第43話赤騎士、ユリーナに捧ぐ②

 少しだけ、そうほんの少しだけ微妙な空気になったが、それがかえって俺たちの空気を緊張感からほど遠いものにした。


 騎士の男の方は、カリーたちにあんた達大変だな、と声を掛ける。

 掛けられたカリーたちはこちらに聞こえないように、色々破天荒な方でな、と言っている。


 口の動きで分かるんだからね!

 いかん! 親しみやすく優しい好かれるハバネロ公爵様の印象が遠くなってしまった。

 それに破天荒って、鉄山公みたいな感じなアレなイメージがついてない?


 それはそうと俺はこの村周辺の地図がないか確認。

 あ、ないの?

 隠している訳ではなく?

 まあ、地図というのは軍事情報なので、こんな田舎の村に備え付けているものではなく、隣にある宿場への移動もどの方向にこのぐらいという感覚的なもの。


 今回は俺が作戦用の概略地図を書こう。

 紙の中心に村を置き、宿場からのおおよその距離、大型モンスターの移動予定、後方の街や村のざっくりとして配置を書く。


「ではまず、ユリーナ様。

 大型モンスターの襲撃だが、最悪の場合、村の人間を全て逃すことも考えておかなければならない。


 あと援軍だが間に合わなくとも事後の事があるから即要請を。

 要請は? まだ?

 こちらの戦力は割けないから、村の人を使いすぐに行うこと。


 要請をお願いする場所がない? ここから1番近い砦とかは……大公都が1番近い?

 1番近いって何日掛かると、あ〜……、田舎の村の方まで駐屯させておくと兵の数が全く足りないのね?

 姫自ら動いている意味を理解してなかった、ゴメン。


 それならモンスターは共通の敵という口実で、公爵領の方に遣いを出すといい。

 良いのですかって……良いに決まってるが?」


 そちらの方に向けて遣いを出すと、公爵領に入るよりずっと前にあら不思議、公爵家の一団が待機しておりましてよ?

 遣いは『偶然』遭遇した一団に助けを呼べるという筋書きだ。


 あら? 皆さん、微妙な顔してどうしたの?

 黒騎士なんて頭を抱えて。

 この話、そんなに不味かったか?


「……なあ、大将。ほんとのほんとに隠す気あるのか?」

 黒騎士は少しだけ配慮する様に声を抑えてボソリと。


「何を言っているのか分からないな?

 モンスターは世界共通の敵だろ?

 それにハバネロ公爵とユリーナ……様は婚約関係だ。

 モンスター対処で兵を出すのは、何もおかしいことじゃないだろ?」

「いや、そりゃ普通はそうなんだが」


 そこで何故か青髪が食ってかかる。

「『あの』ハバネロ公爵が婚約者の危機と言えど、援軍なんか出すわけないだろ!

 あんた突然、割って入って何を言い出すんだ!

 アイツは……、あの残虐な公爵は村の住人が1人残らず無惨に殺されようと、少しの痛みを感じたりするものか!」


 いえいえ、ユリーナのためなら全軍でもって助けに来ますが?

 動かそうとしたら内部からと外部の敵から、隙を突かれて崩壊してしまうだけで。


 しかし、主人公君、えらく熱が籠ってるね?

 ハバネロ公爵に恨みあるの?

 ……そういう設定があったかなぁ、と思い返すが特に思い浮かばない。


 でもそうか、主人公は当然、ハバネロ公爵の討伐に関わっているし、初登場の場所も公爵領と大公国の境目。

 そうであれば多くの民と同様、公爵になんらかの苦難を与えられていたとしてもおかしくない。


 主人公に恨まれるのは、中々不味い。

 下手をすると主人公チームの不和となり、しいてはユリーナの安全に関わる。

 つくづく顔を隠して正解であった。


 ……ここは、主人公君に同調してハバネロ公爵は赤騎士とは別人であることを示しておくべきか。


 ……でも残虐なイメージを払拭したいなら、この噂に同調してたらアカンよね?


 どうするべきか? そう思案しているとユリーナがオズオズと俺を見て、心配そうに尋ねる。


「大丈夫でしょうか?

 ハバネロ公爵閣下は援軍を出してくれると思いますか?」

「無論、出すでしょうな」


 そりゃあんた、ユリーナの危機に俺が動かないわけがない!!

 ……って言うわけにはいかないからぁ〜。


「……さっきも言った通りだ。

 モンスターは共通の敵。

 それに対する救援を突っぱねたとしたら、『王国内部』から攻撃の口実にされるからだ。


 曰く、名誉ある騎士としての役目を蔑ろに〜とかな。

 他国の風聞ならハバネロ公爵は気にもしないだろうが、かの者は王国公爵であることを誇りにしている節がある。


 救援要請の文言に『名誉ある王国騎士としての人類の敵であるモンスターへの』と入れてやれば、動きたくなくとも動かざるを得んよ」


 成る程と、皆が頷く。


 要は大義名分と口実があれば良いのよ、これ戦争する際にもよくある話で、地位がある人が動くのに動くだけの理由が屁理屈だろうが付けないと、下で動く人が迷って動いてくれなくなるのよ。


 その逆の流れで大義名分があれば、地位ある人は動かざるを得ない訳よ。

 貴族社会に限らず、どこでもこんなもんよね。


 そこでひょこりという感じで、ガイアが俺とユリーナの間に割って入り納得したように頷く。


 だが世界最強と呼ばれる緑髪少年は、やはり一癖あった。

 その中性的な顔にニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて口を開く。


「……凄いね?

 そんなことがすぐに浮かぶだなんて、実はお貴族様?」


 小僧ぉぉおおお!!!

 俺が必死に誤魔化して、助けを呼ぶ口実作ったんだからそれで良いだろうがぁぁあああ!!!


 掘り下げてくるなよぉぉおおお!!

 お稚児趣味じゃないけど、ベッドに連れ込むぞゴラァアア!!!

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