第26話モンスターの脅威①

 町に戻ると、早速連絡をくれたカリーが駆け寄ってきて敬礼をする。

 無用と手でそれを制し、報告を確認。


 モンスターは2時間ほどの距離、真っ直ぐ町に向かってきている。

「モンスターが町を目指している理由はなんだ?」


「おそらくは盗賊が未踏破の遺跡を荒らしたのではないかと。

 そこからモンスターが溢れて、大型化したと思われます。

 今回、大型のゴブリナとミノルタが複数体確認されております。

 小型ならまだしも大型となると……」


 ゲームでも最後まではっきりとはしなかったが、邪神と遺跡には密接な繋がりがある。

 全ての遺跡がそうだという訳ではないが、遺跡の奥が異界に繋がるものがある。

 そこからモンスターは溢れてくるのだ。


 遺跡には様々なアイテムや魔剣、時には聖剣まで出没する。

 当然、それらを扱うのは魔導力のある騎士なので、各国で厳重に管理されている。


 今回の盗賊退治では役には立たなかったが、大きな街などでは荒事や調査、遺跡調査を行う冒険者ギルドというシステムがある。


 本来入るべき冒険者による遺跡調査が入れず、盗賊が無秩序に遺跡を荒らし、さらには邪神の影響でモンスターが溢れたようだ。


 ゲームでも主人公チームが本編の合間に小遣い稼ぎをして隠しアイテムを取ってきたり、隠された魔剣を発掘したりと遊び要素が満載なのだ。


 流石に公爵が簡単に冒険者にはなれないが、いや、イケるか?

 ユリーナと一緒に冒険の旅とか憧れる。

 平和になったら考えよう。

 今は生き残ることに精一杯だ。


 ……第一、嫌われたままだし。


 そんなことを考えているとメラクルに呼び掛けられた。


「ねえ、早く行こうよ?

 急がないと町に被害が出るでしょ?

 撃って出るでしょ? 出るよね?」


「ん?なんでそんな心配そうなんだ?」

「なんでって、モンスターよ?

 しかも大型でしょ?」


 メラクルだけではなく、サビナも黒騎士ですら緊張感を滲ませている。

 なんで大型が出たぐらいで、、、要塞型のスモーキーが出た訳でもないのに。

 ここでようやく俺は勘違いに気付く。


 ゲームでこそ雑魚モンスターとして定番化した大型モンスターのゴブリナとミノルタであるが、ゲーム開始時点ではそこまで出現数は多くなく、その大型の出現こそが邪神の影響としての分かりやすい現象であった。


 この大型モンスターが出現したことで、大公国の聖騎士であるユリーナが邪神に影響について調査を始め、主人公と『偶然』出会うというのがゲームの始まり。


 さらに出現当初は騎士の間でも複数体の大型モンスターの討伐の実例は少なく、ゲーム当初は対策が遅れ、いくつもの村や町が破壊された。

 その内の幾つかの町がここだったのかもしれない。


 誰もが脅威は知れど未経験の討伐。

 不安に思って仕方がないのだろう。

 モンスターなので能力基準ではないが、あえて比較するならば、ゴブリナが能力Cでミノルタが能力Bである。


「それで? どれぐらいの数だ?」

 カリーにモンスターの数を尋ねる。

「ゴブリナが5体にミノルタが2体です。大型のみとの報告です」


「こちらの戦力は?」

「町の者で一般兵レベルの冒険者が4名、後は我々のみかと……」


 一般兵レベル……要するに能力Eが4人なら、防御に専念すればゴブリナ1体ぐらいは足止め出来るか。


 こちらの戦力は、能力Eのトーマスとエルウィン、能力Dのカリーとコウ、能力Cのメラクル、能力Bの鉄山公とサビナ、能力Sの黒騎士、俺か。


 ゴブリナ5体を俺と黒騎士以外で足止めして、その間に俺と黒騎士の2人でミノルタ2体を仕留めれば、事故もないだろう。


「モンスターの数がもう少し多ければ面倒だったが、こちらのこの戦力なら特に問題ないだろう。

 町に被害が出ることもない」


 俺がふむ、と一つ頷いて言った言葉に全員が驚きの表情をする。


「マジかよ、大型7体だぜ?」

「ちょっとあんた、そんな大言吐いていいの?」


 大言たいげんと言うほどのことでは無いが、大型モンスターとの戦いを経験したことがなければ仕方がないことだろう。


「だが、雑魚だ。

 お前たちなら何の問題も無いよ。

 全員総出で掛かる必要があるがな」


 それとて戦闘中に町の方に向かわれたら面倒なので足止めを必要とするだけで、防衛をしながら戦闘するわけでもないので楽なものだ。


「……何というか、お主らの大将はなかなかどうして、大人物のようじゃな」

「ほんとに大丈夫なんですかね……?」

 鉄山公とリーアの言葉にサビナは静かな口調で。

「閣下がそう仰るなら問題はないのでしょう」


 サビナは余計なことは言わない。

 それを信頼の表れと見るかどうかは俺には分からず肩をすくめる。


 それからDr.クレメンスを見る。

「Dr.クレメンス。

 聞いてた通り町には近づけさせないつもりだが、多くの者が初めての大型の討伐となる。

 万全を期すために、パワーディメンションを渡してくれ」

 そのまま返さない予定だが。


 Dr.クレメンスは怯えたように後退り。

 あれ? なんで?


「なんでパワーディメンションのことを!?」


 あー、そういえば俺が知ってるわけないんだった。

 ゲーム知識です。

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