第6話 凄惨 2223年10月


3人で裏道を怪物に出くわさないよう慎重に移動する。既に一時間以上経過しているが一向にシェルターに近づけない。裏道にいる奴らの数も増えてきたようだ。このままでは裏道も奴らでいっぱいになってしまう。そうなったらもう終わりだ。焦りながら道を探っていると夜風が空を指差して言った。


「ねえ、アレ!」


そこには最初に出会した黒い竜が空を飛んでいた。マップを見る。


(あの方角は……っ!?)


竜は空中をさらにふわっと登ったと思うと急降下して行った。直後、




ドオォォォォーーーン!!!




爆音が鳴り響く、竜が降りて行ったであろう所から大量の煙が上がり始める。


「ねえ、あのあたり征魁くんの家があるんじゃない?」


夜風が心配そうに言う。


「あぁ、そうだな、多分あっちの方には俺の家がある……」


「お母さんとか大丈夫かな?……」


「今日は父さんと出かけるって今朝言ってた、多分大丈夫」


「それじゃあ行ってみようか」


テリスがとんでもないことを言い始めた。


「は!?だから大丈夫だって!あんなところに行くの危なすぎるだろ!!」


「でも心配なんだろ?」


「いや、でもな」


「いいよ、行こうよ、私も家が心配だし、ほら、あのドラゴンもどっか行ったみたいだよ!」


夜風まで賛成し始めた。正気なんだろうか。


「えぇ……分かったよ」


「よっしゃ、そうと決まれば早く行くぞ!道は?」


「こっちだ」


3人でまた走り始める。


「テリス、ありがとうな」


「へっ、気にすんなって」




しばらく移動すると自宅前の通りに出てきた。自宅へ近づくとともに煙の発生源も近づいてきた。嫌な予感がする。


「……」


俺たちは無言で歩き続ける。幸い怪物は近くに見当たらなかった。家の前に着く。そこにあったのは——




巨大な大穴だけだった。




我が家だけではない。その周りの住宅も吹き飛んでしまったようだ。


「嘘……」


夜風が呆然と呟く。俺は声も出せなかった。


「両親は出かけてたんだろ?」


テリスが言う


「あ、あぁ」


そうだ二人は今日は出かけているはず、ここには誰もいない。周りの家に住んでいた人どうなったかは分からない。気の毒だが在宅であったら骨も残らずに消えてしまったのかもしれない。


「多分……大丈夫だ……大丈夫なはず……」


「うん、そうだよ、絶対無事に生きてるよ」


夜風も俺を安心させるように言う。しばらくその場で深呼吸をする。


「ふぅ……じゃあ、次は夜風の家に行くぞ」


「え?いいの?」


「当たり前だろ?な、テリス」


「あぁ当然さ」


「よし。行こう!」


「うん!」


去る直前、大穴の底の方でキラリと何かが光ったように見えた。気になったが確認のしようがない。俺はその場を後にした。




歩いていくと夜風の実家に辿り着いた。古風な木製の門ががっちりと閉められている。俺たちは門の脇にある小門の鍵を開けて中に入ってみるが静かで誰かが出てくる気配もない。


「っ!」


夜風が屋敷の中へ走っていく。


「変だな」


テリスへ話しかける。


「そうだな。なんで誰も出てこないんだろ?」


門の上には監視カメラが仕掛けられていた。こんな状況だ。誰かが常に見張っていてもおかしくないはず。俺たちが夜風の屋敷にお邪魔させてもらうことにした。失礼を承知で土足で上がり込む。屋内は依然として静かだ。皆夜風を置いて避難してしまったのだろうか。


「きゃあぁぁーっ!!」


夜風の悲鳴が聞こえてくる。テリスと顔を見合わせ悲鳴の方へ駆け出す。


「こ、来ないでぇーっ!」


すぐ近くの部屋から夜風の声が聞こえてきた。近くに確か台所があったはずだ。


「テリス!」


「分かった!」


どこで手に入れたのか箒を持っていたテリスに声をかけると俺は夜風がいるであろう部屋を通り過ぎていく。テリスが夜風のいる部屋に叫びながら飛ぶこむ。人ならざるものの声も同時に聞こえてきた。


「うおおぉぉ!」


「ギギギィィ!?」


俺は先を急ぐ。




ここは葉桜家のとある一室。部屋の奥には夜風が壁を背にして座り込んでいる。入り口付近には背が低くて醜い亜人の姿があった。


「うおおぉぉ!」


そこへテリスが飛び込んで来る。手に持った箒で頭を狙うが意外に俊敏な亜人にあっさりと避けられてしまう。テリスはそのまま夜風の前に立ち、亜人と対峙する。箒の穂先を突き出すようにして視線を遮る。


「ギギギィィ!?」


亜人が叫び声をあげる。


「はあぁぁぁ!」


テリスは叫ぶと箒を振り上げながら持ち替え、柄の部分を亜人に叩きつける。が、あっさりと受け止められ、へし折られてしまう。テリスは持っている箒だったものを投げつけるがそれも避けられてしまう。


「ギッギッギッ」


亜人が嘲笑するような声を出す。テリスの顔に汗が浮かぶ。睨み合う二人。




テリスが腰を落とし、亜人の奥をじっと見据える。




亜人が余裕の表情を浮かべる。




亜人の後ろで廊下の床がキラっと煌めく。




テリスが叫ぶ


「うおぉぉぉ!」




亜人も飛びかかろうと鳴き声をあげる。


「ギギィィ!!」




亜人の首に包丁が深く突き立てられた。


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