第56話詰んでるけれど終わらせません

 まあ、そんな訳で詰んでますやんと繰り返しつつも、ユリーナとのラブラブハッピーを目指してお仕事中である。


 今は外交官であるモドレッドともう1人、それに護衛のサビナを伴って王都へ馬車にて移動中だ。


 カロンたち三羽烏は公爵領で内政のお仕事だ。

 ガラッドが俺に山積みの書類を渡そうとしていたが、俺は見なかったことにした。

 あの時の彼の愕然とした顔は、記憶に焼き付いているが気にしていられない!


 公爵の権力を存分に使い対策を講じようとしている訳だが、クッソ忙しい!!

 キスで目覚めてすぐに呑気に構えていた自分をど突きたい!

 今すぐ働けと!!


 ……だけど、そのおかげでユリーナの絵姿を手に入れることが出来たり、ユリーナとの夢のような再会があった。

 ついでに黒騎士を仲間に出来たのも。


 そもそもこの三羽烏を始め内政に関わる者たちを雇うことが出来たのも、黒騎士の学園でのツテによるものだ。


 さらに内政や他の改革や士官学校を作るための資金源となったのは、例の盗賊が巣食っていた森の中にある未発掘の遺跡だ。


 そこから出土した魔剣を王都側に格安で提供したりすることで、王都の法衣貴族と繋がりを作りモドレッドやルークを引き抜くことにも繋がっている。


 魔剣の発掘される未発掘の遺跡は、いわば金鉱脈のようなもので、それが公爵領で見つかったことは公爵領の財政と王都への付け届けに大いに役立った。


 金はいくらあっても足りないのだ。

 特にこれから戦乱が起こる。

 食料の備蓄やそれを運ぶ街道の整備、当然、要塞や砦の設置。

 やるべきことも金を費やす場所も幾らでもある。


 さらに王家へパワーディメンションの完成品をいくつか献上。

 それによりさらに様々な優遇措置をしてもらう。


 特に戦時には後方の補給部隊の長になるであろう内務卿のガーゼナル侯爵と縁を作れたのは大きかった。

 大公国のように聖騎士とは呼ばないが王国もまた騎士の国である。


 そのため、前に立って戦うことを是とする文化がどうしてもある。

 強いて言うならば、後方で補給を手配する内務卿などは武が無いとして馬鹿にされる風潮がどうしてもある。


 今回、俺はこのパワーディメンションの王家に献上した以外の分について、配る相手をその内務卿に委託したのだ。


 これは俺がなによりも内務卿と縁を繋ぎたかった事情があったが、王国内部の権力構造上、他に選択肢がなかったのが1番大きい。


 ガーゼナル侯爵は立場で言えば、貴族派でもなく王家派でもなく中立派とも言える存在である。


 建前上、貴族派のトップは俺である。

 対する軍閥派と呼ばれる軍閥のトップのレントモワール卿とその派閥に支援される第2王子ガストルと第4王子マボーと。


 この2つが王国の主な派閥である。

 一応は王と王太子、宰相はどちらでもない。


 ここでパワーディメンションなのだが、帝国と緊張を増す中で、ハバネロ公爵は貴族派のみでそれを回すと思われていたし、実際の覚醒前のハバネロ公爵ならばそうしただろう。


 まあ今の俺にとっては、表向きは別にして本音としては、貴族派の影のボスのハーグナー侯爵は敵だし、第4王子マボーたちも変わらず敵だ。


 そうなると第3勢力となんとか仲良くしたいという流れになる。

 あまりあからさまに貴族派から離れると、公爵と言えど孤立してしまい、まさにトドメを刺されてしまう。

 隙あらば根こそぎ奪う、それが貴族社会だ。


 よって今回、帝国との関係を鑑みて中立派筆頭のガーゼナル侯爵にパワーディメンションの配布先を託すという選択を取ったのである。


 さらに遺跡から採取した魔剣の幾つかは、戦時における備蓄として、王国の補給担当部署の方に回しておく。


 あら、不思議! そちらもご担当はガーゼナル侯爵ではありませんか!


 後方支援とは、貧乏くじばかりで大変でございますわね! 周りの皆様もガーゼナル侯爵には配慮なさいませ、と王都に訪れた際に一言添えておく。


 先程も言ったように王国は騎士の国である。

 先陣で戦うことを誉れとする傾向があり、武の強さ=立場の強さという一面があることを否定出来ない。


 そんな中にあって、後方を担当する内務卿であるガーゼナル侯爵はどうしてもその立場を低く見られがちであった。


 そこに魔剣やパワーディメンションの配布先の権限を与えられる。

 当然、魔導力があっても魔剣がなくては戦えない。


 パワーディメンションも魔導力に左右されていた能力差を埋めるものとして、非常に期待されてもいる。


 こうして、王国内でガーゼナル侯爵をないがしろに出来る者は居なくなった。

 ガーゼナル侯爵は俺に深く感謝し、俺はガーゼナル侯爵と強いパイプが出来て、人の引き抜きや行なっている内政における配慮、戦時の補給の確保が出来るという算段だ。


 反対に貴族派とは、少なからず距離が出てしまった……。

 まあ、元々傀儡状態だったけど。

 いっそハッキリ敵対した方が楽だが、そうはいかない貴族社会、面倒くさい! すっごく面倒くさい!!

 味方らしき存在が出来ただけ、マシ! もうずっとずっとマシである!!


 結局のところこういった状況を整えられたのも、あの時間で出会った人や見つけた遺跡、さらには集めた情報があってのことだ。

 あの時間がなければ、ここまでの状況に持って来ることさえ不可能だったのは間違いない。


 代償は大きく聖騎士であるアイツを失った。

 仕方ないで済ますには、あまりにも。

 認めたくはないが、ハバネロにとっての最初の友がアイツだったかもしれない。

 とーっても認めたくないが。


「前より随分忙しそうよねぇ〜。

 大変ね〜。

 次の休憩の時にお茶淹れてあげようか?」


 目の前での〜んびり窓の外を眺めたりしながら、他人事のように俺用のビスケットをモグモグさせながらのたまう元聖騎士の新人メイド。


「うるせぇ! 駄メイド!

 向こうについたら貴様も鬼のように働かしてやるからな! 覚悟しやがれ!!」

「なんでよ! メイド虐めだ!

 労働条件の改善を要求する!」


「うるせぇ!! 人手が足りねぇんだ! 働け!!

 このポンコツ娘が!!

 なんでサラッと生きてんだよ!」

「酷い!!」


 出戻り新人駄メイド。

 メラクル・バルリット。

 大公国の元聖騎士。

 生きてました。

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