第28話モンスターの脅威③

「大公国の聖騎士殿が何故……」


 そうだよなぁ。

 大公国の聖騎士というのは、大公国自身の理念というものにより実際の地位よりも他国から一目置かれている。


 権力におもねることを嫌い、やがて来る邪神復活の時に備え品性正しく、人を護ることを第一とする。

 そんな聖騎士に暗殺されに来るハバネロ公爵って……。


 このポンコツ娘を見ていると、とてもそんな風には見えないけれど。


「事情は知らない方が良い。

 いずれにせよ、メラクルが聖騎士であることは知らぬこととしろ。

 洩らせば命で払ってもらうしかない。

 ……だが、本来は知ってはいけないことを伝えた意味を理解しておいてくれ」


 言いふらされるとこちらが危ない。

 君たちを信用して言うんだからね、と言外に。

 どうせ言わないといけないなら、こういうポイント稼ぎ大事じゃない?


「はっ!」

 カリー、コウ、エルウィンは敬礼をする。

 そこには深い忠誠が見える、気がする。

 よく分からないけど。


「さあ、自分のやるべきことが分かったら出るぞ!

 なぁに、大型とか言ってるがただデカいだけだ。

 慌てず落ち着いて対処すること!

 いいな!」

 全員がビシッと敬礼を返す。

 何故か鉄山公までニヤニヤしながら。


「どうじゃ?リーア。

 わしの眼もなかなかじゃろ?」

「いいから鉄山公様行きますよ!

 相手は人類共通の敵、大型モンスターですからね!」


 黒騎士もニヤッと笑う。

「思った以上に面白い雇い主に巡りあったもんだ」

 うるせー。


 メラクルは何故かむくれて。

「……なんかムカつく。

 あんたに言われると本当に大丈夫なんだって思ってしまうわ」

 ムカつかれてもなぁ。


 トーマスは俺に頭を下げる。

「び、微力ながら頑張ります!」

「無理をするなよ?

 相手はデカいから怖いかもしれないが、デカいだけだ。

 難しいことは考えずに動き続けろ。

 お前の役目はそれで十分だから」


 俺の言葉にトーマスは感極まったように、はい、と元気よく返事。

 若いねぇ〜。

 要するに囮になれとと言った訳だけどな!


 サビナとカリー、コウ、エルウィンが並んで待っている。

「閣下。では、参りましょう」

 うむ、と俺が歩き出すと4人は後ろから付いてくる。


 途中で冒険者4人が合流。

 ライト、ブルー、パール、レモンの男2人に女2人。

 緊張を滲ませた顔をしていたが、カリーたちエリートたちが自信満々に彼らの役割を説明。


「失敗はない、安心して事に望め」

 最後に俺が良いところでニヤッと笑い、声を掛ける。


「あんた、その悪人笑いだけはなんとかならない?」

 メラクルに俺のハニースマイルがツッコミを入れられる。

 うるせー。





 町を覆う3mほどの低めの壁から見るだけで、大型モンスターが接近しているのが見える。


 モンスターの横に生えてる木々から見るに壁と同じような高さ、つまり3mほどになるか?

 設定でも大体、人の2人分の高さらしい。


「クレイ町長。大型の弓などはあるか?

 なければ小型でも構わないが、用意して並べておけ。

 最悪の場合、町に近付いて来たらそれで足止めしろ。

 それだけで事足りる」


 現段階で俺たち全員にもしものことがあるのは流石にあり得ないからな。


 全員に経験が足りなくても、ゲーム知識がある俺がいる限りスモーキー、要塞型大型モンスターが出ても何とかなる。

 ちなみに要塞型は10m近いサイズ。

 イメージ的にはドラゴンサイズ。

 あくまでイメージだが。


「モンスターのどれかが突出してくれていれば、さらに楽になるが……。

 まあいい、黒騎士!

 先行して一当てして来てくれ!

 可能なら各個撃破を図る!」

「あいよ!」


 言うや否や、前傾姿勢ですたたーと先行する。

 ちょっと絵本とかにある密偵っぽい走りだ。


 近付けば分かったが、幸いにもゴブリナ2体は一団から少し遅れてついて来ている。

 足の速さに個体差があるのかもしれない。


「黒騎士がサイドにゴブリナを弾くから、ミノルタから距離を取りつつゴブリナを牽制。

 メラクル! 足止め重視だ!

 無理させるなよ!」


「あいあいー」

 メラクルが軽快な返事。

 メラクルチームはやや左側から、先行するゴブリナ2体に一団となって当たる。



「サビナ! 鉄山公! ミノルタが2体連携して来ない限り、接近した最初の1体を集中して撃破。

 2人は左右の足を切りつけろ。

 俺がトドメを刺す」

 俺たちは黒騎士の後を追うように。


 黒騎士は心得たもので、ゴブリナとミノルタの間に入る形で突入し、狙い通り白い光を放つカッコいい剣撃で引き離す。


 必殺剣良いなぁ……。

 名前があったはずだが、流石に必殺技を叫びながら放ったりしない。

 ロマンではあるけど……。


 俺にも必殺技くれ!!


 そんなことを思いつつも、黒騎士の動きに目を奪われたミノルタの1体をサビナと鉄山公が足を掬うように左右に別れて斬りつける。


 足を切られ踏ん張りが効かないその1体に体当たりする様に首に剣を差し込む。

 意外に首元が柔らかいのか、それともサンザリオン2の切れ味が良いのか、あっさりと首を切り裂きミノルタは沈む。


 正直言って、コレで大勢が決したと言って良い。

『黒騎士! もう一回ノックバック頼む!』

『あいよ!』

 通信で伝えれば息切れもしない、超便利。


「サビナ! 鉄山公! もう一度だ!」

 それだけで2人は意図が伝わり、駆けながら黒騎士が弾いたもう1体のミノルタを同様に足を斬りつけ、全く同じように俺がトドメを刺す。


 コレが通常のモンスターの倒し方の一つだ。

 基本、その場での応用力というか学習能力はミノルタとゴブリナにはない。

 簡単に言うと、あまり頭が良くない。


 その代わり、ゲーム後半や邪神復活後は数だけはいるし、一撃のダメージがでかいので油断も出来ず鬱陶しい限りである。


 まあ、こんな感じに戦力もこちらが上で数もこちらが上なら全く問題はないのである。


 こうして、大型モンスターの脅威はアッサリと取り除かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る