第12話セバスチャンとポンコツ娘
「長らくご迷惑をおかけしました」
シャキッとした背筋、ロマンスグレーのナイス紳士。
その名はセバスチャン。
俺は立ち上がり、セバスチャンを出迎える。
「よく帰って来てくれた。いやマジで」
これで公爵を訪ねてくる者への面会も可能となる。
面会相手がどんな考えをしているかはゲーム設定で全て読み切ることは出来ないし、ゲームに一切登場しない者も多数いるからだ。
それでも公爵となれば色んな人との関わりを持たねば、話にならない。
今後も貴族の縁故採用も含めて、なによりも人同士の繋がりが要なのだから。
そのアドバイスが出来るのはセバスチャンを置いて他に居ないだろう。
そして、任せられるところは任せて、アイデアを実行させてやれば公爵領の未来は見えてくる。
もちろん当然、そうなると何事も無秩序になり易い。
故に公爵領における法の整備は必須だ。
セバスチャンのアドバイスに従い最低限から始めよう。
つまるところ、覚醒前のハバネロ公爵はそんなことも何一つせず、酒ばっかり飲んでろくすっぽ人に会わなかったようなのだ。
だから、悪い噂ばかり流されるんだよ……。
「レッド様……。そのようにこの老骨を歓迎していただけるとは……身に余る光栄です」
老骨というがまだ50代で、見た目もまだ若々しさがある。
「何を言う! これからも頼りにさせて貰うぞ! いやマジで」
「時に、坊っちゃま。
このメイドもどきは一体誰でございますかな?」
「へ? え? 私?」
ソファーに座り、いつも通り茶を飲んでいたメラクルはセバスチャンの睨みに動揺する。
そういえば、コイツいっつも動揺してんな。
うん、確かにメイドもどきだ。
「それはただの大公国産ポンコツ聖騎士だ」
「酷っ!?」
うっせぇ!そのまんまだろうが。
「聖騎士? それは何故?」
「俺を暗殺に来た。
……失敗確実のな」
セバスチャンはメラクルをジッと見る。
そして察したのだろう。
大きくため息を一つ。
「……仕掛けた相手はお分かりでしょうか?」
「残念だが、誰が味方で誰が敵か分からん。
コイツに指示を出したのも、パールハーバー伯爵だろうが、そのパールハーバー伯爵を誘導した首謀者はまるで分からん」
セバスチャンが息を飲む。
「……よくお分かりになられましたね? この娘が吐いたのですか?」
俺は両手を広げ肩を竦める。
「そういう訳ではない。
コイツには敢えて確認はしてない。
態度から間違い無いだろうけどな」
俺は執務机に肘を付き、セバスチャンを真っ直ぐ見つめる。
「……ところでセバスチャン。
俺は常々、ハーグナー侯爵殿の軍門に降るべきと思っているが、如何思う?」
今度はサビナ、メラクルが同時に息を飲むのが分かる。
そちらには目を向けず、ただセバスチャンのみを見つめる。
もしもセバスチャンがこれを同意するようならば、まあ、要するに詰みな訳で。
その反応は如何に?
セバスチャンはにっこりと笑みを浮かべた後……。
「喝ぁぁぁああああっっっつ!!!」
激しい怒気と共に気勢を吐いた。
俺はそれを無表情で見つめる。
「このセバスチャン! レッド様の幼い頃より、恐れ多くも世話役として見守ってまいりましたが、まさかこのような!
私めは情けのう御座います!!
何故! 何故! ハバネロ公爵であられるレッド様が侯爵如きの軍門に降ろうと申されますか!
このセバスチャン! 腹を切って先代に謝る他ありませぬ!
何があったのですか!
このセバスチャンが居ない間に、この薄汚い牝狐めに誑かされましたか!」
「ちょっと! 牝狐って私!?」
「だまらっしゃい! この牝狐!!」
メラクルが反論するが、即座にセバスチャンに一喝される。
「うう……、私の扱い酷い……。
サビナァ〜なんかフォローしてよ〜」
いやいや、お前、暗殺しに来てたんだから、信じられないぐらいの好待遇だぞ?
それとサビナといつの間に仲良くなったんだ?
コミュ力すげぇな、おい。
内心そんなことを考えながらも、目線はセバスチャンを捉えたまま俺は皮肉げに笑みを浮かべる。
「ほう、侯爵如きか……。
されどハーグナ卿は傑物だ。
王国の貴族派は実質かの者が取り纏めていると言って過言では無い。
それに比べて俺はどうだ?
公爵とは名ばかり、領地も広大ではあれど未開の地が広がり、帝国とも大森林が間にあるとはいえ接しており余裕もない。
悪名ばかりが
どうだ? これでも軍門に降る必要はないか?」
セバスチャン迷いなく頷く。
「レッド様は今、大義を見失っておられるだけ。正道に戻られたら必ずや応えてくれる者がおりましょう」
俺は苦笑いを浮かべる。
それが居ればいいんだけどねぇ〜。
……だが、1番知りたいことは知れた。
「セバスチャン。試すようなことを言ってすまなかった。
俺は今回の俺への暗殺計画はハーグナ卿が仕掛けたものと考えている」
そう言って、メラクルたちにも話したセバスチャンにも俺の推測を伝える。
「……可能性はないとは言えますまい。
大公国と結びつき、レッド様の権勢がさらに大きくなることをハーグナ卿は望みますまい。
もしくはユリーナ姫を退けて一族の者をレッド様の伴侶にし、完全なる傀儡にしたいと考えておかしくはないでしょう」
帝国とも戦線が開かず邪神復活もなければ、その方向で推移したかも知れない。
ゲームだから、そんな盛り上がりに欠ける結果にはならないが、ハバネロ公爵に訪れる未来はどちらにせよ悲惨だ。
この暗殺計画が大きな切っ掛けで互いの不信感が高まり、ついには婚約者のユリーナの部隊に討ちとられるのだからな。
机の上のユリーナの姿絵を見る。
結局、ゲームのハバネロ公爵はそのことをどう思ってたのか。
俺には知ることは出来ない。
「そういう訳でな、セバスチャン。
病み上がりで悪いが、色々動いて貰いたいと思っている。
頼って良いか?」
セバスチャンは先程とは一転、感極まるように胸を張り、自らの胸を叩く。
「お任せ下さい! このセバスチャン。
レッド様のためなら如何なる苦難も乗り越えてみせましょうぞ!!
……ところで、レッド様。
この牝狐を手籠にしたのは本当ですかな?」
それには俺はノータイムで答える。
「そんな訳ないだろ、こんなポンコツ娘」
「酷い!!」
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