第23話帝国の影③
通信の金属片を一つ渡し兵士3人を留守番にして、俺たちは森の中に入る。
兵士3人を信用していない……と言うわけではなく、盗賊の輸送の手配など誰かしら公爵家側の人間によるやり取りが必要だったためだ。
あと正直、足手纏いというのもある。
ゲームで言えば、足止め要員として連れて行くが、現実では犠牲は可能な限り避けるべきだし、状況でいえば現段階で帝国の人間が王国側の大森林に足を踏み込んでいることを大ぴらにするのは、帝国も王国もどちらにとってもマズいのだ。
「何処まで行くのー?」
歩き続けていると、歩き疲れたのかメラクルが尋ねてくるので、黒騎士が悪ノリ。
「え? イク?」
「黒騎士は、ここでリタイヤするそうだ」
どうやら黒騎士をこの手でこの森に埋めていくしかないようだ。
死因、下ネタ。
「ごめんなさい」
昨日の拳骨が痛かったらしく、頭を押さえながら謝ってきた。
意外とお調子者だな、コイツ。
「もうすぐ、だな。
目的地というより目的の人物がもうすぐ現れる」
「閣下、それは」
どういう……とサビナが続けようとしたタイミングで先にある草むらから人が飛び出す。
「切るな!」
先程のおちゃらけた態度を一瞬で消して、剣に手をかけた黒騎士を止める。
目の前に飛び出して来た白衣の女性は動揺のあまり、地面に腰を落とした。
「せ、先生!?」
その後ろから真新しい軍服を着た頼りなさそうな青年。
「サビナ、黒騎士。周囲を警戒。
メラクル、2人を保護だ」
「は!」
「あいよ」
「え? 分かったわ」
そして、座り込んだ白衣の女性。
なんで逃げてるのに白衣やねんと頭をよぎるが気にしてはいけない。
美人で似合っているから良しとしよう。
逃げたのは咄嗟のことだったということなのだろう。
膝をつき目線を合わせて。
「Dr.クレメンスだな?」
「……ええ、そうよ。貴方は?」
「俺はハバネロ公爵。お前の亡命を受け入れる……で良いか?」
クレメンスと青年が同時に目を見開く。
「そこの脱走兵はトーマス、だったか?」
「な、なんでそのことを?」
ゲーム知識です。
「なんでもいい。
Dr.クレメンスを守れ」
懐から改造魔ナイフを取り出し、トーマスの方に放り投げる。
それと同時に黒騎士が横薙ぎに剣を振るう。
接近していた黒い影が地に伏せる。
帝国の暗部だ。
シナリオと同じなら、能力Cが全部で8人。
Dr.クレメンスとトーマスの2人を守り切って敵を全滅させれば、パワーディケイションというパワーアップアイテムを貰える。
力の能力アップアイテム。
これの開発により、一般兵士を能力Eから能力Dとワンランクアップ出来るようになったことで、帝国は王国に戦争を仕掛けることになる。
なんて迷惑な!
帝国の世界覇権。
ゲームの中では、帝国皇帝が邪神に対抗するために世界を一つに纏めようとしたと本人が語るが、戦争を仕掛けられる王国からしてみれば碌な理由ではない。
一見、重要そうなシナリオとアイテムのように思えるが、主人公チームが選ぶ道によりこのシナリオは登場しないこともある。
このシナリオを選んだとしても、帝国は変わらず戦争を仕掛けて来るし、このアイテムを持っていても量産化したりしない。
なんでやねん。
これは理由があり、主人公チームは結局のところ大公国の一部隊でしかなく、またDr.クレメンスもこのアイテムの詳細を明かさない。
せいぜい守ってくれた礼としてアイテムを渡されるだけで、Dr.クレメンスもトーマスもその後、ゲームには登場しない。
しかも、この2人を守りきれなくても帝国の暗部さえ追い返せれば、なんの問題もなくシナリオはクリアとなる。
要するにおまけ要素なのだ。
敵能力Cが8人に対し、主人公チームは能力Sのガイア・セレブレイト参入前なので、能力Aの主人公、能力Bのユリーナ、能力Dの騎士2人で守らなければならないので結構キツめなのだ。
対する我々は、素敵な輝きを放つ能力Sの黒騎士さんに、能力Aの俺、能力Bの素敵なサビナさん、おまけの能力Cメラクル。
全体的に能力が一段上なのだ。
しかも来ることが分かっていたので、戦闘は完全に先攻を取った。
「剣に毒が塗られている! 切られるなよ!」
暗部たちは曲刀を使い、その刃には毒が塗られている。
ゲーム的に言えば魔導力のある騎士には、一定時間のダメージのだが、一般人のDr.クレメンスは一撃だ。
黒騎士が立て続きに2人撃破、すぐにもう1人に向かっている。
サビナも1人を問題なく追い詰めている。
やはりというかメラクルは防御に特化しているのだろう。
同能力ランクの2人を相手に難なく防ぎ切っている。
俺は後方に控えている暗部に急接近し、不意をつくことに成功。
何かの緊急事態には撤退して報告する役目だろう。
ゲームでも逃げられるように、マップ端に配置されているような感じ。
慌てたように曲刀を振って来るが、それを魔導力を纏わせた金属片を使い左手で弾く。
そんなことが可能だと知らない帝国暗部は驚きを見せる。
もちろん、その隙を見逃すことなく右手で滅剣サンザリオン2を斜めから叩き込む。
力が抜け崩れる帝国暗部の心臓部に真っ直ぐ剣を突き刺し、確実にトドメを刺す。
その感触に俺がどうと思うことはなかった。
……ハバネロ公爵は人を斬ることに慣れていることに、嫌でも実感した。
終わってみれば、戦闘は僅かな時間であった。
誰一人傷を負うことなく、帝国暗部は全滅した。
そこに……。
「あーーーー!?
た、大変です、鉄山公様!
あ、暗部が全滅してます!!!」
木々の影から年若い女が顔を覗かせ叫んだ。
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