第34話大公国④

「それで何をお話に?」

「いやな、ユリーナ姫の美しさについて語り合っていた」

 事実です。


 ちょっとその後、ギスギスしてしまっただけで!


「ユリーナ様の美しさについてですか?

 それはそれは……ハバネロ公爵閣下。

 是非とも我が国の姫共々、良き関係をお願いしたいものです」


 俺の盃に酒を注いでくれながらおほほ、と楽しげにレイリアは笑う。

 ……でも目が笑ってませんよ、お姉さん。


 結局のところ、王国であろうと大公国であろうとこういった晩餐は戦いの場であるということだ。

 それ故に例えば、料理人は食べられようと食べられまいと、その食事に命を賭ける。


 珍しく美味な料理や深く心を突く料理。

 それらは他国の者を晩餐に招く際の国の貴族たちの武器となる。


 料理に感動してくれれば、そのまま友好関係を結び、味方になった上により良い条件で交渉が上手くいく。


 無論、そのような武器は料理に限った話ではない。

 晩餐の会場や雰囲気、参加者の構成。

 他国の者を如何にもてなし、その国が望む条件を引き出せるか、あるいはマウントを取れるか。


 先程サワロワが言ったような、何しに来た、と不躾ぶしつけで危うい質問の仕方も、酒の席での失言の建前を用意しながら行うものである。

 何度も言うけど、危ういけど。


 それが国同士の外交時の晩餐の意味。

 今回の大公国の晩餐の目的、それはひどく簡単なものである。


『ハバネロ公爵は何をしに大公国に来たのか?』


 これだけである。

 それが分からないことには大公国は、如何なる交渉も纏められるものもまとめられない。


 大公国はハバネロ公爵に対し、圧倒的な不利を感じているのである。

 長々と説明をしたが、要するに現在、国のトップと大公国の3大臣の1人によって探りを入れているという状況である。


 ……言った通りの目的なんだけどねぇ。

 大公の体調を気遣いに来たって。

 ユリーナが居ればユリーナに逢いに来たと言ったことだろう!


 当然、特に大公国での嫌われ者のハバネロ公爵、全く信用してもらっておりません!


 そんな訳で探られても何もない腹を、トップのお二人から探られているという訳である。


 しかし、肝心のサワロワだが呪いに侵されて体調を崩しているようには見えない。

 まだ、邪神の呪いを受けていないのだろうか?


 ゲームではいつの間にか衰弱し始め、帝国との戦争が終わった辺りで起き上がれない程になり、程なく亡くなってしまう。


 それを狙いすましたかのようにハバネロ公爵が大公国を潰してしまうのだ。

 流れでいうならば、ハバネロ公爵こそが邪神の呪いを掛けた当人のようなタイミングだが、ゲーム設定を探ってみてもそんな話は出てこない。


 ……そう考えるとこのゲーム設定というのも、なかなかに謎だ。

 肝心な部分に関して曖昧なのだ。


 ハバネロ公爵が大公国を潰した後も、レイリアは最期までハバネロ公爵に抵抗していたが、3大臣のあと2人はそのまま表舞台から姿を消している。


 3大臣の1人、パールハーバー伯爵はハバネロ公爵に暗殺を仕掛けた当事者でありながら、である。


 今すぐに分かる話でもないので、そのことは今は良い。


 ゲーム通りに破滅する気も大公国を害する気もない俺は、ユリーナとの関係もあるので義父であるサワロワとユリーナの所属する部隊の司令官であるレイリアとは正直、仲良くしたい。


 仲良くしたいが、その突破口は全く見つけられずにいた。

 自身を嫌ってる相手との友好を結ぶのって、とっても難しいよね……、無理って言えるぐらい。


 こういう時は適度に空気を壊してくれる存在が必要である。

 そうでないと、胃がとても痛い晩餐の時間が続き、まさに苦行!

 立派な修行僧の出来上がりである。


 我が味方は……サビナは居るけど、護衛であり男爵の娘で騎士爵でしかないから立場的にトップ会談に割り込めない。


 3大臣の1人、トロッド・マイリー侯爵は……あ、酔い潰れてうぃ〜っと気持ちよさそうに寝てる。

 自由だなぁ……。


 3大臣の最後の1人、パールハーバー伯爵は参加していない。

 アレが参加してても敵でしかないけど。


 先程からもはや俺たち3人は明日の天気は〜とか、侯爵領からここまでの道のりは〜とか、当たり障りのない話で3人が3人とも時間よ、早く過ぎろ!と感じているのが分かってしまう。


 うむ、打つ手なし!


 そして、最初にこの空気に耐えられなくなったのはやはり俺、というか1番このギスギスした関係を改善したいと思っているのは俺だということ。


 よって、俺は仕掛けた。

「サワロワ公。

 少々、頼みがある」


 義父と呼ぶにはまだ関係はギスギスし過ぎであるため、サワロワ公呼びである。

 いずれは義父と呼び、ユリーナを快く嫁に貰いたいものである。


「なんだね?」

 サワロワは返事を返してくるが、ちょっと警戒感。

 隣のレイリアも身を固くする。


 俺は盃を傾け、止まることなく突き進む。

 酒よ!

 俺に力を!!


「ユリーナの姿絵を頂きたい」

 2人がピタッと分かりやすく固まる。


 そしてサワロワが思いっ切り顔をしかめ、口を開く。

「はぁあ〜?」


 うん、まあ、今までの関係から言ったら、そうだよね。


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