第67話再会

 こちらのお部屋に、とメイドはユリーナを案内する。

 ついて来ていた他の使用人に後で茶を持って来るように伝え、俺たちだけで部屋に入る。


 そして……。


「ひめさまぁぁああああーーーー!」


 元聖騎士の駄メイドことメラクルは先程までの出来るメイド風な姿は何処へやら。

 涙と鼻水を流しユリーナに抱き付く。

 3分も保たなかったな。


「メラクル……、生きてて良かった……」

 それを優しく抱き締め返すユリーナ。

 やはり天使!

 いや、慈愛の女神!!


 感動的シーンをうんうんと深く頷きながら眺める俺。


 そこにノックと共に声が掛かる。

 茶を持って来たらしい。


『やばい! もう持って来た! メラクル! 配置につけ!』

 俺は焦り通信で伝えると、メラクルはわたわたとして何故かソファーに座る。

 確かにお前の定位置だが、今回はそこ違う!


 ユリーナは何が起きているのか分からず、目が点に。


『馬鹿! お前が出迎えるんだよ!』

『そうだった!』

 慌てて立ち上がり、出来るメイドモード。


「え!?」

 俺はユリーナの手を引き、ソファーに座らせその肩を抱く。


 その間、メラクルが茶を持って来たメイドと応対、メラクルが後はこちらで、と告げると茶を持って来たメイドは大人しく引き下がる。


 メラクルの立場は公爵邸から『わざわざ』連れて来た扱いなので、自然と公爵付きとして一段立場が上になっている。


 つまり、駄メイドのはずなのに我が公爵家で飛び級で出世してしまっている!


 ま、それはいいとして。


「え? え!?」

 戸惑うユリーナの頭を俺の肩にもたれさせ、優しく髪を撫でる。


 俺はユリーナの顔をそっと掴み彼女の黒の瞳を見つめ、そのまま唇を奪うべく……。


 俺の背後に回った駄メイドに、ぽこんと後頭部を叩かれる。


「姫様に何をしようとしているのよ!」

「愛しの婚約者にキスをしようとして何が悪い!

 あと公爵の頭をポンポン叩くな、駄メイドが!」


 立ち上がりメラクルの背後に回り、こめかみをグリグリしておく。

「痛い痛い」


 呆然と俺たちのやり取りを見ていたユリーナの隣に戻り、その肩を抱く。

 目をパチクリさせながらユリーナは、また俺にされるがまま。


 メラクルは、乱暴者! 悪虐非道のハバネロ公爵! 文句を言いながら3人分の茶を入れ、どかりと対面のソファーに座りマイペースにいつも通り勝手に茶を飲む。


「え? あれ? えっ?」


 そうだよね、メイドがこんな態度おかしいよね。

 戸惑うユリーナもまた可愛い。


 俺はどさくさに紛れて、ユリーナの髪や頬に触れる。


「え? ええ!?」


 顔を赤くしてさらに戸惑うユリーナに俺は女神の存在を見た。

 ああ、神よ。

 最初はこんな詰んだハバネロ公爵という立場に貶めた神を恨んだこともあった。

 全ては俺の間違いであった。


 この麗しきユリーナの婚約者であるという一点において、七難八苦は当然のものであったのだ。

 ……でも、願うならもう少し加減して欲しかった。


 今も油断すればあっさり滅びるぐらい詰んでるし、自分の立場を万全にしても世界が滅びるし、詰みすぎですやん。


 まあそれはともかくとして、唇にもキスを落とそうとするとユリーナにふるふると首を横に振りながら、両手で口を押さえられて止められる。


「ちょ、ストップ!

 貴方、やっぱり公爵の影武者でしょ!?

 本物がこんな……こんな甘い雰囲気を出す訳が……。

 私は! 間違っても婚約者以外にそんなことは許しません!!」

「姫様〜、信じられないかもしれないですけど、それ本人ですから」


 メラクルナイスフォローだ。

 メラクル自身は俺のフォローのつもりで言った訳では決して無いだろうが。


「婚約者本人だからOKだよな?」

「え? あれ? そうなる、のかな?」

 戸惑いながらもユリーナが俺の口から手を離す。


「だが嬉しく思うぞ?

 王国の貴族令嬢はこういう時、婚約者でなくても雰囲気に流されるままキスされたりするからな」

「え? 何それ?」

「マジで?」

 ユリーナとメラクルが同時に嫌そうな顔をする。


 これは不貞がどうこうというより文化の違いである。

 王国貴族は全てとは言わないがほとんどが、家名の継続のため処女性は求めるが結婚は家同士で行い、恋愛は結婚後に愛人と行うという風潮がある。


 よって証拠の残らないキスやスキンシップは愛人との愛を確かめる手段として、隠れてチュッチュしてたりする。


 特に王族ともなると政略結婚が当然で真実の愛云々は最初から物語にしか求めない。

 故に王国内で俺がユリーナLOVEを主張しても、はいはい、建前はそうだよね、と言われる可能性の方が高い。


 反対に大公国においてはユリーナとメラクルが反応したように、結婚に愛を求める風潮の方が強いのである。

 異文化というのは難しいのである。


 でもユリーナ超LOVEの俺としては、他の男にユリーナを触れさせる気はカケラもないので、ユリーナが簡単にキスをさせまいとストップを掛けたのがとっても嬉しい訳である。


 そもそも俺もそう言った王国貴族的な考えはどうにも合わない。

 覚醒した後だからなのか、それとも元々ハバネロ公爵がそんな考えなのかは分からないが。


 そんな訳で超LOVEのユリーナの頬に優しく手を当てる。

 ユリーナは逃げるべきか受け入れるべきか混乱している中、俺はユリーナに微笑み掛けながら、そっと頬に口付け。

 逃しませんよ?


 そのまま髪にもキスの雨を降らす。


「ああ!? なんで姫様にキスしてんのよ!

 いい加減にしなさいよ、この色情魔。

 姫様、頭から湯気が出てるから。」

 メラクルが真っ赤な顔で立ち上がる。


 むむむ?

 茹だったタコの様とはこの事か。

 ユリーナがキスによるスキンシップにまったく慣れていないことが分かって、天にも昇る心地である。


「え? 目を逸らしておけば?」

「しれっと言うな!

 ……っていうか、姫様にナニしてくれてんのよ!」

 メラクルは立ち上がったその場で地団駄を踏む。


 俺は動かなくなったユリーナを両手で優しく包み込みながら反論。


「ナニって、愛しい婚約者にキスしてるんだが?」

 ユリーナが目の前に居たらキスするだろ?

 他の奴が手を出そうとしたら惨殺するが。


 固まったユリーナの頬にさらにキスを落とす。

 固まってしまったユリーナも美しい。


「もう許してあげて……。

 姫様は恋愛関係が何処ぞの婚約者のせいでまったく耐性が無いの……」

 メラクルがヨヨヨと泣いて懇願するが無視だ。

「無視するなぁぁあああ!!!」


 何処ぞの婚約者って俺だろ?

 ならばそれを払拭ふっしょくせねば!

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