユリーナを愛していることが少しは伝わったと思う」
ユリーナが目を見開き、メラクルが呆れかえったような目をする。
「え? 少し!?」
「……あんた愛が溢れすぎでしょ?」
そりゃあ、出来るならずっとイチャイチャしてたいのを我慢してるんだ、少しだろ?
それを分かった上でユリーナに頼まねばならないことがある。
先程までの浮いた様子を消し、2人にそう前置きすると、暫くしてユリーナもメラクルも居住まいを正し俺を見返す。
それは……。
「近い内に起こる帝国との大戦で、ユリーナたちの部隊で敵の宰相を討ち取ってもらいたい。」
2人は訝しげな表情を浮かべる。
「それは……どういう?」
疑問はもっともだ。
大公国の1部隊へ王国公爵が敵宰相の討伐を依頼など、あまりに突飛な話であるし通常なら不可能な話だ。
何より……危険過ぎる。
なので俺がこれを依頼するのは、苦渋の選択であり、もしもを想像するだけで不安で胸が締め付けられそうだ。
ユリーナの疑問に俺は詳しく説明する。
帝国との開戦が近いこと、その戦いが危ういこと。
いずれも大公国では詳細な情報が得られていない筈だ。
王国でも帝国との緊張が高まっていることを知っていても、大戦になるとまで思っていない連中も多い。
「……はっきり言って、初戦は王国は大敗北を喫するだろう。
さらに王都まで迫られると俺は予測している」
その話にユリーナは息を呑む。
その様子を見て、真剣な眼差しでメラクルはユリーナに告げる。
「姫様。私は公爵閣下がお話をされている場に立ち合い、その予測がかなり精度の高いものであると認識しました」
メラクルが真剣な目で補足する。
なので、俺は……。
「メラクル。お前に公爵閣下と言われると……なんかキモい」
「真面目な話の時に、あんたは何をツッコミ入れてるのよ!」
バンバンとメラクルは興奮してテーブルを叩く。
えー、だってお前って、お間抜けポンコツ駄メイド枠だし。
そう言ってしまうとまた話が続かなくなるので、今は言わないでおいた。
「こんな話だからさ、冗談でも交えないとやってられん。
俺はユリーナが危険に巻き込まれるなど、真平ごめんだ。
だが、ユリーナの部隊は大公国だけではなく王国、帝国合わせても最強の部隊だ。
それに……」
この次の言葉を口にするのに、それなりの気力を必要とした。
喉が詰まる。
足りない空気を補うように深く深呼吸をする。
言って良いのか?
信じてもらえるか?
それはおおよそ想像出来る
王国が壊滅的なダメージを受け、帝国もまた皇帝と宰相、万の騎士を失い、大公国は滅ぼされ邪神が復活し世界は滅びの危機を迎えそれを乗り越えた先に更なる絶望が訪れる。
……知らぬ方が良いだろう。
今という目の前を全力で進まねば乗り切れることではないのだから。
その荷物は……持たせるにはあまりに重過ぎる。
フッと口元に皮肉げな笑みが浮かんでしまう。
知らずとも良い、そう結論づけようとした俺の手を温かな感触が掴む。
俯いてしまっていた顔をあげると、いつの間にかそばに来ていたユリーナが微笑み、俺の手を両手で握っていた。
「背負うと、お伝えしましたよ?」
俺は一体なんなのか、その答えは出ない。
ゲームという未来は果たして何を意味しているのか、ただの妄想なのかも分からない。
変な話でメラクルが生きてここに居るということが、俺のゲーム内の悪夢が覆せることの証明でもあった。
ならば、この温かな手を握り返すことで滅びの未来を覆すことも可能であると……そう思えるならば。
ユリーナを抱き締める。
どさくさに紛れて、あんたまた! そんな風にメラクルが怒鳴り散らすかと思ったが、チラ見するとメラクルさえも俺を心配そうに見つめている。
おいおい……。
俺はどんな表情をしていたというんだよ。
俺はせめて表情を変えようと、意識してニヤリと口の端だけ笑う。
「あ、人相の悪い笑いに変わった」
うるさい、メラクル。
俺は身体を離し、ユリーナの目を真っ直ぐに見て……、ついに告げる。
「……このままならば、もうじき邪神が復活しその後、復活した災厄悪魔神により世界は滅びる」
唐突な俺の飛躍したような話にユリーナもメラクルも目を見開く。
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