第39話その名は赤騎士!?③

「へぇ〜、化けたね? それなら赤髪でも、そうと疑って掛からない限りはバレねぇかもな?」

「だろ?」


 俺たちは今、どう見ても冒険者にしか見えない薄汚れた格好で偽装している。


 整えていた髪を乱して、貴族然としたピシッとした雰囲気から、やさぐれたような雰囲気……ちょっと背筋を無駄に逸らしたりかがめたり、肌を土で汚し化粧も少し施し、服もぼろぼろの物にする。


 これだけで印象は大きく違う。

 カリーたち3人は俺の姿を見て、二度見したぐらいだ。


「……閣下、良くお似合いで」

 似合っているという言葉が正しいかどうかも分からんが、上手く偽装出来ているようだ。


「何が凄いって、見た目とかよりも雰囲気がなぁ。

 以前の噂に聞くハバネロ公爵からは絶対に結びつかないだろうな。


 チンピラ風というか、冒険者らしい雰囲気というか……何というか、公爵には見えねぇなぁ……。

 まあ、今のあんたを知ってる俺としちゃあ、何も変わってないようにも思うがな」


 それは俺が公爵っぽくないと言ってるんだな?


 まあ、そうだな。

 噂のハバネロ公爵でいる方がしっくり来ないし、そもそも以前とは口調からして違う、らしい。

 貴族然とした傲慢な言い方を常にしてたとか。

 カリー、コウは以前の俺にも接してただろうから、そこにも今との違いに戸惑っているようだ。


「ここからはあくまで俺はお前たちのリーダーだ。

 俺が公爵って事は忘れろ」

「しかし、それは……」

 カリーが戸惑う。


 む? まあ、急に言っても難しいか。


「ならば、俺は元貴族で没落したが、お前たちは昔の忠義を忘れずそのまま俺について冒険者をやっているという設定でいこう。


 罰したりしないから、可能な限り冒険者らしい態度で俺に接すること、いいな?

 これは重要な任務だということを心得ろよ!」


 3人がビシッと敬礼する。

「は!」

 まあ! とっても規律の取れた敬礼ですこと!

 それがアカンちゅうねん。


「……もういい、出来るだけ喋るな。

 どうしても口を開く時は出来るだけ敬語や丁寧語は使うな。

 前討伐した盗賊をイメージして話せ」

「は……、へぇ……」


 うん、それでいいや。


「エリートさんには難しかったんじゃないかなぁ〜?」

 ニヤニヤと黒騎士が笑う。

「それでも信用出来る3人だ。

 俺としては頼りにしてるさ」


 へぇ〜と黒騎士は笑い、カリーに振り向き尋ねる。

「……以前の公爵とやらとは大分違うかい?」

「は……へぇ、雰囲気だけで言えば、似ても似つかないかと……」


「なら、ぱっと見で分からない以上、ハバネロ公爵とバレることはまずないかもな。

 今のあんたを知ってる人間なんてほとんどいねぇんだろ?」

 そうだな、と俺は頷く。


 それはそれで寂しい。

 ハバネロ公爵のことを本当に知っていた人は、誰も居ないということなのだから。


 なあ、『ハバネロ公爵』?

 お前は本当にそれで良かったのか?


 ……仕方ないのかもな。

 状況に翻弄されて、やるべきこととして残虐になることを選び、王国の公爵というプライドだけで立っていた。


 ……けど、嫌われ者はやっぱキツいぞ?


「さて、状況的にはどうだ?」

「商人たちが大型を見たって話が流れてる。予定通り村に向かってるなら、半日と少しの距離ってところかな?

 不自然に大型の数が多い」

「ああ、操られてるからな」


 俺が平然と言った言葉に、全員がギョッとして俺を見る。


「……またかよ。

 情報とかじゃねぇな?

 もうほぼ予知じゃねぇか……」

 苦み走ったような表情で黒騎士は顔をしかめる。


 それには俺は肩をすくめて見せる。

「……情報だよ。精度が高いのもたまたまに過ぎない。

 それを信じ過ぎればどういうことになるか、考えなくても分かるだろ?」

「……かもな」


 情報の元はゲーム設定です。

 あれ? 予知と同じ?

 ん〜、大きな流れが変わるほど変化は起きていない……ってメラクル生きてるな。


 いずれにせよ、ゲーム通りの未来では邪神討伐は出来るだろうが、それでは俺が討伐されてしまう。

 これに頼りすぎると間違いなくしっぺ返しを喰らう。

 もっと色々な情報が欲しい……。


「なあ、黒騎士。信用出来る密偵のアテないかぁ〜?」

「テメェ、分かって言ってんじゃねぇのか?」

「ん? 何をだ?」

 本当に何をだ?


「ま、何にしても今この時をなんとかしないとどうにもなるまい」


 俺はそう言って締め括る。

 納得はいってなさそうだが、それでも黒騎士はため息一つだけで許してくれた。

 それから実際の方針を簡単に伝える。


「偶然、村に来たらモンスターが近付いているから手助けする、という流れだ。

 そのための流れの冒険者の格好だ。


 それでも口調や雰囲気は違っても声質は同じだから、あまり話すわけにはいかない。

 向こうのチームとの会話は出来るだけ黒騎士に頼むことになる。

 頼んだぞ?」


 そして、最後に顔の半分を隠す仮面を装着。


「今から俺は赤騎士だ」

「くそ、ダセェ」

「うるせー、仕方ねぇだろ?

 雰囲気が違う言っても、顔を見られるのはよろしくないんだから。

 でもこれでまずハバネロ公爵とはバレないだろ?」

「あー、まあな」


 黒騎士の同意も得られたことなので、意気揚々と流れの冒険者として村に入る。





 そして……。


「何してるんですか? ハバネロ公爵閣下」

 いきなりユリーナにバレた。


 何でやぁぁあああああ!!!!

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