第42話赤騎士、ユリーナに捧ぐ①

「……赤騎士。

 聞いたことのない名前だね?」


 ガイアが今度は俺に近づき、俺を伺うように覗き込む。

 こうして相対して見ると意外と小柄だ。


「キミの大将?」

 ガイアが俺を指差して黒騎士に尋ねる。

 それからジト目で俺を見上げる。


 僕、疑ってますよ?

 ガイアはあからさまに態度でそう言う。

 ……ちょっと目覚めてしまいそうなほど、可愛いだけにしか見えないのは置いておいて。


 ……もしも、ガイアが俺と『同じ』なら、そりゃあ疑うよな。

 問題は『同じ』だとしても味方とは限らないことだ。


 ゲームのガイアは強さと賢さを併せ持つ熱血派。

 そして、その真っ直ぐな心の根に疑いようはなかった。

 だが、目の前のコイツはどこか違う。

 これほど人を疑う奴だっただろうか?


 少し、そうほんの少し……何というか自信の無さというか?

 ジッと見るだけで頼りない少女のようにブレる感じがする時があるのだ。


 それだけなので強者オーラも感じるし、ゲーム設定を知っている俺でなければ分からない違いだ。

 設定が全て正しいわけではないのは今更なので気にするほどではない気もする。


 さてそれはともかく、味方ならこれ以上ないほど助かる存在だが、敵ならどうなるか火を見るより明らかだ。


 今ならハバネロ公爵よりも世界最強の剣士の言葉の方を誰もが信用する。


 ハバネロ公爵の今の状態なら、背中を押すだけで終わりなほど詰んでいるのだから。


 例えば大公国へ行って、アイツ隙あれば大公国吸収する気だよ、とか。

 すでに吹き込んでいる奴はいるだろうから、その必要すらないか。


 いや、俺に対してなら今更だから仕方ないにしても、ユリーナへのチョッカイをかけられでもしたら……例えば、男として手を出したり?


 ガイアは美少女に見えても男。

 ならば、俺を攻撃することを口実に美しいユリーナについ手を出してしまいたくなることは十分考えられる!


 許せぬ!!


 ……そんな訳で、バラす=生殺与奪の権利を相手に与えるだけなので現段階では言えないし、言わない!


「残念ながら俺らは有名ではないからな。

 世界最強のお方が知ってる方がおかしな話さ」

 俺はそう言って肩をすくめて見せる。


 あ、でも後からユリーナの口からバレるかも。

 口止めお願いしておかないと。


 ガイアは疑わし気な目のままだが、それ以上追及はされなかった。

 同時に青髪主人公までもが俺を疑うような目……さっき俺に斬りかかられそうだったからかな?


 主人公の名前はリュークだったな。

 ユリーナにちょっかい掛けないように牽制しておこう。


「リュ……青髪、ユリーナ様にご迷惑を掛けるなよ?」

 あっぶねぇ、名前を聞いてもないのに名前を呼びそうになった。


「……あんた。どんだけユリーナ様のファンなんだよ?」

 青髪は呆れた顔で俺を見る。


 むむむ?

 その顔からはユリーナにちょっかいかける気配は無さそうだが、いやいや、男は狼。

 ユリーナには十分注意してもらわねばならん。


「当たり前だ!

 天上におわす神々も彼女の前では跪くに違いない。

 その美しさは当然、女神も嫉妬すると言って相違ない。

 やはり、美とはそう彼女を現すのだ!

 俺もこうして日々、このユリーナ様に敬愛の念を示すべく肌身離さず、こうしてこの絵姿を……」


 そう言いながら、俺は大公からもらったユリーナの絵姿の中で、コンパクトサイズのものを懐から取り出す。

 汚れないようにカバーは必須だ!


「な、何を持ってるんですかー!?」

 ユリーナが顔を真っ赤にして慌て出す。


「む!? 愛しいこん……、ごほん、失礼、いと……敬愛するユリーナ様の絵姿は肌身離さず持ち歩くのが、ファンとしてあるべき姿であるとそう思っているが故ですが?」


 ああ、ワタワタしているユリーナ、良いのう……。


「なあ、大将。

 あんたマジで隠す気あるか?」

 黒騎士がツッコミ。


『あ、あるぞ!?

 あと口に出して言うな。

 バレるじゃないか!

 ただの変な人とは思われても、ハバネロ公爵とはバレていまい!』


「……まあ、それもそうだけど、それでいいのか?」


 今はそれで良いのだ。

 いずれは堂々とユリーナへの愛を叫びたいものだ。

 そうやって俺が腕組みをして想いを馳せていると、ユリーナが少し涙目で俺の袖を掴んできて一生懸命首を横に振る。


「なんだかよく分かんないけど、よく分かったから、もうやめて?」

 ふむ? 特にこれといって何もしていないがユリーナがそう言うなら。

 村の防衛についても対処を急がねばならんしな。


 俺はユリーナの手を取り、甲に再度口付けした。

 何度も言うが美味である。


「……もう、この人誰よ?

 私の知っている人と違う……」


 赤い顔で涙目でユリーナは訴える。

 ふむ、やり過ぎて怒らせてしまったか?怒っていても可愛いとはこれ如何に。


「赤騎士です。

 どなたかとお間違えなきよう」


 スクっと俺は立ち上がり、皆を見回す。

 なんだかとっても微妙な空気が漂うが気にしてはいけない。


 心を強く持つのよ、ハバネロ。


「……さて、いつまでもお美しいユリーナ様を愛でたいところだが、ここはもうじき大型モンスターの襲撃がある。

 早急に我らは共闘し、これに立ち向かわねばならない!」


「……どの口がそれを言ってるんだ。」

 額に手を当てて、黒騎士が嘆く。


 ガイアが俺を指差し、黒騎士に再度尋ねる。

「ほんとにこれ、君の大将?」

「……認めたくないがな」


 何故だ!?

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