第17話その名は黒騎士⑤

 元々、黒騎士は単独で邪神について調査しており帝国との大戦の後、主人公チームが本格的に邪神討伐のための行動を取り始めると正式メンバーになる。


 それまではシナリオに合わせて登場するお助けキャラだ。


 つまり、黒騎士を積極的に援護することで、誰よりもユリーナの安全を確保して貰うのが狙いだ。


 そのために俺が裏から黒騎士を支援するのだ。

 もっとも、黒騎士のことは深いところまでは分かっていない。


 邪神調査のために動いているが、誰とどのように繋がっていたかは不明だ。

 彼の愛剣サンガリオンもゲーム設定として王国から盗んだとしか分からなかった。

 まさか大元は公爵府で作ってた最新滅剣サンザリオンV3だとは思わなかった。


 ミヨちゃんなる近所に住む女の子に股を蹴られて、女性に前に立たれると内股になる話もシナリオの間話にゲームの小ネタとして自分で言ってただけで真実かは知らない。


「……やっぱりよく分かんねぇな。

 それでそこまで俺を支援して、公爵のアンタになんの得があるってんだ?

 俺みたいな得体の知れない奴に頼まなくても、公爵のアンタならいくらでも他の手があるだろうに」


 俺はそれに逆にキョトンとして、思わず言ってしまう。


「何言ってんだ?

 今、現状で黒騎士ロイド以上に信用出来る奴なんて居ねぇだろうが?」


 主人公チームの味方になるのが確かで、義理人情にも厚い。

 なんだかんだで人が困っていたら、皮肉を言いながらその人に手を貸す。

 主人公チームの誰かが迷っていてもスパッと正しい道を示す。

 まさにお助けキャラ。


 何よりハバネロ公爵は誰が味方か分からないどころか、やらかし過ぎてハッキリ言って敵ばかり。

 そんな中にあって、黒騎士はハバネロ公爵とはほぼ敵意がなくて、ユリーナの味方になってくれそうな逸材。


 剣はハバネロ公爵のところから盗んでいったけど。

 それはこちらが気にしなければ問題なし。


 よって、ユリーナを援護するのに、俺にとってこれほど都合が良い人物は居ないのだ!


 その黒騎士は俺をポカーンと眺めている。


「ん、他に何か問題があったか?」

 サビナも何も言わない。

 メラクルに至っては諦めたように、ため息吐きながら首を振る。


「ククク……。公爵が……、俺を信用する、だと?

 それもあのハバネロ公爵が?」


 そこから黒騎士は腹を抱えて笑い出す。

「アハハハハハ!!!!

 こりゃ愉快だ。

 なんだそりゃ!」


 ひとしきり笑い、あー、おかしいなどと呟きながら黒騎士はニヤッと笑った。

「いいぜ?

 雇われてやろうじゃないか。

 ただし、つまらないと思えばいつでも抜けるぜ?」


 俺は肩をすくめる。

「ま、退屈はしないと思うぞ?」


 元々、主人公チームに同行し出すのも、一緒に行動したら面白そうだという理由だから、相性は良いはずだ。


 俺は懐から、例の金属片を取り出し渡す。


「人に見られないようにな。

 それがあれば俺がやったみたいな通信も可能だ。


 あとそれに公爵家のマークも入れておいた。

 それが有れば公爵領は自由に移動出来る。

 身分としては、公爵付き近衛ロイドだ。

 登録しておくから、好きなタイミングで利用しろ」


 黒騎士は金属片をしげしげと眺め、マジかと呟く。

 その反応を見て俺はいぶかしげに尋ねる。

「あん? どうした?

 さっき納得したんじゃなかったのか?」


 俺の言葉に黒騎士は困ったように、サビナとメラクルを見る。

「なあ、俺が言うのもなんだが、この公爵さん大丈夫か?」


「私に言われても……」

 そうだね、メラクルは元暗殺者なのに俺のお付きのメイドになってるからね。


「閣下のなさりようは凡人の私めには到底分かり得るものではございません」

 うん、サビナ。

 私、こいつのこと分かんないと正直に言って良いのよ?


 要するに俺は黒騎士に公爵領に限らず、王国で好きなように動いて良いと言ったも同然なのだ。


 当然、剣もプレゼントだ。

 どうせゲーム設定では、黒騎士の愛剣となる運命だ。

 それにその剣でユリーナを守ってもらわないといけないからな。


 話を聞くと、公爵府に潜入した際もまず王国の学園に潜入、そこで公爵府の研究者として就職が決まった人物と友人となり、夜の街に連れて行く。


 そこでベロベロに酔わせ、紹介状を盗みその人物と成り代わる。

 後で訴えられないように、その友人には公爵邸の悪名を伝えて自ら辞退を選ぶように仕向けておく。


 公爵府に入り込み、真面目にそれでいて要領よく働き、新型の剣の整備員として任命され、剣を盗むタイミングを伺う、とまあ、手間暇掛けて盗みに来たらしい。


 最初からサンザリオンV3を狙いに来た訳ではなく、各大貴族はそれぞれ魔剣研究を行なっている。

 その中でもっともタイミング良く隙がありそうだったのが、ハバネロ公爵府だったというだけだ。


 そうでなければ、メラクルの件もそうだが、貴族の内部に易々と入れる訳ではない。

 見知らぬ部外者がそう簡単に入り込めるものでは流石にない。

 それでも潜入されているのは日頃の行いの差かなぁ……。


 とにかく、こうして貴重な人材が仲間となったので結果オーライか?

「アンタ、変な奴だな」

 黒騎士にはこう認定されてしまったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る