第53話公爵の執務室からこんにちは

 どうも、レッド・ハバネロです。

 現在、俺は執務室の机の上でぐったりしてます。


 以前、そもそも山積みの仕事を抱えた時点で終わりだと言ったのは覚えているでしょうか?

 今、俺の机の上には書類が山積みとなり執務机を完全に覆い尽くしております。


 はい、いつも通り詰んでおります。

 積んでるだけに。


「何を考えているのだ、俺は」

 身体を無理矢理起こし、ペンを動かすことを再開する。


「ほいほーい、公爵様頑張ってますかぁあ〜?

 追加のお仕事ですよー。

 終わったら、まだまだ追加しますからドンドン進めてくださいね!」


 最近雇ったばかりの内政官のカロン・セントルイスがドンっと机の下に書類を置く。


「終わるかぁぁあああああ!!!!」

「ああ! 持ってきた書類がぁぁあああ!!」


 置かれた机の下の書類を蹴り倒したのだ。

 机の上の書類を巻き散らかさなかっただけ理性があると思えぇぇえええ!!!


「一体、なんでこんなことになってんだ!?

 そうならないようにお前ら学園卒を雇ったんだろうが!」


 カロン・セントルイス、物おじしない内政官の女で可愛らしい顔立ちだが、雰囲気的にそうは見えない。

 服がかなり好きらしく私服を色々とコーディネートしているらしい。

 仕事中は制服だが。

 肩ぐらいの茶髪で髪は服ほど、気合いを入れて手入れはあまりしていない。


 俺より少し歳上で、学園の首席卒業生だが、女であることと高位貴族でもなければ性格的に高位貴族のツテを得られなかったので燻っていた。


 ゲームには未登場だがそれっぽい人物が、新人冒険者として帝国との戦争エピソードの中で惨殺されている。

 間接的に命の恩人だが、当然、本人は知らない。


「えー、今更ですかー?

 閣下が私らを雇ってくれたのは感謝してますよ?

 私ら中央貴族にツテがないメンバーは、行く当てもなくせっかく王都の学園で学んだけど、腕っ節だけで冒険者にでもなろうかと仲間と話し合ってたぐらいですしー?」


 仲間を焚き付けていたがカロンの戦闘能力自体はE。

 内政官としての能力表示はゲームにはないが、それがあるなら内政能力はAはいくだろう。


 学園に通うのに借金をしており返すアテがなく困り果てていたようで、俺がその借金を肩代わりしてその借金のかたに売られるように雇い入れた感じである。


 それよりも、だ。


「だったら……」

「ですから、私らがせっせと働いてるから、その書類が溜まるんじゃないですかー。

 私らの直属の上司って閣下なんですしー?」


 そうなのだ。

 よって下の有能な奴らから承認、確認のためのサインが届く。


 勝手にやって下さいと言ってやりたいが、能力は別にしてまだ新人の彼女らに対し、それを行えば組織の自浄効果が無くなってくる。

 ある程度、年数が経てば別だが。


 むしろ、新人でもやるべきことと試したいことを挑戦出来るように、体制作りをしているところなのだが。


 なので、後々、俺が自由に動けるようになるために、ここで山積みの書類能力囲まれるのは仕方ないことなのだ。

 

「仕方ないな……。

 帝国との大戦も含め、危機を乗り越えるように領内の内政は任せるぞ?」


「オーケー、それが私たちの役目だからね!

 それとモドレッドが今度行く王都での外交について相談したいと言ってたよ〜?

 呼んでいい?」

「ああ、頼む」


 モドレッドは伯爵家の次男だ。

 チャラい見た目の軽薄そうな兄ちゃんだが、人の内に入り込むのが上手い。


 妾の子のため、家に居ると面倒なことになるので、コイツら経由で引っ張ってもらった。

 モドレッド自身もなんとか家から距離を置きたかったらしい。

 雇い入れる話をした時は恥も外聞もなく、足元で這いつくばって泣きながら感謝された。


 ハバネロ公爵がそこまで感謝されるってよっぽどじゃね!?


 確かに、そうそう都合良く伯爵家の影響のないツテなどあるわけが無い。

 基本的に貴族のツテなど、親がらみ家がらみが当然だ。


 そんで長兄が次男のモドレッドを警戒というか半ば一方的に敵視しており、暗殺をしそうな雰囲気がビシビシ感じられるそうだ。


 つまり家の影響から逃れられないと、いつか必ず暗殺者を送って来そうだったそうだ。


 自分の立場を脅かす唯一の存在だからな。

 なお伯爵家の当主からすれば、次代の保険なので家で飼い潰そうと考える。


 兄弟間の関係や当主の考えにもよるが、モドレッドの場合、長男が家を継いだ瞬間に殺しに掛かって来るとモドレッドは震えながら俺に説明した。


 まさに貴族社会は命懸け、やぁ〜ねぇー、尊き血のお方たち血みどろで。

 俺? 俺は一人っ子だから。


 代わりに親戚の王子たちに滅茶苦茶睨まれてるけど。

 対抗馬が王族って、キツ過ぎ……。

 流石、ハバネロ公爵、詰んでるね!

 王位なんかいらんが、ユリーナだけは渡さない。


 改めていえば内政の能力値などゲームにはないが、今回雇った奴らはカロンのみに限らず内政の能力値でいけばAを超えそうな連中ばかりである。

 ゲーム設定で内政の能力設定なんてないけど。


 そんな彼女らが何故燻くすぶるか?

 簡単に言うと彼女らにツテが無かったからだ。

 学園を優秀な成績で卒業しようが、貴族社会はどこまでいっても縁故採用なのだ。


「お前たち内政三羽烏に新たなプロジェクトだ。

 自分たちでシステムを構築し、少しぐらいなら俺の承認がなくても進むように体制づくりをしておけ。


 当主が留守中に領内の発展が止まるようでは、話にならないからな。

 それとルークに相談して、半年程度の士官学校を設立、そのまま人材育成と指導者教育を行い配置出来るように」


 内政三羽烏は学園から雇い入れた内政官の3人をひとまとめでそう言っているがモドレッドは外交官なので、内政三羽烏ではない。


 ルークは最近、王国の衛兵から引っ張って来た武官だ。

 ゲーム設定では帝国が王都に肉薄した際に、なんとか兵を募って追い返した時の衛兵長だ。


 下からは慕われていたが、貴族ではないのでそれ以上昇進の目処がなかったので、王国法衣貴族に働きかけて引き抜いた。


 近いうちに王都に赴き、今回協力してくれた法衣貴族たちに礼と今後に働きかけをしなければならない。


「えー、公爵閣下ー! 私ら結構働いてるよ! まだ働かせるのー!?」


「もちろん、休みと睡眠はキッチリだ。

 むしろそれを最優先にしてから体制を作れ。

 俺同様に、貴様らがなんでもかんでも張り付かないと出来ない状態になれば終わりだ。


 お前らにはアイデア出して、金を稼いで貰わねばならんし、新しいものをどんどん取り込んでもらわないと公爵領は破綻するからな!」


 カロンが書類を集めながら目を丸くする。


「働かずに働けって、こんな無茶聞いたことないよ!?」


「うるせぇ!俺は楽がしたいんだ!

 お前らも任せられるところは任せて、どんどん働け!

 そしたら貴様の好きな服とかオシャレとか、どんどん発展させろ!」


「仕事ばかりしながらどうやってオシャレしろっていうのよぉ!!」


 ついには拾っていた書類を撒き散らせながら、両手を広げて嘆く。

 忙し過ぎてオシャレにかける時間がないらしい、由々しきことではある。

 俺もユリーナに逢いに行く時間を作りたい、もちろん、赤騎士として。


「うるせぇ! それを考えるのがお前らの仕事だ!」

「横暴だぁ! 悪虐非道のハバネロ公爵様だぁぁあああ!!」


 うるせぇ!!!!

 公爵への酷い口の利き方も許してやってるじゃねぇか!

 俺、超優しい!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る