第41話私は赤騎士、公爵閣下じゃないよ?②

「姫様! どうされました?

 その者が何かありましたか?」


 そう言って先程まで固まっていた騎士らしき男が俺を睨みながら前に出て、女騎士がユリーナをカバーする様に彼女の横に並ぶ。


 俺は両手を軽く挙げ、抵抗の意思がないことを示す。

「なんでもない。美しきユリーナ様にご挨拶をさせて頂いてただけだ」


 怪しい奴、と2人の騎士が目で言っているのがよく分かる!

 お願い信じて!

 どう見ても怪しいかと思うけど信じて!!


 なんでだろ? 黒騎士からも変な物を見る目をされている。

 ユリーナは諦めたようにため息をつきながら、おかしいな、こんな人だったかなぁ、と呟いている。


 ハバネロ公爵じゃなくて赤騎士だからってことじゃダメですか?


「どうしたんですか?」

 騎士たちに遅れて青髪と緑髪が近付いてくる。


 あの青髪は!!!

 俺は震える手で剣の柄に触れてしまう。

 お、落ち着け、オレェエエ……。

 ヤツはゲームのヤツとは違ってまだ未遂だ。


 さりとてここで後顧の憂いを断てば、俺は安心してユリーナとラブラブハッピーになれるのではないかぁああ?


 舌がチロチロと伸びてツノが生えて鬼の形相になってそうだ、オレェエエ……。


「おいおいおい……大将、落ち着けよ?

 あんたさっきから暴走し過ぎだぞ!?

 あんたそういう人だったか? もっと冷静だったはずだろ!?」


「オーケー、黒騎士、俺、最高にクール、ユリーナ……様に寄ってくる虫、キル。」

 青髪が、なんだコイツ、と音に出さずに口が動く。


 俺の脳内にあの時の青髪と黒髪のワンシーンが思い出される。

 おのれ、青髪……。


「……知能低下してるじゃねぇか。

 おい? お前らも見てねぇで、大将止めろよ、ってなんでお前らも剣を抜こうとしてんだよ!?

 ちげぇだろ!? 俺ら協力しに来たんだろ!?」


「モチロンだ、ただ、羽虫切る、だけ」

 黒騎士くん、君の言うことはもっともだ。

 羽虫を切り捨てたら、後は協力し合うだけだ。


「ちょ、ちょっと姫さん、止め……うわっ!?」


 慌てた黒騎士に一足飛びで緑髪の美少年が切り掛かって来たので、慌てて黒騎士は避けた。


「さっすがぁ〜、久しぶりって初顔合わせだったね!

 君とは一回やり合ってみたかったんだ〜」

「テメェ……、いきなり何しやがる。

 何モンだ?」


 黒騎士が油断なく美少年を睨みつける。

 美少年はなんだか、とっても嬉しそう。

 緑髪にサファイアの瞳。


 ……なんでこんな序盤で最強と言われるガイア・セレブレイトが合流してんの?


「君は『あの時』突然居なくなったからさぁ、心配してたんだよ?」

 心配していたと言う割に、満面の笑みで自らの愛剣の神剣アルカディアを構え、今しも切り掛かろうとしている。


「あ〜……、待った待った! 悪かった!

 無体を働く気はない。

 だから、その剣を下ろしてくれ。

 最強の剣士のあんたとやり合う気はない」


 流石に斬り合いを本気で望んだりはしない。

 俺は両手を挙げて敵意が無いことを示す。


 コイツこんなに好戦的だったか?

 もっと正義感があって熱血みたいな……少女と見紛みまがう美少年の顔の割にヒーローみたいな感じだったのに。

 なんだかやさぐれてる?


「え〜、もう終わりー?

 良いじゃん、もう少し遊ぼうよ。

『まだ』時間あるよ?」

 む〜っと可愛らしく口を尖らせるガイア。


 やっぱり……コイツ、俺と『同じ』か?


 なんと声を掛けたものかと悩んだところで、ユリーナがパンッと手を打つ。


「そこまで。

 ガイアもここは引いて下さい。

 こ……赤騎士もなんで興奮してるんですか」

「美しいユリーナ、様にお目通りが叶ったんだ。

 テンションも上がる」


 俺が本音を言うと。

「え!? え!?」

 明らかに戸惑い、ユリーナは目線が右見て左見て。

 それから分かりやすく動揺したまま呟く。


「あれ? 本人だよね?

 なんだか、この間と全く雰囲気違くない?」


 本人ですよ?

 キスの直後から正気(?)になりましたが。

 動揺してくれているのが楽しくてさらにテンション爆上がり!


 ……おっと、危ない。

 認めたらダメだった。


「なんのことでしょう?

 麗しきユリーナ様」

 跪きユリーナの手を取り、その手の甲にそっと口付け。

 うむ、美味である。


 やってることは貴族っぽくとも内面は変態ちっく。


 ユリーナが顔を真っ赤にして震えている。

 あ、怒らせたかも……。

 そりゃね、嫌いな相手にこんなことされれば嫌だもんね。

 あー、切ない。


 立ち上がり、胸に手を当て一礼する。

「失礼。

 ユリーナ様のあまりの美しさに我慢が出来ませんでした」

 ちょっと寂しく微笑み。


 作っているわけではなく、本当にちょっと寂しい。

 好きな子に嫌われるってキツイね?


 そこに横合いから黒騎士がボソリ。

「なあ? 大将。

 本当に隠す気、ある?」


 な、なんだ、と……?

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