第55話公爵と愉快な仲間たち

「公爵閣下!」


 モドレッドとの打ち合わせのため廊下を足早に移動していると、雇った内政三羽烏の1人、ガラッド・ハスラーに声を掛けられる。


 眼鏡を掛けた神経質そうな男だ。

 見た目通り仕事はキッチリしているが、反対に少し真面目過ぎるところがある。

 時間があまりないので、この場で手早く話をさせてもらう。


 その後ろを見た目、キツそうな美女パティー・ライトが一生懸命追いかけている。

 美女で少し悪女っぽい。

 中身とってもいい子。

 地道な事務仕事が好きという見た目と中身のギャップが激し過ぎる。


 カロンが言うには、学生時代は良くガラッドとぶつかっていたらしいが、学園卒業後にようやくパティーが見た目と中身が違うと気付いてギャップにやられて以来、最近2人は良い仲なんだそうだ。

 ニヤニヤしながらカロンが教えてくれた。


 もう公然の秘密だが、本人たちは気付かれていないつもりだとか。

 ……きっと屋敷中でこういう恋愛ごとは俺が1番情報が入るのが遅いと思うから、冗談抜きで全員が知っていると思って良いのだろう。


 ……まあ、仲良さそうなら良かった。


「どうしたガラッド。」

 ガラッドはその場にビシッと直立不動して敬礼する。


 彼は子爵令息だが、地方の子爵のためこれといったツテもなく、またその真面目過ぎる性格が災いし、同じ学園卒の高位貴族は口うるさく言われるのを嫌い距離を置かれていた。


 なんとか伯爵家以上の家や王宮での士官を志していた彼は挫折し、途方に暮れていたところを俺が拾ったために、俺の悪名よりも公爵家に士官が出来たことをいたく感動し、以来真面目に勤めてくれている。


 その彼の背に走って来たパティーがぽすんとぶつかる。

 ちゃんと前を見ずに走っていたようで、彼の背後からしがみ付くような感じになってしまい、敬礼したままのガラッドが恥ずかしさで赤くなっている。

 ちょっとほっこり……。


「ガラッドくん、足早いよ……」

 彼の背後からパティーがふえふえとそう言う。

 つくづく見た目と違い鈍臭い雰囲気を持つ。

 見た目は本当に高笑いが似合いそうな女性なんだが。


「わっ!? おい、パティー。公爵閣下の前だぞ!」

「え? わー!? かかかかっっ閣下!? 申し訳ありません!」

 2人で同時に謝ってくる。


 簡単な伝達事項と先程カロンに伝えた話を彼ら2人にも伝える。

 学園卒の優秀な3人を俺は三羽烏と呼んだ。

 なんか特別感あるでしょ? 優秀っぽくて。

 理由それだけだけど。

 新たな仕事への挑戦にガラッドなどは感極まるような表情をして、再度敬礼をして立ち去る。

 その後を待ってよ〜とパティーは俺にちょこっと頭を下げて追いかけて行く。


 良いなぁ〜、職場恋愛。

 俺もユリーナと仕事しながらイチャイチャしたい。

 イチャイチャしなくても眺めていたい。

 うん、仕事にならない自信がある!


 パティーもまた子爵令嬢であり、貴族社会としては何処かに嫁入りをしなければならなかったのだが、その見た目と貴族社会には苦戦しそうな何処かのんびりした様子は貴族令息からは忌避されたのだ。


 ある意味、キツめの見た目美女はそれだけでも女性社会で舐められないための武器にもなり得る。

 もしくは反対にのんびりした『フリ』でもって相手の懐に入るかなど、それぞれの武器を尖らせ駆使して乗り切らねば貴族社会は魑魅魍魎の世界なのだから。


 ゲームのハバネロ公爵がユリーナにキツく当たっていた理由の一つに、王国の社交界という魑魅魍魎の世界に対応出来るかと考えてということもあったらしい。


 行って分かったが、王国と大公国とではそれらの雰囲気は大分違うと言って良い。

 時に真正面から斬りかかるのが聖騎士の大公国ならば、笑顔で握手をしながら相手の国を黙って奪い取ろうと兵や謀略を仕掛けるのが王国貴族だ。


 公爵である以上、それらと無縁ではいられない。

 だが帝国との大戦後、ゲーム設定ではそれらの社交は以前に比べずっと減っていったようだ。

 設定ではハバネロ公爵が権力を握る際に貴族社会を解体させたようだ。

 それはどちらかといえば、帝国における中央集権体制に似ている。


 だが結果で見れば、それこそハバネロ公爵への対抗勢力を増やす結果になったのではないだろうか?


 ハバネロ公爵は中央集権体制による『強い』国作りを目指し……反乱勢力に負けた。


 ハバネロ公爵に訪れた結果は、ゲーム主人公側ではなく社会全体で客観的に見ればそういうことかもしれない。


 それはつまりハバネロ公爵もまた、帝国が王国を攻めた理由同様、『何か』に対して国を纏めようとしたのではないか、ということが浮かび上がってくる。


 なんだかそういうことに思い至ると、このゲーム設定というものが如何に表面的で主人公側にのみに情報が偏っていることを感じずにはいられない。


 改めて世界を救うという言葉に目を向けて、ようやく俺は気付いてしまったのだ。


 ゲームクリア後は邪神相手に、最終的に世界はボロボロだし、悪魔神ほったらかしだし。


 あれ? ゲーム主人公側以外から見てみると、ひょっとして世界って救われないんじゃないか、と。

 

 それに気付いた時、俺は愕然と1人呟いてしまう。


 なんということでしょう! ハバネロだけでなく、世界全体が実は……。


「……詰んでますやん」


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