第4話メイド様は暗殺者②
大公家との楔を打って、狙いは……やはり俺か? いいや、今はまだ仕掛けか。
これは一挙両得か。
どちらを責めるにも好材料だ。
……ということは、黒幕は、何処だ?
どういうことだ?
これがシナリオの裏なら……隠しステージがあった?
あり得る。
邪神が本来のボスだが、さらにエンディング後のお遊びで悪魔神が裏ボスとして存在している。
続編を想定してシナリオにさらに裏があったかもしれない。
くっ、情報が足りん。
ああ、ということはすでにここか!
ハバネロ公爵はこの時点で詰んでたんだな!
その時、ドンドンと大きく扉がノックされる。
「公爵閣下! 何かありましたか!」
部屋の外に居た衛兵だろう。
不味い!
メラクルがこのまま牢屋に入れられれば、そのままハバネロ公爵死亡のシナリオまっしぐら!
とにかくメラクルを隠す!
これしかない!
「先程、お部屋にメイドが入りましたが!」
外の衛兵が慌てたように声を掛けてくる。
見られてるやん!
考える間はない!!
(おい! 急いでベッドの中に隠れろ!!
サビナ! メラクルをベッドの中へ!)
声を潜ませながら俺は2人に声を掛ける。
押さえつけていたサビナをどかせ、メラクルの腕を引っ張り上げ、ベッドの方に放り投げる。
「キャッ!?」
意外にもハバネロ公爵は鍛えているらしく、小柄な女1人軽く持ち上げて放り投げた。
もしくはこれが能力の差か?
(サビナ! メラクルのスカートを捲り上げとけ!!)
メラクルはギョッとした顔をしたが、サビナは戸惑いつつも俺の言葉を実行する。
大したものだ。
サビナ!
お前の忠誠心、しかと見届けた!
俺は素早くソファーに腰掛け空のカップを手に持つ。
それと同時に扉が開く。
緊急事態とみて、衛兵が了解なく扉を開けたのだ。
声を掛けて、問題ないと言えば良かっただけというのは、今頃になって気づく。
部屋の中は……。
ベッドの上でスカートをサビナに
それを見ながら優雅に茶を飲む公爵、カップは空だけど。
横目で衛兵を見る。
超混乱してる……。
大丈夫、このカオスに俺も混乱しているから。
「なんの用だ?」
俺は低い声を出す。
「い、いえ! お返事がなかったので、緊急事態と思い入らせていただきました!
閣下のお楽しみのところをお邪魔して申し訳ございません!!」
「……ウゥム」
「は? 閣下?」
変な裏声出た。
言い直す。
「うむ、ご苦労。下がって良い」
「ハッ!」
衛兵は敬礼して部屋を出た。
部屋を出る時、ベッドの上でジタバタするメラクルを見て、一瞬だけ気の毒そうな顔をするが、それだけ。
そうして扉が閉まると、俺は空のカップを持ち上げて、ソファーから崩れるようにずり落ちる。
「おい……、もういいぞぅ……」
サビナはメラクルから離れ、俺のそばへ。
メラクルは何がなんだか分からないと顔いっぱいで表現しながら、自らの乱れた衣服を整える。
スカートから見えるおみ足がお綺麗ですこと。
俺の視線に気付いて、メラクルは赤い顔をして、バッとスカートを直す。
羞恥を見せながら、こちらを睨む。
もう毒気を抜かれて、可愛らしくしか見えん。
こんなだけど、メラクルも確か能力C。
もちろん登場時にはすでに廃人だから、設定だけだけど。
「……まあ、なんだ。
少し話をしようや。
とりあえず、お茶でも飲みながらよぅ……」
なんだかもう、いきなり疲れたよ。
とにかくこれで暗殺未遂事件などは起こらず、不幸にもメイドの1人が公爵にお手付きになっただけという形になった筈だ。
「サビナ。茶でも入れてくれ。人数分な。
おい、メラクル。
この茶には毒を入れてないよな?」
「毒?」
メラクルに小首を傾げられる。
御年22歳。
小柄で可愛らしいが、行き遅れ。
「毒もなしにどうやって暗殺をするつもりだったんだ?」
「バカにしないで! これでも聖騎士の端くれ、毒など使わない!」
なら聖騎士が暗殺を考えるなよ。
剣を使えば、たしかに一刀の元に斬れるが、それにはそれなりの剣でないと、そう思い転がっている小刀を見る。
「おい、これ聖騎士の護り刀じゃねぇか。」
聖騎士の護り刀とは要するに、聖騎士である証明でその国の紋章入りが通常。
魔導力も込められるので、下手な剣よりも力が発揮できる。
そりゃあ、これが有れば無防備なら一刀の下に斬り捨てられるだろう。
まあ、能力差があるから暗殺はまず成功しない訳だが。
つまりこのバカ女。
自らを大公国の聖騎士だと証明しながら暗殺しに来たのだ。
とことんまで、自爆してやがる。
ああ、なるほど、これを見てハバネロ公爵は大公国に絶対的なまでの不信感を……、そして大公国への滅びに繋がると。
「マジか……、最悪だ」
俺はソファーに頭を乗せ天井を仰ぐ。
最悪、大公が仕掛け人の可能性も。
何故だ?
呪いのせいでヤケになったか?
情報が足りねぇ……。
「何がです?」
「うっせえ、バカ女。ちったぁマジで考えて動け」
「な!?」
「この依頼、大公からか?」
「ふん! 大公様も同じお気持ちでしょうね」
んな訳あるか。
……まあ、最悪の可能性がなくはなかったが、今の反応でそれは否定された。
推測としては、メラクルは大公国の誰かからの任務を受けた。
そして、候補となる人物は3人。
要するにメラクルに命令権がある3人ってことだ。
内2人はメラクルは友好的とは言い難い。
故に暗殺なる表に出せないような依頼を行うにも、大公国内で問題が発生しやすくなる。
ああ、つまり暗殺ってのはその道のプロか、それなりの忠誠心が必要で、メラクルはプロではない。
その結果、依頼主は1人に絞られる。
そこまで口に出すと、メラクルは段々と顔色が変わっていった。
そりゃ、そうだ。
任務の指示者から自分の名前まで全て言い当てられているのだ。
如何に自分が相手の手の内の中か気付かされるというものだ。
「メラクル! 反応するなよ?
もうお前の性格は大体分かった。
反応するのは出来るだけ我慢しろ。
最低でも口に出して認めるなよ?
そこだけは絶対だ。
分かったな? 分かったら茶を飲んで落ち着ついて話を聞け」
メラクルはすでに顔を蒼白にして、震える手で茶を飲む。
サビナも俺の隣に座らせ3人で茶を飲む。
サビナは護衛としての立場からそれを固辞しようとしたが、命令として無理矢理座らせた。
俺が落ち着かんからな。
メラクルは騎士として自らの傷は我慢出来ても、依頼へ波及することの方が怖いようだ。
もう認めまくっているも同然の態度だが、自分からバラしていないことが大事なのだ、多分。
その大臣はどうするつもりだったのか?
行動がバレることが前提で……、おそらくは裏取引か?
それが理由で大公国は解体されるわけか。
バレてもよし、バレなくても楔を打てると、ではその大臣との繋がりを証明するのは無理か。
大臣は義憤か、それとも寝返りか。
ユリーナを傀儡として……、と思考した状況を、俺が2人に話す。
……全く、どれだけ俺は詰んでるんだ。
大公国もだけど。
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