とわずがたり

@shinopi-73

1、窓辺から射すひかりの美しさに

 気がつけば、大学4年生。研究室でのゼミがはじまり、梅はとうに綻んで散っていた。家に閉じこもって、画面と向かい合う日々だから、そんなことを知るのも随分遅かった。

 友人たちは就職活動に四苦八苦している。私はというと、働くことを先延ばしにモラトリアムを貪っている。大学院入試の勉強をしなければ、ちょっとは就職の情報収集をしなければ。本当はやらなければならないことはあるのに、目を背けたくって1日がひたすらに過ぎていく。どうしてもやりたいことがあって、勉強して勉強して入った大学。同級生との競合があってヒヤヒヤしながらも、無事に所属を許された研究室。ずっとやってみたかった研究テーマも、手に入れた。


 ・・・ふと、思ってしまった。今の私は過去の自分の努力や功績、手に入れたものに縋っているだけではないか。勉強という手段をつかって、努力し続けていた高校3年生の頃の自分に胸を張れるだろうか。学歴社会の中で会社に就職すれば、過去の自身の栄光たる学歴にまた縋って生きていくことになるのではないか。

 社会人になってから、結果を出して世間からの評価を得続ける方もきっと沢山いるのだろう。でも、今の私は、どうだろう。


 11時過ぎ。とっくに目は開いているけれど、暖かな布団の中で微睡んでいた。漫然と考え事をしながらベッドに横たわっていた、取るに足らないなんでもない日。手もとのスマートフォンから、ふと視線をあげると毎日見ている窓のブラインド。変化のない日々。けれど、薄く開けられた窓の隙間からみえる、隣家と淡い空の色のコントラストが目にとまった。そしてブラインドにも、柔らかなひかりが射していた。あまりにもささやかな美しさ。けれど、例年と同じような生活だったら、きっと気づくことはできなくて、その美しさに心慰められることもなかったのかもしれない。

 過去の私に恥じない日々を、まぎれもない今を、現実を。生きていたい。

 

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