第15話その名は黒騎士③

 落ちていく黒騎士はどうするのかと思えば、奪った剣を腰だめに構え力を溜めて放つ。

 白い光が剣から放たれる。


 ゲーム設定で分かった。

 あれは黒騎士の必殺技で前面に対し、複数の相手に剣撃を放てる技で、その威力は激しい剣圧を生み、相手にノックバック効果を生み出す。

 多対1には非常に便利な技である。


 それを利用して、落下の衝撃を和らげたのだ。


 成る程と納得する。

 だから、黒騎士は工房に整備員として入り込んでいたのだ。

 その新しい剣の使い方を理解するために。


 それにしても……。

「必殺技いいなぁ……」

 ハバネロ公爵、特定の必殺技なし。

 必殺技はその人の特性もしくは持っている剣の特性である。


 滅剣サンザリオン。

 名前は縁起でもないが、安定性重視の量産を想定した改造魔剣である。

 必殺技、なし。


 なお、黒騎士がそんな格好いいことをしている間、俺はただ壁の上から眺めていた訳ではない。

 黒騎士が飛び降りたすぐ後を追い、即座に俺も飛び降りたのだ。


 繰り返す、必殺技はない。

 あっても、黒騎士の必殺技のようにノックバックを生じるものではないと衝撃は殺せない。


 ならばどうするか?

 着地の際に足に魔導力を全力でまとい、着地と同時に転がるように衝撃を緩和する!

 コレしかない!


 やった。

 痛かった。

 足が想像以上に痺れ、うずくまりたいがそれではすでに走り出した黒騎士に逃げられる。


 逃げられれば……困る!

「大人しく……雇われろ!!!」


 まだ追いかける俺を見て、黒騎士は首だけ振り返りまたしてもギョッとした顔をする。

「な、なんなんだよ! お前は!?」

「ユリーナラブの愛の戦士だ!!」


 俺は全力で愛を叫ぶ!

 恥も外聞も不要!

 愛ゆえに俺は戦う!

 その前に自分も救う!

 黒騎士には何としても、ユリーナの安全のために戦ってもらわねばならん!


「なんなんだぁぁあああ、お前はぁぁあああああああ!!!!」

 黒騎士が絶叫しながらも走る。

 追いかける俺。

 街道からも外れて、無人の荒野をひた走る。

 互いにヘロヘロになりながら。


 とにかく話を聞いてもらわねばという一心で俺は通信を送り続ける。

『もういいだろ?

 とにかくあれだ。

 話だけでも聞け』


「う、うっせえ……」

 黒騎士は一言で言い捨てるが息苦しそうだ。

 俺も息苦しい。

 なんで公爵の身分でマラソン耐久レースをせねばならんのだ。

 だが、通信はこんな時でも便利だ。

 息切れせずに意思を伝えられるから。


『話を聞かないなら、お前の恥ずかしい過去をばらして回る。

 お隣のミヨちゃんにお股を蹴られて以来、女性に正面に立たれると内股になってしまうクセがあるとか……』


 それを伝えた瞬間、黒騎士は剣を抜き放ち急旋回して斬りつけて来た。

「おっと……」

「テメェ、死んだぞ?」


 殺気を放ちながら、黒騎士は危ない目をして走り続けた息切れのせいで、はぁはぁ言っている。


 ヤバイ。

 俺は変質者に襲われているのだろうか。


 避けた俺も息切れしてはぁはぁ言っているが、お互い真剣だ……多分。


「な……なんなんだよ、ほんと……。

 分かった。

 話聞くから、少し休ませろ……」


 丁度あった大きな岩にもたれかかるようにしながら、ついに黒騎士が応じる。

 俺も息を整える。


 さて、どうすれば説得に応じてくれるかな。

 ゲームでは特定のキャラ同士に限り、説得というコマンドが出ることがある。


 選んだルートにより敵すらも仲間になることがあるのだ。

 当然、ハバネロ公爵は全ルートにおける後半のボスなので説得コマンドはない。


「とりあえず条件だが、基本は自由にして貰えばいい。

 時々、依頼に応じて貰えれば、公爵家での身分保証に給与の支払い、当然、そのサンガリオンは黒騎士ロイドの物だ。

 強化パーツがあれば優先的に回す。

 あ、言った通り、給料は安いぞ?」


 黒騎士ロイドは息を整え、大きく息を吐き頭をガシガシとかく。


「わっかんねぇなぁ。

 それで公爵であるアンタになんの得があるってんだ?

 それにアンタ、噂で聞いてるのと実物が違い過ぎねぇか?


 なんでアンタ自ら屋根を走って壁乗り越えてまで追いかけてんだ?

 お付きまで振り払って……アンタもしかしてハバネロ公爵の影武者か?」


 影武者か、言い得て妙とはこのことか。

 以前と同じかと言われれば違うと言えるし、それでも俺自身は確かにハバネロ公爵だ。


「間違いなく本人だよ。

 それまでに色々失敗し過ぎてな。

 失点を取り戻したいが、やらかし過ぎたせいで上手いこといかん。

 どうだ? なんとか考えてみてくれないか?」


 ふむ、と黒騎士は少しだけ考える素振りを見せる。

「……いいぜ?

 ただし、俺に勝てたらな!」

 黒騎士はそう言うや否や、剣を振りかざし切りかかってきた。



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