第5話今後のこと①
「わ、私は、そのようなつもりは……」
「つもりがあろうがなかろうが、なんの関係もねぇよ。
そういう立場だと自覚がなかったのが大問題なだけで。
これは大公国、ひいては大公閣下が悪いと言って良い」
サビナとメラクルが蒼白な顔。
「おい、なんでサビナまで動揺してるんだよ?」
「そこまで大公国の現状をご理解されているとは……。
このことはハーグナー侯爵様にお伝えは……」
「はぁ? なんで容疑者筆頭のハーグナーに言わなきゃならん?」
「え!?」
その表情を見てチッと思わず舌打ち。
ミスった。
この反応、サビナはハーグナー侯爵に対し警戒はしていない。
むしろ、今の発言から推測すると相談者として信用出来ると思っているようだ。
ハーグナー侯爵は髭がナイスないい歳した爺さんであり、王国の貴族派の筆頭だ。
一応、派閥としてはハバネロ公爵を擁している形こそ取っているが、実態はハバネロ公爵は傀儡だ。
もっとも、それを気付いてか気付かずか、暴虐と言われるような行動を取っていたのはハバネロ公爵本人だったが。
おそらく表向き、ハーグナーはハバネロ公爵を立てているのだろう。
だからゲームでも、ハバネロは最期まで貴族派の代表……最終的には王国の最有力者として登場したのだろう。
その後、ハバネロ公爵討伐時には王国の貴族連中の大半は、裏で主人公チーム支持に回った訳だが。
なお、ゲーム上ではハーグナーがどうなったかは不明だ。
奴は騎士扱いではないので、主人公チームの『ゲーム上』の障害とはならなかったのだろう。
最後まで討伐されることなく、残っていた可能性もある。
ズルい。
とにかく1番マズイのは、彼女が侯爵の密偵の可能性があることだ。
サビナが俺よりも侯爵に忠誠を誓ってたらそれこそ詰みだ。
その場合は即座に降伏するしかない。
もっとも、それはシナリオ通り進み俺の死と大公国の滅びを意味するがな。
……綱渡りしようにも、すでに綱が切れている可能性すらあるとはやってられんよ、まったく。
「おい、正直に言え。場合により侯爵殿の軍門に降ることも良しとしてやる」
「侯爵閣下の軍門に? 何故公爵閣下が侯爵閣下に降らねばならないのですか?」
戸惑いは演技には見えない。
「サビナ、お前は侯爵に忠誠を誓っているか?」
「い、いえ? 我が剣はずっと公爵閣下に捧げておりますが?」
その動揺っぷりに嘘はないことを感じる。
ため息を吐く。
「分かった。信用してやる」
ソファーに深く身を沈め、もう一度深く深くため息を吐く。
……とりあえず、即座に致命傷は避けられた。
詰んでいる、とは思うがな。
「これからだが、メラクルには暫く俺に
「な、なんで私が!?」
なんでも何も。
「今、説明しただろうが。
お前はそのまま大公国に帰って、なんて説明する気だったんだ?」
メラクルは黙って下を向く。
帰ることまで考えてなかったんだろうけどな。
「単純なヒロイズムに侵されて、突っ込んで死ぬのは好きにしたらいいが、俺を巻き込むな。
ましてやお前をけしかけた側は、お前が俺の暗殺に成功するとは欠片も思っちゃ居ない訳だしな」
「え?」
メラクルが目を丸くしてこちらを見る。
猪突猛進、とにかく考えなしか、もしくはそれほど依頼主を信用していたか。
おそらく後者だろう。
思考停止はしていただろうがな。
俺は呆れながら目を細める。
「お前は単純な強さでサビナに勝てると思っていたか?
しかも見たことのないメイドが茶を持ってきて、サビナが油断するとでも思っていたか?」
「それは……」
そこまで考えていなかったということか。
本職ではない暗殺で、安っぽいヒロイズムにでも侵されていなければ、自爆とも言える行動を取れるはずもない、か。
仮にこれがメラクルではなく、別の人物なら、俺は大公国との関係が亀裂が入っても殺しておくしかなかっただろう。
そうしなかったのは、ゲームシナリオでコイツがユリーナと関係が深いことを知っていたからだ。
「なんでもいいけどよ、メラクル。
ユリーナだけには迷惑掛けるなよ?」
「「えっ?」」
その言葉にまたしてもメラクルとサビナが、同時に動揺する。
「おい、なんで2人して動揺してんだよ?」
「いえ、閣下はその……」
「ハバネロ公爵はユリーナ様のことをどうお思いなのですか?」
メラクルが俺に問い掛ける。
俺はフッと笑う。
「天上の女神が地上に舞い降りた姿と言えば良いか、儚くも芯は強く美しく、そして下郎に触れられようとも、その心は決して
『例え身体を奪われようとも、心を奪うことは出来ません。』だって〜!
きゃー! 素敵ー! かわいー! ユリーナ最高ー!!」
俺は思わず興奮してテーブルをバンバンと叩く。
思い出しただけで、最高だ。
し、しかもですよ!
罪深いこのハバネロ公爵は、あのユリーナ嬢の女神の唇に接吻を!
その罪、万死に値する!
値するけど、何故、後3秒早く俺は覚醒しなかったのか!?
同じ万死に値するならば、その感触だけでも味わいたかった!
味わった瞬間跪いて赦しを請うたことだろう。
「きゃー、ユリーナ最高〜!!」
なお俺が興奮している間、2人は怯えた表情で身動き一つせずに俺を眺めていた。
……はて?
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