第73話ハバネロ暴走
「まあ、そんな訳で俺は以前のハバネロ公爵とは別と思っていい」
ユリーナを隣に座らせガッツリ抱き締めつつ、俺はあっさりそう言った。
「……ねえ、あんた姫様離しなさいよ。
無理矢理女をハベらしてるどこかの極悪公爵みたいよ?」
「ヤダ。ユリーナは俺の嫁だから、席は俺の隣だ」
ユリーナは、ハハハと困ったような顔をしながらも振り払おうとしないのでオーケーのはずだ。
ユリーナが嫌なら無理矢理にはこんなことはしない。
俺の判断基準はそこだ!
メラクルは頭痛がするのか、こめかみを押さえながら
医者呼ぶか?
休んどけよ?
その間、ずっとユリーナとイチャイチャしておくし。
「……なんで駄々っ子みたいになってるのよ。
それと今、サラッと凄いこと言わなかった?」
「以前のハバネロ公爵とは別ってことか?」
ユリーナもメラクルも同時に頷く。
君ら気が合うね。
まあ、仲の良い友人だから、メラクルの破滅はユリーナとハバネロ公爵に致命的な溝を生んだ訳だが。
「誤解をされないように補足しておくが、俺が人格以外はレッド・ハバネロ公爵であることは間違いない。
影武者や何か、ということはない。
記憶も……そうだな、ハバネロ公爵として起こった出来事については『知識として』知っている」
その人格が別なことが大きい。
人格の違う俺はハバネロ公爵と言えるのか?
これは宗教家の言う魂の在り方と関係してくるのか。
そもそも、目覚めた時に最初に俺が思ったのは、ハバネロ公爵に『転生』した、だったのだ。
そう思った時点で俺はハバネロ公爵、いや、レッド・ハバネロと言えるのか?
過去の『設定』とハバネロ公爵には違和感はない。
ああ、ハバネロ公爵ならそうするだろうなとそう思う。
何度でも言うが、この『ゲーム設定』というのがあまりにも断片的過ぎる。
もっとも人の記憶というのは、その人が『見て感じた』という主観がなければ、報告書や映像を見るのと何も変わらないのかもしれない。
客観的な知識というわけだ。
だから、同時に設定にはなかった部分がとても不思議でならない。
その設定が俺の記憶から来ているなら、ハバネロ公爵の過去の出来事を設定として、全て知ることが出来ないことがおかしいのだが。
「ユリーナ。俺は……」
俺の唇にユリーナがその細く優美な人差し指をポンッと当てる。
「覚えてないんでしょ?
分かってます。
お話してあげます、貴方のご両親のこと」
そう言って、安心させるようににっこりと笑う。
「ユリーナ……。
押し倒して良い?」
そのままソファーにゆっくり押し倒した。
「な、なんでそうなるんですか!?」
「ええい! 可愛くて美しくて愛しい婚約者であるユリーナが全て悪い!
良いではないかー! 良いではないか!」
そう言いながら、あくまで優しく頬に触れるだけ。
それが逆に抵抗する余地をなくしているのか、真っ赤な顔でちょっと涙目で震えるユリーナが超可愛い。
そのまま唇を重ねるべく……。
後頭部を叩かれる。
「やめい! 万年発情男!
あんた姫様の前でのポンコツぶりえげつなくない!?」
「……愛しい婚約者との逢瀬を邪魔するな、駄メイド」
ゆっくりとユリーナを離してあげると、すぐに身体を起こすが、まだ赤い顔でふるふると涙目のまま俺を上目遣いで見てくる。
それを見て、俺は思う。
あ、可愛すぎ、ヤバッ。
彼女の頬に手を添え、まだ何をされるのか分からず動揺したままの彼女の唇に、自らの唇を重ねた。
「なぁにしてくれとんじゃァァあああああ!!!!!!」
メラクルが俺たちが座るソファーを、俺たちごとぶん投げる。
ば、バカな! 何処からそれほどのパワーが!!!
「こちとら彼氏いない歴22年! 何見せてくれてんのかしらぁぁあ?
何見せてくれてんのかしらぁぁあああ!!!」
メ、メラクルがおかしな魔神になってしまった!
お前の敬愛する姫様ごと投げ出してるじゃねぇか!
怪我しないようにしっかり抱き締めておいたが。
ある意味、グッジョブメラクル!
ユリーナは赤い顔で腕の中でプルプルしてるけど、可愛いのでそのまま腕の中のユリーナにもう一度口付け。
「んっ」
「やめんかぁぁああああ!!! 見なよ! 姫様を!
この娘、耐性無いって言ったよね!
私、言ったよねえ!!!
見てよ、もういっぱいいっぱい超えて、泣いてんのよ!?
もうやめてあげて!?
あと見ている私の身にもなって? お願い!」
ついにふるふるとメラクルまで泣きそうになったので、仕方なく、ほんと〜に、仕方な〜く、ユリーナを無事なソファーに座らせ離してメラクルに憎々しげに言う。
「……感謝しろよ?」
「……これに関しては感謝したくない。
サビナ……貴女偉いわ、こいつのお守りをいつもしているなんて……」
失礼な!
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