第61話王都②
「お疲れ〜」
お付きの者の控室になっている客間のソファーで、メラクルは足を組んで茶を飲みながらそう言った。
サビナとモドレッドは当然、立ち上がり俺を出迎えている。
カツカツとメラクルの背後に周り、ガシッと頭を鷲掴みしてやる。
「痛い、痛い〜」
「おい、駄メイド。
お前さっき、俺とハーグナー侯爵と話をしているのに気付いて扉を閉めたな?」
頭から手を離し、対面のソファーにどかりと座る。
メラクルは痛そうに頭をさすり。
「そりゃそうよ、どう見てもキツネとタヌキの化かし合いか、ヘビとマングースの危険な会合だったじゃない。
怖くて近寄れなかったわよ」
まあ、下手に顔を出されてもややこしかったことだろうな。
「お前、王都内に居る間はその素を出すなよ?」
「あったり前じゃない。
私をなんだと思ってんの?」
「生粋の天然駄メイドだ」
酷い! そうメラクルは訴えるが、サビナもモドレッドも心配そうな顔。
どう見ても信用はない。
王と王太子への挨拶は終わったが、のんびり出来たのはここまで。
むしろこれからが仕事だ。
帝国との大戦が始まるまでに1人でも多くの味方の囲い込み、さらにハーグナー侯爵や第4王子マボーらを追い落とす策を仕掛けておかねばならない。
メラクルにも公爵家の正式なメイドとして、動いてもらわなければならない。
本来なら公爵という立場上、それなりの数を付き人としてメイドや従者を同行させねばならなかったが、公爵領は人手不足。
誰もが領内で仕事を抱えている。
ここを乗り切らねば破滅が待っている以上、領内の者には奮起してもらわねばならない。
よって領内でも未だハバネロ公爵のイメージ回復は手が回っておらず、今回の忙しさも『ちっくしょうめ、ハバネロ公爵め、無理矢理働かせやがって横暴な!』という会話が領民の間からも聞こえてくる。
福利厚生やお給料をちょっとずつ改善しているんだけど……。
まあ、元々が色々酷すぎたので、仕方ないと言えば仕方ない。
その辺りをメラクルに改めて言い含めようと口を開きかけたところで、部屋の扉がノックされる。
フワッ、スッと効果音でもしそうな動きで、メラクルがメイド面して俺の斜め後ろに立つ。
俺は不覚にも目を見開いてしまう。
な、なんだ、と……!?
その立ち姿はまるでクールなベテランメイド。
俺が赤騎士に変身したのと同様に立ち振る舞いだけを見れば、あのポンコツ聖騎士の姿は何処にも無い。
「ハバネロ公爵、少しよろしいかな?」
俺は来訪者を立ち上がり出迎える。
「王太子殿下。お呼び頂ければこちらから向かいましたところを……」
「良いのだ。少しハバネロ公爵と話がしたかったのはこちらの方だからな。
私が出向くのが当然であろう?」
俺はそれに対しては何も言わずに一礼し、相手の出方を待つ。
上位者の言葉を妨げればそれだけで死罪!と言い渡しかねないのが王国の貴族社会なのだ!
王太子は当然のようにソファーの上座(奥)に座る。
俺が対面に座るといつの間に茶を入れたのか、俺たちの前にメラクルが茶を置き、音も無く下がる。
い、いつの間にこれほどの力を!?
恐るべきメラクルのメイド戦闘力。
あの駄メイドっぷりも、全て奴の擬態だったのだ!
表情は一切動かさずクールで整った顔立ちを見せているが、俺にはオーラ(?)で分かる!
どやぁ〜? 私どうやぁ〜! ニタリと笑うメラクルの内心が!!
「公爵如何した?」
「いいえ、まさか王太子殿下からお会いして頂けると思わず、ただただ驚いております」
実際、そうなのだ。
ゲーム設定では細かい王太子の心の内の解説などは当然ない。
割と大胆な性格だったんだな。
それに1人でハバネロところにやって来るなんて、ハバネロに対して忌避感は無かったということなのだろうか?
意外と人格者?
俺を殊更に敵視する第2王子ガストルと第4王子マボーとは、母親違いでゲームでは詳しい話はほとんど出て来ない。
帝国との戦いで戦死して、その空いた権力の空白がハバネロ公爵が台頭する要因の一つである。
「公爵、此度の帝国との戦どう思う?」
おいー!? いきなり放り込んできたな!
貴族的な勿体ぶった言い回しはどうしたぁぁあああ!?
言葉一つに対しても、『無駄に』言質を取られぬようにまどろっこしい言い方をするのが貴族だ。
この場合なら、『最近は割となんでもきな臭い。仮に何処かの誰かが攻め入って来る際は、なんちゃらかんちゃら』とかここで帝国と〜なんて言うと、それを利用して内通の疑いありとか、軍事に関わる担当でもないのに未確定の情報を確証もなく言った〜とかややこしいことを言ってくる奴は、残念ながら多い。
特に戦争時は揚げ足を取られれば、戦争終了後に戦時責任というものを取らされたりする。
え!? ハバネロ公爵とそんな深い話をするほど仲が良かったの!?
忘れてしまってごめんなさい!
なんなら半分、存在も忘れてました!
「殿下、まだ戦になるとは……」
「良い。私は公爵と本当のところを話したいのだ。
誰にも気付かれていないようだが、公爵には軍事的才能、いや、総帥としての才能があると確信している」
なんで!? なんでそう思うの!?
設定か? ゲーム設定でも頭に浮かぶんか!?
この段階で王太子殿下亡き後、ハバネロ公爵が台頭することを予見して対策を打たれたりしたらヤバい!
詰んでるとかではなく、トドメを刺されることになる。
なお、己の権力を守るために、そんなことをやるのもまた貴族というものである。
貴族に限らず権力者は、かな。
そこで王太子はフッと笑う。
「公爵領内で戦時体制を想定した動き、また王都でも戦時に対し人員の確保や、補給を担当するであろう内務卿ガーゼナル侯爵への根回し。
気付かぬとでも思ったか?」
や、やっちまったぁぁあああああ!!!
軍人でもないのに色々動いているのがバレてた。
王太子殿下の力を使えば、俺の行動を邪魔することは幾らでも出来よう。
つまり!!
……つ、詰んでますやん。
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