第45話共闘①

 改めて皆に声を掛け直し、簡易な地図に書き込んだ村の配置と大型モンスターたちの予測進路を示し、作戦の続きを話す。


「大型モンスターも無尽蔵という訳でもない。

 粘れば村を十分守り切ることが可能だ。

 そうは言っても、今回大型が発生したメカニズムが不明だ」


 本当は分かってる。

 邪神集団の司祭が大型モンスターを操って、邪神の情報のあるという『噂』があるこの村を消そうとしているのだ。


 俺はその情報があることを知っているが、他の人からすればそんな『噂』があるに過ぎない。

 邪教集団からしても確証がある訳ではなく、実験のついでという感じなのだろう。


 その証拠というほどではないが、主人公チームが粘れば程なく撤退している。

 現実がゲーム通りとなるとは限らないので、撤退してくれると思い込んで行動すれば痛い目だけでは済まない。


「黒騎士、ガイアと一緒に相手の背後を強襲して欲しい」

「ちょっと待て、赤騎士とやら。何で貴殿が指揮を取ろうとする。

 むしろ貴殿が我が指揮下に入るべきだ」


 ユリーナのお付きの男聖騎士、ゲームでは聖騎士Aという扱いで名前が出て来ない。

 大公国崩壊辺りでいつの間にか居なくなっている控え要員。


 能力Dでそこそこの能力だが、主人公チームは能力BやCがごろごろ加入してくるからなぁ……。


 それにゲームならなんとも思わなかっただろうが、今となっては大公国崩壊辺りに居なくなるというのが、なんとも言えない気分になってしまう。


 やっぱ、そういうことなんだろうなぁ。

 強く生きるんだよ、ホロリ。


 ぽっと出の俺に対しても貴様とかお前とか言わないだけ、彼は大変立派な騎士だと言えよう。


 ……しかしね、キミたちに主導権を握られては困るのだよ。

 だから、それを俺は鼻で笑う。


「モンスターの規模は?」

「は?」

「動きは? 何故、大型モンスターは現れた? それに対する対策は?

 最終的にどこを勝利と定義して動いている?

 そう言うということは、すでに作戦は計画済みなんだろうな?

 俺たちが話をしている間に考える時間はあったぞ?

 情報はどれだけ得ている?」


 大型モンスター強襲の情報しか掴んでないのは知ってるし、そんな急に情報を聞いて即座に対処が出来る訳がないことも。


 つまり情報戦で既に我が勝利なのである!

 ゲーム知識というズルしてるけどな!

 ガイアが『同じ』なら知っているかもしれないけれどね!

 それならそれで、これで確証が得られればそれもまた良し!


「……それは。」

 俺の問い詰めに男聖騎士は咄嗟に反応出来なかった。

 当然である!


「何も出来てないくせにガタガタ抜かすなぁああ!!!」

 ダンッと机に拳を叩きつける。


 貴様みたいな馬の骨が信用出来るか、とでも言われるかと思ったが、おそらくは俺がユリーナと仲良く(?)話をしていたことや世界最強のガイアの剣を黒騎士が避けて見せたことなどは影響しているだろう。


 突発的な衝動だけで行動して関係を悪化させることを良しとしなかったのだ。

 やっぱり理性的な良い聖騎士なのだろうな、部下に欲しい。

 ユリーナを守ってくれたらそれで良いけど。


 万が一があったら困るから、主導権は渡さないけどね。


 そんな俺の様子に相手方が息を飲む。


「こちらは『俺たちだけ』で大型モンスター7体であっても、無傷で討伐したこともある専門家だ。

 大型モンスターの数もすでに把握している。

 ミノルタ2体にゴブリナ13体だ。


 三方から村に接近しているが、各々は連携などせずバラバラで突っ込んで来ている。

 順番さえ間違わなければ、各個撃破により確実に討伐が可能だ」


 そうして男聖騎士を目線で威圧する。


「いいな? 『順番さえ』間違わなければ、だ。

 言っている意味は分かるな?」


 俺の指示に従えば問題なく勝てるが、従わなければどうなるか分からない、といい含めながら。

 グッと息を飲み、男聖騎士は身体を思わず引く。


 ……正直、気持ちいい。

 これが『分かってる』人間だけの高圧プレイなのね……。


『ずりぃ〜、村に入る前に情報仕入れて整理終わってから来てるのに、村の中に居たコイツらが大将ほど情報掴んでる訳ねぇじゃんよ〜』


 黒騎士はニヤニヤしている。

 黒騎士さん、茶々入れない。

 口に出さなかっただけマシか。


 それから俺は恭しくユリーナに一礼する。


「……さりとて、聖騎士殿が元貴族とはいえポッと出の冒険者がしゃしゃり出ることを不安視されることもまた道理。

 ですが、ユリーナ様。

 ここはわたくしめを信じては頂けないでしょうか?

 必ずや貴女様のご期待に応えて見せましょう」


 俺の貴族『風』な優雅な礼に何故かユリーナはジト目。

 あれぇ〜? ダメ?


 ユリーナは諦めるように小さくため息を吐く。


「セルドア。

 『専門家』がこう仰っているのです。

 任せましょう。

 残念ながら、我々は大型モンスター討伐に慣れているとは言い難いのですから」

「はっ」

 セルドアと呼ばれた男聖騎士はそう言って引き下がる。


 うむうむ、正しくユリーナに従っていて実に素晴らしい。

 ユリーナが俺の指揮を受け入れるにしても、大公国の姫であり部隊長としての立場がある。

 はい、そうですねと何も言わずに一般の冒険者に従ってはいけないのだ。


 俺が満足気に頷くと男聖騎士は嫌そうな顔をする。

 俺がその辺りの貴族的なややこしい建前を理解していることに気付いて、苦い顔をしているのだろう。


 まあ、俺の本音としてはユリーナを守れれば、建前なんてどうでも良いんだけどね?


 あ……、建前的に冒険者が報酬を求めないのも変だよなぁ。


「ユリーナ様」

「なんでしょう?」

 くっ! 呼び掛けてユリーナが反応してくれるだけで眩しくて目が眩みそうだ。


「この討伐が成功したら、報酬にハグしても良い?」

「……婚約者以外に抱き締められる訳にはいけないので、ダメです」


 バラせと言うのかぁぁあああああ!!!

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