第8話 魔王の話

前世。

つまりヒビキ様は一度別の生を生き、生まれ変わって今魔王として生きているということになる。


人間の国ではおとぎ話として聞いたことがあるけれど、魔族の国では生まれ変わることが当たり前なのだろうか?


そう思いながら尋ねて見るとヒビキ様は「残念だけど」と肩を竦める。


「魔族の国でも私以外に前世の記憶を持ってるって人は聞いたこと無いなー。あ、もちろんこの事は私の配下……ミアちゃんに挨拶したメンバーしか知らないからミアちゃんも他言無用だよ?」

「……あの、なぜそのような事を私に教えてくださるのですか?」


いくら私が魔王配下にしてくれと望んだからと言って、身近な人しか知らない秘密を新参者に話していい訳ではない。

しかし告げられた言葉は予想外のものだった。


「私の勘がミアちゃんは信頼していいって言ってるから」


まさかの勘……。

魔王がそれでいいの……?


信頼してくれると言うのは嬉しいけれどそれで大丈夫なのだろうかと不安になる。


「諦めろ。ヒビキはそういうヤツだ」


カップのお茶を啜りながらグレンが告げる。その横でオボロさんも頷いていた。深く考えたら負けと言うことなのだろう。


「分かりました。誰にも言いません」


こくりと頷くとヒビキ様は満足そうに頷いた。

その表情を見て、私は先程から疑問に思っていた事を訪ねてみることにした。


「あの……ヒビキ様。こちらの国にはセンタクキやカンソウキといった、あれだけ素晴らしい道具があるのにどうして……人間の国に魔物を差し向けられたのでしょうか?」


そもそも私達人間が異世界から勇者を召喚してまで魔王を討伐しようとしたのは、人間の国に魔物達が攻め込んできたからだ。


魔物は魔族が使役している生き物である。

魔族が人間から土地や資源を奪おうとしていると考えた国王は、異世界から魔王を倒す力を持った勇者を召喚した。


そして人の国を守る為、そして魔物達を従える魔王を討伐するべく命令を下した。


だけど私にはどうしてもこんなに優しいヒビキ様が人間を滅ぼそうとしているとは思えなかった。

人間の国から資源や土地を奪わずともこの国は人間の国よりはるかに豊かだ。


「……何か、どうしても人間の国に攻め込まなければならない理由があるなら知りたいのです。魔物に襲われたくさんの人が困窮しています。力のない人々を追い詰める理由とはなんなのか……人を犠牲にせずとも他に何か手だてはないのか……聞かせていただきたいのです」


魔王の配下になることを希望しておきながら、人間の事を気に掛けるなんてと罵られてしまうかもしれない。

それでも私は貧困に苦しむ人々だけは見捨てたくなかった。


ヒビキ様はしばらく私の顔を見つめて黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。



「……ねぇ、ミアちゃん。私、人間の国に魔族をけしかけたりなんてしてないよ?」


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