第54話ユリーナへの手紙

 結局のところ、内政についても他の貴族に対する外交についても、俺は公爵としての力をほとんど使っていなかった。


 もっと早く効率的に立場上の味方だけでも増やせば、メラクルのことも防げたのではないか、そんなことすら思ってしまうことがある。


 実際は俺自身があまりに嫌われ者過ぎて、そうしたところで味方を増やすことなど出来なかっただろうが。

 メラクルが大公国に帰らなければ、あるいは……。


 無意味な仮定だ。

 メラクルは結局、それでも大公国に帰っただろう。

 彼女はその命を賭ける程には、己の聖騎士という立場に誇りを持っていたのだから。


 あれからユリーナへは婚約者として何度か手紙を出している。

 出来るだけ省いたつもりだが、溢れる愛が抑えることができず、10枚ほどは愛の言葉。


 そこから2枚ほどでメラクル……とまでハッキリとは書けなかったが、聖騎士の被害者が出たと聞いた話とユリーナの身を心配する内容を5枚書き綴ってある。


 後日、その手紙を怪しんだユリーナは隠された文字や意味があるのではないかと、手紙を炙ったり水に浸けたりして、何枚かがボロボロになってしまったそうだ。

 さらには黒騎士にこの手紙の裏は何かを問い詰めたとか。


 連絡員に黒騎士が笑って報告してきたそうだ。

 裏なんてないよ!?

 そのままストレートに愛のお手紙なんだよ!?

 赤騎士で会った時の言葉全く信用してもらえてなかった! チクショー!


 当然、黒騎士が俺の協力者であることをユリーナはバッチリ知っている訳で、事あるごとに公爵は何を考えてこんなマネを、と尋ねられたそうで。


 そのまま、いやぁ〜、単にお姫さんへの溢れんばかりの愛が止まるところを知らないだけだと思うぜ、と伝えているらしいが全く信用されないらしい。


 ちょっとユリーナのところに行ってくると言ったら、全員に引き止められ書類を山積みにされた。


 いつかこんなブラックな環境抜け出してやるわぁ〜!

 サビナは机の上に額縁に飾られたユリーナの絵姿を置いて、ほら、ユリーナ様のために頑張るのですよね? とさらに仕事をする様に迫る始末。


 あれ? サビナさん? 以前の寡黙で従順な貴女はどこに行ったの?

 なんだか俺の扱いぞんざいになってない?

 なってない? 遠慮している暇がないだけです?


 それもそうか、兵の訓練に士官としての勉強に、合間に執務の手伝いに俺の護衛、サビナも忙し過ぎるね、休まないとお肌が曲がるよ、と言うとギロッと睨まれた。


 俺……、公爵なのに……。


 もはやそんなことぐらいでは俺が怒らないことぐらい分かってしまっているので、外部の人が居ないところでは、割とこんな感じになってきた。


 そうは言っても、外部の人が居るところでは相変わらず寡黙で真面目なサビナのままである。


 何というか俺との付き合い方が分かってきたような感じとでも言えば良いだろうか?


 実際、サビナには苦労を掛けている。

 ゲーム通りの展開でいくならば、これから帝国との大戦が発生する。


 軍部については軍閥派レントモワール卿が第2王子、第4王子まで巻き込んで掌握しており、当人はゴッツイ身体の美丈夫というやつで能力C。


 指揮能力は知らないが将軍のトップなので少しは出来るとは思うが、その割にはゲーム設定では大して活躍もせず帝国に踏み潰されている。


 これは帝国が凄いのか、レントモワール卿たちが想像以上にヘボいのか判断が付かない。

 彼らの実際の指揮など見たことがないからだ。


 ちなみに第4王子マボーは噂にも聞こえてくる愚物らしいので、おそらく問題外。


 ハバネロ公爵ほどの苛烈な行動をとっていないから目立ってはいないが、気に入った女を無理矢理自分のモノにしたり、自らの思い通りにならないことは権力を振りかざしたりとやりたい放題。

 顔は王子様らしく金髪碧眼の美形らしいが中身は残念過ぎた。


 コイツがユリーナの婚約者になっていたら、ユリーナのために俺は闇討ちをしてしまっていたかもしれない。


 王国の王家の一族はこんなんばっか?と思うなかれ、王太子はもう少し出来た人物だ。


 御年50歳。

 国王はいつになったら隠居する気なのだろ……。

 ゲームではこの王太子も戦死しており、そのことが後の王国の混乱とハバネロ公爵の台頭に繋がってくる。


 そもそも帝国との大戦自体が何十年振りかの大戦なので、実はこの時まで戦いに慣れている者はそう多くなかったのだ。

 そのため、前線で戦っていた王族が軒並み戦死することとなった。


 しかしながら、この大戦がきっかけで幾人かの英傑が現れ、それがユリーナたち主人公チームと合流して戦局を変える程の一部隊が出来上がっていくのだ。


 そのメンバーはそのまま、権力を絶対にしたハバネロ公爵の討伐、そしてゆくゆくは邪神との決戦の切り札となるのだ。


 とにもかくにも、この大戦で周り敵だらけの俺はなんとか生き残り、王国内での影響力を強めなければ、ずっと詰んだままなのだ。


 そのためにも頼れる味方にはその能力を生かし、活躍してもらわなければならないのだ。


 ……というか、こんな詰んでた状況でハバネロ公爵はどうやって大戦で活躍出来たのだろう?

 ゲーム設定では全てを示してはくれない。


 何故ならゲームの中心は、当然、主人公チームなのであり、ハバネロ公爵は憎い敵役の1人でしかないのだから。

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