第63話王国も詰んでる
「なんか意外。
あんたが詰んでる、詰んでる言うから、王太子とかも完全に敵なんだと思ってたけど、違うみたいね」
王太子との会談を終えてすぐに王宮から出て、王都にある公爵邸に移動した。
明日より各種調整や貴族への働きかけで飛び回らないとならないが、今日は旅の疲れもあるのでゆっくりしている。
すでに出来るメイドだったメラクルは駄メイドと化し、応接間のソファーで伸びている。
当然、こちらの屋敷で駄メイドメラクルのことは知られていない。
よってメイド服を着ているだけで、メイドとは認識されていないだろう。
もはや偽メイドである。
……着替えたら? そう尋ねたら、メイド服が気に入っているらしい。
実際、大公国からは姿を隠しておかなければならないから、擬態としては確かに意味はある。
まさか、あの聖騎士のメラクルがメイドをしているなんて思うまい、と言うやつである。
……似たようなパターンで赤騎士に変装してあっさりバレたが、あれは見破るユリーナがおかしいのだ。
その証拠に最後までユリーナ以外にはバレていない。
それはそうとして王太子とのことである。
「……俺も意外だったよ。
これで本当に敵だったら、それこそ詰みというかおしまいだな。
まあ、でもそれはないか……」
独断専行が過ぎていたが、それ以上に王太子が渡してきた物の方が重過ぎた。
きっとこれがゲーム時にハバネロ公爵が帝国を追い返したカラクリだ。
王太子からの全軍委任状。
友人の息子でよく知っていたとしても渡せる物ではない。
ゲームのハバネロ公爵も帝国との大戦を読んでいて、幾つもの対策を練っていたのだろう、それを王太子も把握していた。
あくまでゲーム設定だけの視点だが客観的に見て、全軍を指揮するのに足る能力を持つ者はハバネロ公爵以外居なかった。
それでもこれは如何に王太子と言えど、越権行為と言えるだろう。
……だが、そこまでしなければ王国は滅びていただろう。
そして大公国も共に。
「ねえ? 帝国と本当に戦争になるの?
王国はそんなに危ういの?」
メラクルからすれば、帝国との関係がきな臭いことは一緒に居た時に知っていただろうけど、まさか王都に迫られるほど危うい状況だとは思いもしなかっただろう。
リラックスしているように見えたが、表情は暗い。
「危ういな。
何も手を打たなければ、大公国ごと帝国に飲み込まれるだろうな」
「そんなに……?
でも何か考えているんでしょ?」
メラクルはパールハーバー伯爵や仲間には裏切られたかもしれないが、彼女自身は大公国自体を見捨てた訳ではないのだろう。
それにユリーナがメラクルへの所業を知っていれば、なんとか反抗しようとしただろう。
そうすればユリーナ自身が危機に陥ることになろうとも。
「あるにはあるがな。
初戦に至っては俺は一切手出し出来ない」
「なんでよ〜」
ソファーで足をバタバタ。
この駄メイド、色々自由だな。
お前の目の前に居るのは公爵だぞ? 偉いんだぞ?
今更だし、以前ならともかくユリーナのキスで目覚めてからは、貴族としての在り方どうとかはそこまで拘りはない。
時と場所と人は弁えるがな。
俺は紙に王国の勢力構造を簡単に書いて説明する。
「軍閥派と呼ばれる派閥、つまり俺と敵対派閥が……」
軍務大臣レントモワール卿、第2王子ガストル、第4王子マボー。
第2王子と第4王子は王太子とは母親が違う。
年齢も違い第2王子は30代になるところ、マボーは20代。
王太子と第2王子との歳の差が大きいのは長らく王女しか生まれなかったせいだ。
王女は4人ほどおり、内3人は既に国内外の貴族に嫁ぎ、最後第4王女はまだ10になるかどうかで、親戚だがあまり会ったことはない。
子を作ることが王の役目とはいえ50を筆頭に10才まで大変なこった。
その軍閥と対立するのが、建前上ハバネロ公爵を長とする貴族派。
良くも悪くもノブレスオブリージュつまり身分にあった責務と振る舞いを重視する一派の2大派閥だ。
国王と王太子はそのどちらにも含まれず、両方からの忠誠により上に立っている構造だ。
「それで今回の大戦で中心となるのは、当然、軍閥であるレントモワール卿たちだが、
これが一言で言うと無能と言って良い」
先々代のレントモワール卿は勇猛であり、いくつもの小競り合いを制し、王国を代表する将軍として軍閥を完全に手中に収め、以降一族が軍閥の長となった訳だが。
確認してみると残念ながら今代のレントモワール卿は軍才は全くないどころか、戦における後方支援の手配や戦略について全くの無知であることが分かってきた。
突っ込んで努力と根性で相手を粉砕出来ると宣言する始末である。
勝てるかぁぁあああ!!!
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