第21話帝国の影①
「お前さんはほ〜んと、チグハグだねぇ〜。
やっぱり実はハバネロ公爵の偽物とかいうことないか?」
ザイードが連れて行かれてから黒騎士がそうやって茶化す。
盗賊のアジトの大部屋で町の有志が、荷物をガチャガチャ外に運び出しているのを確認しながら俺は肩をすくめる。
「残念だが本物だよ」
荷物が減ってスペースが広くなって来たので、残っていた椅子に腰掛ける。
メラクルも椅子に腰掛けて腕を組んで、わざとらしくむ〜んと唸る。
それから彼女はチラッと周囲を確認する。
聞かれて良い話ではなさそうだ。
聞き耳を立てる者や周囲に町人は居ないのを確認するとメラクルは口を開く。
「実際、どうなの?
街を燃やしたって、アンタそんなこと本当にしたの?」
「俺の噂知ってたんじゃないのか?」
「噂はそうだけど、私はアンタから聞きたいのよ。
前にはぐらかしたままでしょ」
いやまあ、説明のしようがないんだよなぁ。
それでも何か言うまで、諦めそうにないメラクルを見て、仕方なく頭を掻きながら答える。
「覚えてねぇんだよ。
……その街ってのは、情報では反乱勢力の拠点になっていたらしい。
それをどうして、街ごと焼いたかまでは、……分からねぇんだ。
だから、説明のしようがねぇんだよ」
恐らく、怪しきは潰せと考えたのだろうな。
街ごと焼く必要があったかどうか、設定はそこまでは教えてくれない。
一方的に、無差別にそれを行ったのではなかったのかもしれない。
ゲームでは、主人公チームの視点だから、それもハバネロ公爵の暴虐性を表す話でしかない。
「記憶喪失みたいなものってこと?」
メラクルの言葉に、俺はまたしても肩をすくめるしかない。
「どちらかと言えば、目覚めたって感覚だけどな。
やっちまったことが事実なら、それ自体については、どうにか出来るもんでもない。
今から出来る範囲でやるしかない」
まさか、ザイードの裏にそんな背景があろうとは考えもしなかったしな。
「それは
「言ったろ?
わかんねぇんだよ。
その街が本当に反乱勢力の温床だったなら、恨まれようとも俺は王国の公爵として街を燃やすこともある。
やるからには覚悟してだが。
今となっては、本当はどうだったかなんてのは分からない。
やれることをやるだけさ」
俺の言葉に黒騎士は珍しく大きくため息を吐く。
「お前さんが過去に
実際、俺は俺の見たものを信じるだけだからな」
「私は閣下に従うのみです」
「え? あれ? 気にしてんの私だけ!?
分かったわよ。
私も今見ているアンタを信じるわよ!
それでいい!?」
俺を信じろという話ではなかったが、まあ、悪い気分ではなかった。
なおこの時、忙しく町人たちが働く中で、のんびり椅子に座って楽しそうに(?)話をしていた姿に町人たちから裏で嫌味を言われていた。
公爵様ぐらい偉い方は俺たちの苦労は知らねぇよなぁ、と。
盗賊退治したの俺たちなんだけど。
周りからどう見られているかを考えねば、ハバネロ公爵の悪い噂は無くならないだろうなぁと改めて思った。
そんな町ではあるので、すぐに立ち去るのが望ましいがそういうわけには行かない事情がある。
「ちょっと帝国軍が動いている可能性があるんだ」
「閣下、それはどういう……いえ、差し出がましいお言葉でした」
サビナが言いかけて頭を下げて言葉を止める。
こう言いたかったのだろう。
どういう筋からの情報なのかと。
ゲーム知識です。
この辺りの都合の良い説明をしたいが、本当になんとも言いようがない。
ハバネロ公爵お抱えの諜報部隊とかいないかなぁ……。
よくもまあサビナは何も聞かず我慢してくれているものだ。
盲信とでも言おうか、それが自らの役目と課しているかのようだ。
そうなのだろう。
それ故にゲームでもハバネロ公爵に最期まで付き従ったのだ。
「いい旦那見つけてやるからな。
黒騎士なんてどうだ?」
「……閣下?」
サビナに初めてとんでもなく冷たい目で見られた。
おおう、ゾクゾクしてしまった。
「……公爵さんよ。俺を巻き込むな」
2人から責められ、降参と両手を挙げる。
「ねえ?アンタ。私には?
3食付きで今と同じレベルの待遇だったら文句言わないから」
それに乗じてメラクルが好き勝手な要求をぶちかます。
ねえ? 気付いてる?
貴女様はわたくしの妾候補(偽)ということで、なかなかの高待遇なのだよ?
公爵クラスの待遇って、そうそういてたまるか。
「ハーグナー侯爵の何番目かの妾になるか?
きっと高待遇だ」
もちろん、その後不慮の死を遂げること間違いなしだ!
「それ、暗に死ねって言ってない?」
「そうだな。現状を分かってくれて何よりだ」
「酷い! 公爵酷い!!」
うるせえ! 公爵をあんた呼ばわりする奴に良い嫁ぎ先なんてあるわけないだろ!
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