第68話魔王(公爵)に囚われた姫
ユリーナがなんだかふるふると小動物の様に泣きそうな顔しているので、優しく抱きしめたまま頭を撫でるぐらいで許すことにした。
「えっ? あんたもっと冷静な奴じゃなかった?
姫様前にすると、そんなにおかしくなんの!?」
メラクルの言葉にふるふるとユリーナが涙目で首を横に振ってメラクルに訴える。
「赤騎士とか名乗ってこの間、再会したばかりだけど!
その時も酷かったけど!
ここまでじゃなかった!!」
「うむ、前に再会した時は2人っきりではなかったので加減せざるを得なかったからな。」
「あれで加減してたの!?」
「私を居ない事扱いするなぁぁああ!!!」
え? メラクル居たの?
「おかしい……。
こいつもっと冷静な奴だったはず? 気のせい?」
対面でメラクルが、そう繰り返しながら突っ伏している。
「メ、メラクル〜。」
ユリーナは俺に抱き寄せられたまま、涙目でメラクルに助けを求める。
さながら魔王に囚われた姫君のようである。
可哀想なので強靭な精神でもってユリーナを解放してあげると、シュタッと立ち上がりメラクルの隣に座り彼女にしがみ付く。
「ぬぬぬ! 聖騎士メラクル・バルリット!
どこまでも我の邪魔をするというのかぁぁああああああ!!!!」
「いやいや、なんでよ!?
いくらなんでもあんた、ユリーナ様の前でポンコツになり過ぎじゃない!?」
メラクルはユリーナの頭をヨシヨシと撫でながら、深くため息。
ぬぬぬ! メラクルがお姉さんしているだとぅ!?
「そりゃあ、まあ、ユリーナが美人過ぎるのが悪い。
そんなの愛が溢れるに決まっているだろ?」
「メ、メラクル〜!?」
ユリーナはさらに真っ赤な顔で涙ながらにメラクルにしがみ付きながら、彼女の後ろに顔を隠す。
ぬぬぬ!!! なんと羨ましい!!!
あんな可愛いユリーナにしがみ付かれるなんて!
「なんで睨むのよ!?
姫様が隠れるの私のせいじゃないからね!」
「くっ……、これが俺の罪か」
なんと辛く悲しいハバネロ公爵の罪。
愛しい人に触れることも叶わないとは。
さっきまで散々ベタベタ触ったせいで逃げられたとか、そんな理由ではないはずだ!
「怖くないよ〜、ユリーナ。
おいでおいで〜」
メラクルの背中からチラッと顔を覗かせたが、また顔を隠す。
ちなみにメラクルの隣に座って顔だけ彼女の背中に隠しているだけなので、身体は隠していない。
それにちょっとほっこり。
嫌がっている訳ではなく、本気で照れているだけなのが分かる。
愛しいユリーナ愛が溢れていつまでも愛でたいのだが、残念ながら本当に残念ながら、非常に忙しい身の上、話すべきことは話しておかないといけない。
「まあ良い……。
溢れんばかりのユリーナへの愛が少しは伝わったところで、今回の本題に移ろう。
メラクル、全員分の茶を入れ直してくれ」
真面目スイッチを無理やり押して、俺はメラクルに言った。
あいよ、とメラクルは立ち上がるとメラクルの壁を失ったユリーナが、あうっ!? と赤い顔が戻らぬまま手を右往左往させている。
隠れる場所がないのでユリーナは恥ずかしそうにソファーに座り直す。
上目遣いめにこちらを見てくるのが、たまらなく可愛い。
それはもうとてつもなく、可愛い。
俺がほっこりしている様子が気に食わなかったのか、口をとんがらせ不満を訴えてくる。
「からかった、のですか?」
「まだ俺の愛が伝わらないようなら、3日3晩ほど屋敷に泊まるか?
片時も離さず愛でさせて頂くが?」
ユリーナが泊まるならスケジュールもなんとかせねばならんな。
そのためなら1週間ほど徹夜することになっても構わん!
俺が真剣そのものの顔でそう言ったものだからユリーナは、ひょえ!? と珍妙な声を上げてまた涙目で顔を赤くさせる。
「姫様〜、その人マジだからあんまり挑発しちゃダメだよ〜?
触られただけで妊娠させられるかもよ〜?」
「え!? さっき触られたけど、大丈夫かな!?」
残念だが、触っただけでは妊娠させられない。
既成事実で即婚姻に持ち込めたかもしれないというのに!
残念だ! 実に残念だ!
「あんた、なんでそんなに悔しそうなのよ……」
「ユリーナの美しさ故だ。
美は人を狂わせる」
俺が心からの本音を口にしたところで、ついにユリーナに恥ずかしさの限界が訪れる。
真っ赤な顔を両手で覆い叫び出す。
「この人、なんでこうなっちゃったのー!?
ねえ? メラクル、何か知ってる!?
今更だけど、何でメラクルがここに居るの!?
死んだんじゃなかったの!?
何がどうなってそうなってこうなるのよー!」
俺は立ち上がり、動揺して両手で顔を覆うユリーナの前にしゃがみ込み、その手をそっと取り甲にキスを落とす。
ハッと顔を上げるユリーナ。
それからユリーナの隣に座り優しく抱き締め、宥めるようにその背を優しく叩く。
「ユリーナ、ゆ〜っくり深呼吸を。
慌てずに落ち着いて。
急なことでビックリしたと思う。
俺もメラクルもユリーナの味方だから安心するといい」
そう言って優しく声を掛けながら、一定のリズムでその背を軽く叩く。
興奮していたユリーナは、少しびくりとはするが、すぐに素直に言われたまま大きく深く深呼吸を繰り返す。
そのままキスを浴びせたいが鋼の心で俺は耐える。
俺たちの前に茶を置きながら、メラクルが呆れたような声で言った。
「姫様を興奮させた張本人のくせして、あんた、どさくさに紛れて姫様を抱き締めたわね……」
冷静にツッコミを入れるんじゃない、メラクルよ。
マッチポンプじゃないぞ?
……あれ? マッチポンプ?
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