第5話 魔王の憂鬱1-ヒビキ視点-

魔族の国に留まることを決めたミアちゃんの世話は彼女を拾ってきたグレンに任せる事にした。

拾ったからには最後まで面倒をみるのが拾った側の責任だしね。


グレンも最初からそのつもりだったようで、とりあえずミアちゃんに城の中を案内すると一緒に部屋を出ていった。

あの様子ならミアちゃんが私達と敵対することは無いだろう。

まぁ敵対されたところで私なら人間一人くらい一瞬で消し炭に出来るのだけど。


「ラフィーナ。ミアちゃんにはグレンの隣の部屋を使ってもらいたいから、悪いんだけど簡単に掃除しておいてくれる?」

「はーい」

「あ、ラフィーナちゃん。俺も手伝うよー」

「ふふ、ありがとうございます」

「ほんじゃ二人でよろ。あ、レナート。ラフィーナと二人きりだからって手ぇだしちゃ駄目だよ?」

「ヒビキは俺をなんだと……女の子は好きだけどそんな危ないやつじゃないよ!?」

「知ってる、言ってみただけ」

「もう!キミって人は!」

「はいはい、行きますよー」


唇を尖らせるレナートを連れてラフィーナがくすくす笑いながら部屋を出ていく。

手をヒラヒラさせて見送れば部屋の中には私とオボロの二人だけが残った。


「ねぇ、オボロ……。ミアちゃんに暗示かけた時に、記憶の一部を見たんだけど……あの子だいぶ辛い思いをしてきたみたいなんだ……」


先程までの明るい口調を止め呟く。

私が誰かに暗示をかける時、その人の心に触れる為記憶を見ることができる。

私が覗いた記憶はほんの一部だけど彼女の苦しみや辛さを知るには充分なほどだった。


「……どうして人間は、もっと他者に優しく出来ないのかな」


さっきまでミアちゃんが寝ていたベッドにぽすんと倒れ込み呟く。


「他者に優しい者達と出会えていたら、俺はヒビキと出会えていない」


低い声に視線を向けるとオボロが隣に腰掛け優しく髪を撫でてくれる。

普段は無口な彼が私と二人の時はたくさん話してくれる。

彼の前では魔王という肩書きを忘れて個人でいられた。


「それもそうなんだけど……さ」


彼と出会った時の事を思い返しながら、もそもそと動きオボロに膝に頭を乗せると髪を撫でる手付きが丁寧になった。

甘えるように膝にぐりぐりと頭を擦り付ける。


「……人間って、なんなんだろうね。何百年生きてみてもよくわからないや」


その答えを出すのは難しいけれど考え続ければいつかは答えが出るだろうか。

そんな風に考えながら私はそっと目を閉じた。

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