第9話 認識の違い
「……え」
驚きに目を瞬かせる私にヒビキ様は苦笑を浮かべる。
「そもそもの前提が間違ってるかな。魔族は魔物を操れない」
一瞬だけヒビキ様を疑ってしまったが、彼女が嘘をついているようには見えない。
「どうして人間の国では『魔物は魔族が操っている』なんてデマが流れてるの?」
「それは……本にそう、書いてあって……」
その知識はどこから得たものだったかと記憶を思い返す。
私が魔物について学び始めたのは王宮に入ってからだ。
少しでも国王に認めてもらいたくて、たくさん本を読み知識を詰め込んでいった。
その中で読んだ本には『魔物は魔族が操るもの』と記載されていた。
その本は私と同じ人間が記したものだ。
そこで私ははじめて本に記載されたものが真実ばかりではないと思い至った。
本を書いたのが人間であるならそれは人間側から見たものでしかない。
立場が違えば真実も違う。
なぜそんな当たり前の事に気が付かず、自分の知識が正しいと信じ込んでいたのか。
「……っ、申し訳ありません!ヒビキ様。私は酷い事を言いました……本当に申し訳ありません!」
勢いよくソファーから立ち上がり床に額を付け謝罪する。
人間側の知識を信じ込み、魔族側の真実を確認もせず悪と決めつけ問い掛けてしまった。
これでは侮辱しているようなものだ。
愚かにもほどがある。
「ミアちゃんはまだ魔族のことなんて知らないから今回は仕方ないよ。でも魔王である私の配下になることを望むなら、今のままじゃ駄目。この意味わかってくれるかな?」
正しい知識を得られる環境に居なかったのだから最初の無礼は許す。
けれど二度目はない、そういう事だろう。
得た情報だけを鵜呑みにするのではなく、何が正しく何が間違っているのか。
自分で考えて判断しなければ。
こくりと頷いた私をヒビキ様は座るように促す。
「私達魔族からしたら、人間達が一方的にこちらに攻め込んで来てるんだよ。勇者を名乗る一行が魔王討伐のために魔族の国へやって来たって聞いて、結構驚いたんだ。討伐だの言う前に、事実確認とかするのが普通だと思わない?」
その言葉に私は頷くしか出来ない。
「仰る通りです……」
魔王討伐を決定した際、国王は『魔族の操る魔物が攻めてきた』と言った。
しかし魔族の国に確認する事は一切していない。
確証もないのに勇者まで召喚し、魔王討伐パーティーを作らせたのは何故なのか。
まさか、戦争を引き起こす事が目的……とか。
でもそれなら何故私を殺そうとしたの……?
仮に魔族と戦争してこの豊かな土地を奪うことが目的だったとするなら、私はかなりの戦力になったはずだ。
殺せばその戦力を失う事になる。
戦争を起こすのが目的じゃないなら何のために……?
国王が何を考えているのか分からず頭を悩ませていると、バタバタと廊下を走る音が近付いてくるのが聞こえドアが勢いよく開かれレナートさんが現れた。
「ヒビキちゃん!無事!?」
「お、おう……?どしたん、レナート。何かあった?」
レナートさんの慌てように驚いたヒビキ様が尋ねる。
「よかった無事で……。この魔王城に張っていた結界に誰かが引っ掛かった。魔族に悪意を持つものだ。見に行ってみたら何か特殊な魔法を使ったのか、結界の一部が壊されていたんだ。だからヒビキちゃんたちは大丈夫かと心配になって……オボロやグレンと一緒なら大丈夫みたいだね」
レナートさんが安堵のため息をついた瞬間
「きゃあぁぁっ!!」
廊下から耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
勇者パーティーに捨てられ魔王の配下に拾われました。 枝豆@敦騎 @edamamemane
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