第38話その名は赤騎士!?②

 黒騎士と細部の状況を打ち合わせをして、援軍を向かわせることにした。

 ユリーナに何かあっては大変なことだからだ。

 ただし、主人公は死んで良い。


 ……本当に死なれたら困るけど!

 死んで欲しい気持ちは、きっと誰もが分かってくれる筈だ!!


『分かった。その村の手前に宿場があったはずだ。そこで合流しよう』


 さて……俺は一団を振り返り……。

 公爵が一団から抜けるのって……やっぱ、マズイよね?

 どうやって我が領の者たちを説得しようか考えた。




 ……結論で言えば、サビナ以外誰も引き止めなかった。

 そうだよねぇー、意見して切られたりしたら嫌だもんねぇー。

 ハバネロ公爵って逆らう者には容赦しない感じだものねぇー。

 そして、嫌われてるからね!


 そんな訳で割とすんなり一団を町に残して、俺はカリーとコウ、エルウィンを連れて目的地手前、村から2時間ほどの距離の宿場で黒騎士と合流を果たした。

 この3人はもう俺の直属だね!

 やったね! 大出世。

 嬉しいかどうかは微妙だろうけど……。


 3人にはデータ取得ついでということで、試作の王国製パワーディメンションを付けてもらっている。

 量産出来る状況ではないし、試作品なので安定感は信用し切れない。


 試作品は実戦データを取って、安定性を計らないとパワーが定まらず戦場では何が起こるか分からない。


 開発者本人が作成したとはいえ、黒騎士の付けている完成品とは違うのだ。

 それでも3人の能力不足の底上げには役に立つ。


 当然、人体に数値が出る訳ではないが、大公国出発までの訓練ではカリーとコウは能力C、エルウィンも能力D相当に並ぶといったところ。

 安定感で少しマイナスにはなるが。


 それでも優先的に他の魔剣研究チームから技術者を引き抜いてオーダーメイドで作成したので、完成品にはかなり近付いているはずだ。


 サビナだけはユリーナに顔を見られているので、連れて行く訳には行かなかった。


 俺? 俺はほら、残念だけど嫌われてるからね。

 顔を隠して格好を誤魔化せばいけてしまうはずだ。


 特にサビナなどは護衛の際に、彼女の愛剣バルザックも見られているだろうが、ハバネロ公爵の愛剣サンザリオン2は一度も見られていないはずなのでなんとかなる。


 何よりハバネロ公爵の俺には常に護衛として、サビナが付き従った。

 むしろ俺という人物を証明するのは、サビナが一緒に居るかどうかなんじゃないか、とすら思う。


「そんな訳あるか」

 黒騎士にツッコミを入れられた。

「いやいや、イケるって。

 考えてもみろ?

 こんなところに公爵様がいる訳ないだろ?

 しかも、『あのハバネロ公爵』が!」


 ここまでは商人とその護衛という出立ちで移動して、ここからは全員冒険者に偽装して、ユリーナたちがいる村に入る予定だ。


 ゲームで冒険者イメージを知っている俺はかなり偽装出来ると思う。

 むしろ、カリーたち3人の方がエリート臭が残ってそうな気がしている。


 後は仮面で顔を隠せば、まあ、特徴はあるがハバネロ公爵に結びついたりはしない、はずだ。


「そりゃ、そうだ。

 ……で、あんたなんでここに居るんだ?」


 それはもちろん、ユリーナの危機なら何を置いても助けなければいけない!


「たまたま近くで俺が動かせる黒騎士以外の最高戦力が俺だった、というだけだ」

「いやいや、そもそも公爵自身が選択肢にあること自体が問題じゃねーの?」


 せやかて、仕方ないやないかい。

 信用の出来る味方が少ないんだから!


 メラクルの件もそうだが、俺と大公国との繋がりを良しとしない連中が確かに存在し、俺はそいつらのシッポを見つけることが出来ていない。


 ここで迂闊にハバネロ公爵としてユリーナを支援してしまうと、そいつらは強行策に出かねないのだ。


 その時に狙うのは当然弱い部分。

 大国である王国の公爵と小国の大公国の姫、狙いやすいのはどちらか、ましてや、姫の方は少ない手勢で任務のためにウロウロとしているときた。


 まあ、つまりユリーナの命やら何やら色々と危ないのだ。


 暗殺、毒殺、なんでもござれ、だ。

 メラクルの仕掛けから見ても、後ろ暗い真似もバレなければどうとういうことはない、そんな精神性の魑魅魍魎が相手だ。

 用心してし過ぎることはない。


「そうだな。

 あんたの居る貴族社会ってのはそう言うところなんだろうな。

 んで、なんで居るわけ?」


 もう公爵じゃなくて、あんた呼びだな。

 どっちでも良いけど。


「いやぁ〜、大公国で目的のユリーナの絵姿を貰えた訳だけど、やっぱ本物に会える機会があるなら会いたいだろ?」


 何度も聞かれたので、俺はついに本音をゲロった。

 そんなこったろうと思ったよ……と黒騎士はガクッと肩を落とす。


 それと口には出来ないが、ゲームと現実とのズレがないか確認が必要なのだ。

 1番の理由はそれだ。

 このズレというのが1番危うい。

 これからユリーナを襲う苦難はその僅かなズレが致命傷になる程厳しいものだ。


 ゲームの結果は、母国を失うほどの苦難であるにも関わらず、それでも数々の幸運に裏付けされた奇跡的な結果だったのだ。


 つまりこの僅かなズレがユリーナの命を危うくする。

 実際にまさにそのズレが、現在ユリーナを危機に陥れているほどに。


「それにな、やはり公爵本人がここに居るという事がまずあり得ん訳よ。

 あり得んからこそ、変に他の手勢を動かすよりも俺個人が動いた方がバレづらい訳だ」


「……まあ、姫さんたちにもあんたがバレなければな」


 それなのよねぇー……。

 残念だけど、ちょっと変装しただけで気付かれないと思うよ?

 それほどまでに婚約関係を結んでおきながら、関係がほとんどなかったりする。


 ……悲しいけどね!! チクショー!!

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