第46話共闘②

 泣く泣くハグの報酬は諦め、ユリーナ様の私物を下賜してもらうことを報酬とした。


「ねえ? 黒騎士たちはそれで良いんだ?」

 ガイアが勝手に報酬を決めた俺を指差し、呆れ顔でそう言った。


「後でふんだくるから良いんだよ」

 か、加減してね!

 前にも言ったけど、俺が自由に使えるお金はそこまで多くないのよ!


 定期的な給料は公爵家の予算から出せるけど、臨時ボーナスは身銭を切るしかないのよ!


「黒騎士さん、加減して?」

「やなこった」

 ひぃぃいいい! 守銭奴よ!

 守銭奴が居るわ!


「……冗談もほどほどに、そろそろ時間も押してくるからな。

 先程言ったように2人は遊撃を。

 他はゴブリナの各個撃破に専念だ。

 村の人の誘導はカリーとエルウィンで行ってくれ。

 最悪、逸れたゴブリナが村に接近した際の撃退もしくは足止めを頼みたい」


 2人にはこっそりと、いざという時は通信で連絡を、と伝える。

 通信のことがバレるとややこしい。

 特にガイアに。

 ヤツの特殊技術だからね。


 ゲームではもう少し後までチーム加入はしないが、先行して主人公チームに通信技術だけ教えてくれる。


 当然、もう教えているだろうなぁ、あれ便利だし。

 さっき黒騎士と通信したのは傍受ぼうじゅされていないとは思う。

 なんのツッコミもなかったから。


 多分だが今も、主人公チーム内で通信をやり取りして注意喚起しているはずだ。

 言ってはなんだが、俺たち怪しすぎ!


 分かってるのよ!?

 でも信じて!

 赤騎士の言葉の方が、ハバネロ公爵の言うことよりは信じてもらえると思うから!

 ユリーナ、上手く誤魔化してね?


 ……しかしまあ、懸念した通り主人公チームにもズレが発生していた。

 まさかこの段階で世界最強剣士のガイアが参加しているとはなぁ。


 大幅に戦力増強されてるしユリーナとの関係も良好そうだが、俺が言うのもなんだが、怪しいんだよなぁ……。


 なぁんかゲーム設定と雰囲気が違って弱々しい感じがするんだよなぁ〜。

 見ようによっては女の子に見えるぐらい、……あれ? 実はそう?


 設定を頭に思い浮かべてみても、双子の姉が居ることぐらいしか情報が出てこない。

 そしておそらく、ガイアは俺と同じ……ではない。


 もしも俺と同じならば、俺たちの存在がゲーム設定と矛盾することに気付くはずだ。

 登場する訳ないもんね、敵であるはずの嫌われ者のハバネロ公爵が。


 しかしながらだ。

 なんだか、この設定もやはりというか肝心なことを網羅出来てないよな。

 やっぱり続編ゲームとか何かのために隠してる感じ?


 そして主人公。

 危うく名前を呼ばなくて良かった……。

 ラビット・ブリズナー。

 囚われうさぎって、何?

 ガッツリ偽名じゃん!!!


 え!? なんで!? リュークの名前はどうした!

 過去は捨てたぜ? ということなのか!?


 聖剣の名前もラビッシュブレイブとかいう名前に変わってるし。

 うさぎの勇気?

 確か本来は願いを叶える剣とかなんとかでプレイアという名前の剣だったはず。


 ここでゲーム設定が頭に浮かぶ。

 聖剣の名前の『プレイアストーリー』がゲームタイトルだそうで……。

 今頃か!?


 しかもプレイヤーと間違いやすく、プレイする者の物語と当初思われていたが、プレイア、つまり祈りの物語が正しいとのこと。

 なあ、このゲーム設定って誰向けの情報だ!?


 この願いを叶えるというのがゲームのバックグラウンドで、世界を救う祈りをこの剣に込めるのだとか。


 王道ね!

 主人公羨ましいわ!

 俺も王道の敵役よ!

 主人公! 貴様ー! ユリーナだけには手を出すんじゃねぇぞぉぉおおお!?

 おっといかん、また興奮するところだった。


 そもそも主人公は旅の行商人で、偶然、聖剣を手に入れると同時に戦いに巻き込まれた一般庶民のはずだ。

 妙に落ち着いてるな、主人公補正?


 ラビッシュブレイブという名前とラビット・プリズナー、偶然か?

 もしかすると最初から聖剣のこと知ってたんじゃないか?


 そうだとすると俄然、主人公が怪しく見えてくる。

 主人公なのに、怪しいって、、、何?

 ゲームではまたもや、主人公の裏事情は出て来ない。

 なんだこりゃ?

 何もないのか、分からないだけか。


 チラッと主人公の様子を伺うが、聖騎士たちと戦闘時のフォーメーションの確認をしている。

 そこからは怪しい点は見えない。

 うん、何が何だかさっぱり分かりません。


 ユリーナは変わってなかった。

 相変わらず美しくて美しくて美しい。


 ……いや、決定的に違うところがある。

 俺を一目で見破っただけでなく、なんと俺を嫌ってる様子がないのだ。


 えー!?

 ナニソレ!?

 俺の儚い夢が見せた奇跡という名の幻!?


 ……正直、このズレは予想外過ぎた。

 俺のテンション爆上がりの気持ち、分かってくれるかな!?


 あれ? でもなんで?

 ご存知の通り、俺は過去に大公国に対しても色々やらかしている。

 それは事実だ。

 印象は最悪な上に、あの運命の日!

 ユリーナは俺に唇を奪われてしまったのだ!!


 乙女の唇を奪う許されざる男、それがハバネロ公爵である!!


 はてなー?

 乙女心は秋の空でしょうか?

 俺にはさっぱり分かりません。

 男を翻弄する悪女なのでしょうか?

 ユリーナ美しいからそれでも良い!


 考え込む俺に可愛いユリーナが不思議そうに声を掛けてくる。


「赤騎士、どうしたのですか?

 突然、黙ってしまって。」

「ああ、すまん。

 ユリーナ様のあまりの美しさに何故、神はこれほどの美を世界に与えたもうたのか考え込んでいた」


 俺の本音に心底呆れ顔をする。


「……色んな女をそうやって口説いているのですか?」

「いいえ? 心の底よりユリーナ様だけです」

「……じゃあ、良いです」


 あ、良いんだ?

 ちょっとニヨニヨしてしまう。


「大将悪人ヅラになってんぞ?」

 黒騎士にツッコミを入れられた。

 あ、悪人ヅラじゃないやい!


 そんな俺たちを見てガイアがボソリ。

「……赤騎士。やっぱり一体、誰なの?」

 バラさないぞ!?

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