第25話叫べ!その名は鉄山公!②

「お主が何を言いたいかは分かる。

 ワシはのう。

 人を見る時は相手の眼を見るのじゃ。


 その者が信じるに値するかどうかはその眼で判断する。

 ……悪意のある噂は所詮、噂に過ぎんと言うことじゃろう」


 いいえ、事実と思われます。

 相手の眼だけで物事を判断するのは危険なので、今後止めた方が良いでしょう。


「ええー!? 鉄山公様!? 節穴でしょ!

 私が髪を伸ばし出すまで、私のことずっと男だと思ってたぐらいじゃないですか!」

「ワシが分かるのは邪悪かどうかじゃ!

 性別まで分からんわい!」


 リーアは確かに女性的な身体付きは多少貧相だが、十分女性っぽく見える。

 眼だけで見て、外見を見てないやん。

 やっぱり節穴だったか。


「じゃあさ、じゃあさ、私は? 私はいくつに見える?」

 メラクルが自分を指差して尋ねる。

「いくつと言われてものう……。

 リーアよりも年下なのははっきり分かるが。」

 うんうん、とリーアも頷いている。


「リーアは年いくつ?」

「20歳ですが?」

「ムキー! 節穴どもが!」


 メラクルはその場で地団駄を踏む。

 小娘に見えることを気にしてたんかい。


 若く見られる方が良いんじゃないかなと思うが、これでもメラクルは大公国で小隊長をしていて、しっかりしてなさそうに見えることを気にしていたらしい。


 しっかりしていなさそうのは見た目のせいではなく性格のせいだろう。

 口に出せばこちらに食って掛かるだろうから言わないけれど。


 そんな感じの鉄山公だが、将軍として部下には大層好かれている。

 そして、間違いなく貴族や上層幹部陣にはよく嫌われたことだろう。


 奴らの眼が濁っていないことなどあり得ない。

 俺もまたそういう眼に成らざるを得ないだろうよ、生きたければ。


 俺自身の眼が本当はどうあれ、鉄山公にもはや選択肢はない。

 鉄山公はそのことをよく理解しているようだ。


 俺がDr.クレメンスの亡命を受け入れた時点で、後は国家間の外交で姪っ子を取り戻すしかないのだ。

 当然、力付くでも無理だからな。


『公爵閣下、公爵閣下。聞こえてますでしょうか!』

 例の金属片を通じて通信が入る。


『何事だ』

『モンスターです! 現在、町に接近中です。

 至急お戻りを!』

 モンスター?


 シナリオではそんなイベントは無かったはずだ。

 帝国の暗部を追い返した後、鉄山公と少し会話してミッションクリアでシナリオ終了となっていた。


 ……ゲームと全てが一致するわけではない、ということだな。

 それもそうだろう。

 ゲームはゲーム、現実は現実だ。

 もっとも大筋は同じ道を辿ってはいるが。


「どうやら町がモンスターに襲われているようだ。

 俺たちは戻らねばならん」

「モンスターじゃと?」


 鉄山公は少しだけいぶかしげな顔を見せる。

 ここから町の状況が見える訳ではないからだ。

「何故、分かるかは企業秘密だ。

 だが、襲われているのは事実だ」


 この通信の秘密は知られれば、戦争の引き金になる。

 丁度、パワーディメンションが戦争の引き金になろうとしているように。

 過ぎた力は愚者にとって、垂涎すいぜんモノのお宝に見えるのだから。


「気を付けて帰られよ。

 我らはここで『帝国の者』とは接触していない。

 迷子を保護して帰るだけだ」


 ここでは帝国の者とは接触していない。

 そういうことにしなければ、それだけで戦端が開きかねない。

 現在、帝国と王国はそんな緊張を孕んだ火薬庫のような状況と言えた。


 そんな中でも、モンスターは世界共通の敵だ。

 鉄山公も無意味に引き留めたりはしない。

 モンスターの対処に関しては、唯一世界共通で条約が結ばれており、相互に協力を要請出来る。

 要請を受け入れるかどうかはまた別の問題だが。


「わしらも手伝おう」

 振り返り鉄山公を見る。

「モンスターは世界共通の敵じゃ。

 帝国も王国もない。

 ましてや無辜むこの民からすれば尚更のう」

 隣でリーアも仕切りに頷き、俺の隣ではメラクルも頷いている。


 コイツら……、悪虐非道のハバネロ公爵には眩しすぎる!?


 見ろ、黒騎士は呆れた顔してるし、サビナは……クールな表情、でもなくて少し心配そう。

 サビナも良い娘ね。


 汚れているのは俺たちだけみたいだ、黒騎士よ。

「手伝ってくれるって言うんだから早く行こうぜ?

 町が襲われてるってのに、なんでテメェそんなに冷静なんだよ」


 ……黒騎士が呆れているのは、俺にでした。

 汚れているのは俺だけなのね……。


 それだけモンスターの脅威というのは世界共通ということなのだと実感する。

 やがて来る帝国との大戦の際にモンスターを使う策も考えたが、悪虐非道どころではない悪名が付きそうなので止めておくのが正しいだろう。


 王都の方にも大戦を止める手段や大戦が起こった際の防衛案を提出しているが、そちらは軍務相レントノワール卿の派閥に抑えられている。


 レントノワール卿はハバネロの属する貴族派とは対立派閥であり、さらには第4王子マボーの縁戚で支持母体だ。


 第1王子が立太子しているため、今は次代の王という訳ではないが、実はゲーム設定ではこの第1王子は帝国の大戦中に戦死している。


 それをなんとか防ぎたいところだが、ハバネロ公爵がそのために動けば、それこそ二心ありと疑われてしまうほど信用がない。

 そりゃそうだよな。


 そのすぐ後、第2王子が立太子候補に上がるがここで帝国で戦果を挙げたハバネロ公爵がその権力を拡大する。


 主人公チームはハバネロ公爵に対抗するため、王国内のそれらのハバネロ公爵対抗勢力と結びついていく。


 それと同時期にモンスターが活発化し、邪神が復活してゲームは怒涛の最終局面へ入るのだ。


 王国内で権力を増そうと、ゲーム時以上に味方を増やさねば訪れる未来は大差がないだろう。


 ……つまり未だにハバネロ公爵は詰んだままなのである。

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