第64話正しい国力比較

 しかし、しかしである。

 どれほど無能であろうと王国の軍閥の長と王子たちである。

 無能であると排除すれば、即座に王国を二分する内乱で、戦う前から王国は崩壊するという笑うしかない現状である。


 よって一戦して、分をわきまえてもらう必要が有るという訳だ。

 当然、『無駄に』犠牲となる兵が出る。

 当人たちが聞けば仕方ないでは済まされない。

 文字通り命懸けなのだ、これもまた知られれば王国崩壊は間違いない。


 そのため、この現状を知っている者は公爵領でも少数だ。

 王国全体で言えば……、残念だが貴族の大半が戦争という実態に疎過うとすぎる。

 それについてはゲームでも明らかだ。

 帝国すらも王国がここまで弱いことは想定外なほどだ。


 今回、王太子と話をした王都へ引き込む策も、帝国別働隊を王都側に誘い出して、そこで叩くことを可能にする。


「閣下、それなのですが。

 外交で貴族派が初戦に介入出来るように働きかけ致しますか?」


「いや、やめておこう。

 貴重な戦力を無駄にすり減らせるだけだ。

 むしろ敗残兵を効率よく吸収出来るかがかなめとなる。

 各部隊長へのパイプ作りに専念してくれ。

 サビナ、取りまとめは頼むぞ」

「はい」


 ゲームではモドレッドやサビナの協力がない状態でハバネロ公爵はこの苦境を脱したのだ。


 嫌われ者で悪虐非道として描かれていたハバネロ公爵は、とてつもない軍才を持っていたということだ。


「そこまでヤバいなら大公国は……姫様はどうなるの?」

「大公国は国力が多くない。

 それが逆に帝国の重要目標とはされない理由となる。

 それにユリーナたちは1部隊として考えるならば、世界全体で見ても最強だ。

 余程のことがない限り、なんとかなる」


 ユリーナたちには、その余程のことを頼まねばならない訳だが、俺はつとめて冷静な表情のまま簡単に数字を書いていく。


 帝国が国力1万

 王国が国力7000(内、公爵1000)

 共和国が5000

 教導国が4000

 大公国は500


 魔導力のある兵の数と思って良い。

 魔導力のある人間が10人に1人ぐらいだから、それほど戦力を増やすのは難しい。

 当然、魔導力のある人が全て戦闘が出来ることなどもあり得ない。


 参考までに教導国は宗教としての権威はあるが、各国への権力は保持していないので国力はその数値のままだ。


 民衆に女神教信徒が多いため無視は出来ないが、宗教戦争などを仕掛ける権限まではない。


 そこまですると逆に教導国は民衆からの支持を失ってしまうことだろう。

 邪教集団に染められてしまった国などがあれば、話は別だろうが。


 それとて国際社会の影響を無視して良い訳ではない。


 帝国は帝都の守りとして、おそらく3000は国に残し7000ほどで攻めてくるが、パワーディメンションの効果で1.1倍して国力7700と考える。


 これで帝国と王国・大公国の戦力比はほぼ互角、ここに作戦や指揮、兵の士気、補給の有無の差で大きく変動する。

 そのいずれも王国は致命的。

 王国は初戦についてはその実力の半分も出せないだろう。

 初戦の被害をいかに抑えて逆撃を加えるか、そこに賭けるしかない。


 主人公チームは大公国の精鋭独立部隊だから戦力20として、さらに黒騎士とガイアが居るから10倍ぐらいはなんとか勝てるかもしれない。

 超つえー。


「そんな訳でやる事は山が山脈になるぐらい沢山ある、徹底的に働いてもらうぞ?」


 あとこれはまだ誰にも伝えていないが、邪神の戦力は50万程。

 それだけのモンスターが出て来るし、邪教集団も邪魔をしてくる。

 ついでにクリア後のおまけの悪魔神は1000万である。

 桁違うやん……。

 どうやって勝ったかって?

 悪魔神にはおそらく敗北、邪神については単騎突撃。


 邪神自体は能力で言うならSSS

 悪魔神は能力で言えば計測不能だ。

 今の状態で勝てるメドは全く無し。


 少なくとも今次大戦は、邪神との戦いを見据えれば犠牲をいくら払っても王国が勝てば良いと言うわけではない。


 ハードル上がり過ぎやぁ……。






 王都で各方面への挨拶を行い、サビナもモドレッドもそれぞれのツテを使い人に会ってもらい、俺の護衛兼お付きは謎の駄メイド、その名もメイラが務める。


 メイラと聞いて何かを思い出す。

 そうだ、レイア・ハートリー、ザイードの妹だ。

 もちろん、あのすぐ後に行方を探すように指示を出したが、まだなんの成果もない。


 既に亡くなったとしても、あの街で亡くなった者も多数であるし、反乱勢力の一味だったりで名前を変えてたりしたらお手上げだ。


 黒騎士のミヨちゃんの一族に探してもらうのも手かもしれない。

 ある意味で公爵の方面よりも、別の視点で見つけてくれるかもしれない。


 ミヨちゃん一族にはもう一つすでに頼み事をしてある。

 それは反乱軍と呼ばれる反乱分子に、ハバネロ公爵が会話をする用意があると伝えてもらう事だ。


 おそらく反乱軍の首魁がマーク・ラドラーであれば、その目的はハバネロ公爵の打倒だ。

 だが、ハバネロ公爵自身が歩みよりを見せたならば反乱軍としては無視は出来ない。


 反乱軍の多くは王国国民であり、困窮した生活や立場の改善を求めているのだ。

 単純な恨みだけという訳ではない。


 逆にこの提案を蹴るならばそれはそれで良い。

 その場合はっきりと敵対した方がこちらとしては判断がし易い。

 敵か味方か分からない、半端な状態の方がずっとタチが悪いのだ。


 やらねばならぬ事は沢山ある。

 ユリーナに逢いに行きたい気持ちを抑え、手紙を数十枚書いて送ることで我慢する。


 いずれにせよ、大戦が始まる際には一度逢わなければならない。

 ユリーナたちに頼まねばならないことがあるからだ。

 本当は危険なので頼みたくはないが、彼女たちにしか出来ない事だ。

 帝国宰相を討つこと。


 ゲームでも主人公チームがそれを成し、帝国の覇道を止める一つの要因となった。

 その後、ハバネロ公爵が帝国の動揺を突き、皇帝を打倒している。


 ゲームと現実は違う。

 ユリーナにもしものことがあれば、俺はヤケになって世界を滅ぼしてしまうだろう。

 出来るかどうかとかではなく、気持ち的に。


 とにかく逢って話さねばらない。

 ……もちろん、婚約者として堂々と逢う訳で、その時、ユリーナへのハグを我慢出来る気は全くない。


 うん、絶対に我慢出来ないだろう。

 もしかすると、そのまま嫁にしてしまうかもしれない。

 気のせいかな?

 ちょっと自制できる気がしない。


 そんなことを思いながら、日々なんとか気力を振り絞り走り回っていたある日、王都の公爵邸にミヨちゃん一族から反乱軍についての報告が届いた。


 おお〜、流石と言おうか情報が早い。

 ミヨちゃん一度会ってみたいものだ。

 黒騎士をからかうネタになるから、などと考えながら報告を聞く。


 報告を聞いて俺は思わず倒れそうになった。

 反乱軍マーク・ラドラー、その正体はユリーナ・クリストフの部隊に参加しているラビット・プリズナーである、と。


 しゅ、主人公がなんでだぁぁああああああああ!!!!!!!!

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