第16話その名は黒騎士④
『そんなこったろうと思ったよ!』
予測出来ていた俺は、サンザリオン2で迎え撃つ。
それを弾いて、今度はこちらから横凪に剣を振るう。
黒騎士はそれには距離を取って躱す。
「反応は悪くねぇな。
でもま、俺には敵わないけどな!」
加速して間合いに入ってこようとするが、剣を即座にそちらに向けて威嚇する。
それをサイドにステップしてフェイントを入れて黒騎士は更に踏み込んでくる。
「悪くない!
いや、イイね!
アンタお飾りじゃ無いね!?
その手で直接、罪の無い人間を斬ってきたってか?」
身を低くして足元を薙ぎに来るので、相手の裏に回るようにしながら避ける。
「お話、聞いてやるってのに話さなくていいのかぁ〜? ん〜?」
にゃろう、コッチは通信でも話す余裕すらないのに。
コレが能力Sとの差か。
当たり前だが、正攻法では勝ち目がない。
俺は剣を地面に刺して、その土ごと刈り上げる。
黒騎士の顔に向けて狙った土はバックステップだけで避けられる。
僅かに距離が開いたそのタイミングで。
『今だ』
2人に通信を送ると同時に、黒騎士への距離を詰める。
「てーーーい!!」
メラクルが大岩の上からメイド服のスカートを広げながら、サビナが大岩の影から飛び出すように横合いから切りかかる。
「スカートの中、見えてんぞ!!」
「うえっ、えっ!?」
黒騎士がメラクルの方を見ずに叫ぶと、慌てて自らのスカートを押さえる。
メラクル、お前何がしたいんだよ。
メラクルの目標地点から身体をズラし、自らの剣を腰だめに構えニヤリと笑う。
白い光が走る。
横合いから迫っていたサビナも大きく弾かれ地面を転がる。
正面から接近していた俺は。
『間合いは分かってるんだ』
黒騎士の剣が鼻先を掠めた直後に、急加速して彼の整備員服の襟袖ごと大岩に突き刺した。
「……テメェ、俺の間合いを読んで直前でスピードを緩めやがったな?」
「絶妙だったろ?」
ゲーム知識で必殺技の間合いを知っているからこそ出来るズルだけどな!
大岩から剣を抜き、黒騎士を解放する。
「あーあー、この服借り物だぞ?」
切り裂いた襟袖をペラペラ
「うちの制服だろ? いくらでも支給してやる」
「何? 終わったの?」
着地に失敗したらしいメラクルが尻を押さえながら自らについたホコリを払っている。
弾かれて転がったサビナも無事らしく、こちらに駆け寄ってくる。
「閣下、ご無事で」
「ご苦労だった。
お陰で勧誘は成功だ」
サビナは転がった際に切り傷など負っているが、無事そうだ。
不意打ちも対応されることを事前に2人に警告しておいたのが功を奏したか、もしくは黒騎士が手加減したか。
まあ、後者だな。
「おいおい、話聞くってだけだぞ?」
「どうせお前の目的の助けになることはあっても、邪魔にはならんから良いだろ?」
その瞬間、先程までの何処か軽い雰囲気を消して、黒騎士は俺を睨みつける。
「テメェ……。
本気で何処まで知ってやがる?」
先程までと違い、次に飛びかかってくる時は手加減なしで来ることだろう。
「落ち着け。
まずは敵じゃない。
どうせ、誰かに邪神を止めてもらわないとこちらも困るんだ」
黒騎士が主人公チームに接触する目的は要するに邪神調査だからな。
まあ、何故調査するのかまでは知らないが。
しばし俺を睨んだ後、ふ〜っと息を吐き、黒騎士は大岩にもたれる。
「それで? 何をして欲しいって?」
「ん、お前の目的とも一致することのはずだが、大公国のユリーナ姫を援護してやって欲しい」
「ユリーナ姫〜?
アンタが本当にハバネロ公爵なら婚約者だろ?
自分で支援すれば良いだろ?」
黒騎士は自らの頭をガシガシと掻く。
「それが出来れば苦労はしない。」
俺も手近な木にもたれる。
少なからず、相手が話を聞いてくれる気になってようやく安心出来たからだ。
走りっぱなしの直後に戦闘だ。
流石に疲れた。
本音を言うなら、ポカポカ陽気を感じながら、土の上で良いから今すぐ横になりたい。
街道から離れた荒野なので、俺たち以外は周りに誰も居ない。
少々危ういことでも話が出来る。
「残念だが、婚約者とは一方通行だ。
それに公爵には敵が多い。
油断すればユリーナも巻き込み潰しにこられる。
ついこの間、仕掛けられたばかりだからな」
メラクルと目が合うと、彼女は口を尖らせ不貞腐れた顔をする。
「そこの嬢ちゃんがヘマでもしたか?」
嬢ちゃんと呼ばれたメラクルを思わず見る。
彼女は何よ!と俺を睨む。
「メラクルは22歳だ。
21歳のお前より歳上だぞ?」
「へ!? あー、いや、そうなのか、ってか、なんで俺の歳まで知ってんだよ?」
メラクルに一瞬視線を向け掛けて、黒騎士は慌てたように話をすり替える。
3人からジーッと見られ、渋々俺は言葉を探す。
「あー、お姫様のキスで目覚めたからかな?」
ゲームどうこうなんて本当に説明しようがないんだよなぁ……。
「……なんなんだよ、それ」
がっくしと黒騎士は肩を落とす。
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