第20話盗賊狩り②

 件の盗賊のいる大森林のそばの町へ移動したのは、それからすぐのこと。

 黒騎士、サビナ、メラクル、カリーとコウとエルウィンという男の兵士3人と俺。

 セバスチャンは留守番。


 元々、ハバネロ公爵は碌に仕事をしていなかったので、今更仕事を抜けたところで公爵府は十分に機能した。

 むしろ、ここしばらくの介入が良い方向に作用して、少しはマシになった程だという。

 皮肉なものである。


 早速、町長のクレイ・バーンに町の周囲の状況を確認する。

 盗賊のアジトはおおよそ目処がついているらしい。

 単に規模がでかいものだから、手出しが出来ずにいた。それに対する騎士団派遣は真っ当なものではあったが、あまりに金が掛かり過ぎる。


 まあ今回はその金を浮かすのではなく、俺個人に回してもらう訳だが。

 大規模とはいえ、個々の戦闘能力はこちらが圧倒的であるし、まず問題はない。

 あちらは頭目ですら能力C。

 大半が能力E。

 武器も何処で入手したか分からない安い魔剣。


 こちらの戦力は能力S、A、B、Cとエリート兵能力Dが2人にEが1人。

 本来なら数の差が敵の方が圧倒的だが、戦力差は能力Sがいる時点で覆ってしまう。

 人が空を飛ぶぐらい無双してしまえることだろう。

 それは言い過ぎではあるが、能力Sとはそれぐらい一騎当千ということだ。


 ゲーム通りならば盗賊が襲撃を行い、こちらは防衛戦となる。

 実はその際にザイードという能力Dの盗賊が説得可能になる。


 このザイード、義賊的な考えであり町での掠奪を良しとしておらず、他の盗賊が町へ突っ込んでくる間もマップの端で動かない。


 ユリーナもしくは主人公が接触すると説得コマンドが出て、仲間にすることが出来るのだ。


 もちろん、エース揃いの主人公チームでは控えまっしぐらだが、貴族の手の入っていない味方。


 我がハバネロチーム。

 万年人手不足である。

 是非欲しい。

 とっても欲しい!

 我が軍は〜能力のある人材を〜求めているー!!


 そんでまあ、攻められる前に不意をついて盗賊アジトに奇襲をかけ見事にザイードも捕縛成功した訳だが……。


「なんで俺が悪虐非道の公爵の手下にならなければいけない!

 真っ平ごめんだ、それなら死んだ方がマシだ!」

 ザイードは当然の如く、そう反発する。


「な、なら俺なんてどうだ!?

 公爵閣下の言うことならなんでもするぞ!

 今から町を潰せというなら、すぐやってみせる!」

 盗賊の頭目からは熱いお言葉、周りの盗賊手下どもも次から次へと同様に命乞いをする。


 いや、いらんよ。

 生粋の荒くれ者なんて。

 世界覇権を狙うなら、そういう荒れくれ者を使って戦争したり略奪したりするんだが、俺が欲しいのは平和なの。

 分かる?ラブ&ピースなのよ?

 悪虐非道のハバネロ公爵の汚名返上なのよ?

 盗賊団を抱えてどうする。


 うるさい奴らはふん縛って、町からも手伝いを連れてこさせ盗賊のアジトの金目の物を回収。

 明らかに恨みを買っている盗賊なんて抱える訳ねぇだろ。

 人からの恨みなんてお腹いっぱいだ!

 盗賊どもは処刑待った無し。


 そんでもってザイードは、、、。

 縛ったザイードの前でコンコンと説得を続ける俺。


「なあ? どう〜しても駄目か?」

「当たり前だ!」

「いやいや、そういうなよ〜、仲間になろうよ〜」

「公爵……あんた何か言い方気持ち悪いよ?」

「だまらっしゃいメラクル!

 今、一生懸命説得してるんだから!」


 あまり熱心に説得を続けると、連れて来た兵士たちに不満を抱かせる原因にもなるか……。


「……じゃあ、こうしよう。

 俺ではなく、メラクルの下に着くというのはどうだ?」


 まだバラせないが、要するに大公国の騎士の下につくのはどうだろう?

 今の状態だとメイドの下につくから無茶苦茶だな……ダメか。


「え!? 私が? コイツを? 盗賊でしょ?」


「盗賊と一緒に居たが、コイツは信用出来るぞ?

 村を襲撃した際も盗賊どもに気付かれないうちに、子供を逃したり、金持ちの商人から奪った金を貧しい人に分け与えたりしててな」

「相変わらず、何処からそんな情報仕入れてくるのよ……」


 ゲーム設定から。

 本当は俺の部下に欲しいが、なびかないなら仕方ない。

 能力Dでもエリート兵並みの強さだ、数合わせでも主人公チームの戦力増加には違いない。


「アイツらと一緒に処刑で、本当にお前はそれでいいのか?」

 連れて行かれる盗賊たちを指差して、最後にザイードに問い掛ける。


「……アンタを許すことは俺には出来ない。

 アンタの……圧政で俺の街はボロボロになって、父も母もその状況を訴えようとして、反逆罪扱いで殺された。

 妹も居たが街が焼かれた混乱の中で生きてるかも分からねぇ」

「……その街の名は?」

「ウバール。アンタが潰した街だ」


 そうか、とだけ俺は呟く。

 ハバネロ公爵の暴虐な行為の結果についに出会ってしまった瞬間だった。


「妹のことを教えてくれ。

 出来るだけのことをしよう」

「だったら! なんであの時、アンタは街を焼いたんだ!!

 なんでなんだ!!

 なんでそんなことが出来たんだ!」


 ザイードは縛られたまま俺に掴み掛かろうとして、兵士のカリーとコウに取り押さえられる。


「……返してくれよ。

 俺の家族を……」


「……閣下。これ以上は」

「分かってる。

 カリー、コウ。

 そいつは路銀を持たせて解放してやってくれ。

 後、妹のことが何か分かったら連絡する。

 妹の名を教えてくれないか?」


 解放されても項垂れたままのザイードはポツリと。


「レイア……レイア・ハートリー。

 黒髪と黒目の……生きていれば20になる」


「分かった、調べよう。

 ……ザイード」

 転がっていた盗賊の頭領が使っていたもっともマシな魔剣をザイードに投げる。

 ザイードは咄嗟に受け取ったが、なんの意味か分からないという顔をする。


「持ってけ。

 いつか護りたい奴をそれで護れ。

 ……盗賊なんてせずにな」

 ザイードは、僅かにだけ頭を下げてアジトを出て行った。


 それを俺は黙って見送った。

 ……アイツ、連絡先言わずに出て行きやがった。

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