第3話 魔王と配下

ふと意識が浮上して目を開けると見知らぬ天井が目に入った。

目を明けぼんやりとした頭でここはどこだろうと考えいると、話し声が聞こえてくる。


「それで置き去りにされた魔術師を連れ帰ってきた、と。アンタがそんなにお人好しだなんて知らなかったわー」

「そんなにあのご令嬢がお気に召されたのですか?……まさかあぁいうのがお好みで?」

「違う!そうじゃなくてだな!何となく、あのままでは良くないと……」

「で、お持ち帰りしちゃったわけかぁ。女の子に興味ないと思ってたけど健全なようで、お兄さんは安心したよ」

「だから違うと言っているだろ!?お前ら俺にその変な目を向けてくるのを止めろ!!」


……なにやら楽しそうだ。

私は確か魔力切れを起こして勇者達に捨てられ敵の前で倒れたはず。



まだ……生きてるみたい。




起き上がろうとしたが体が重く動かせない。

それでも目が覚めたことは伝わったのだろう、会話がぴたりと途切れた。

そして目の前ににゅっと四人の男女が顔を出す。


「あ、起きた。魔力が切れて動けないみたいね。怪我は治しておいたけど……気分はどう?お腹すいてない?名前は?」


最初に声をかけてきたのは淡いピンク色のローブを頭からすっぽり被った黒髪の少女だ。頭には猫の様な耳があるのかフードが耳の形をなぞるように盛り上がっている。

歳は私の少し下くらいだろうか?顔付きはどことなく幼さが残っている。


「あらあら、焦らせてはいけませんよ。まずは水分補給です。ずいぶん長く眠ってましたし……喉乾いてませんか?お水飲みます?」


手に水の入ったコップを持って微笑みかけてくるのは薄緑の髪を長く伸ばした女性だ。

背中には透けた紫色の羽が四枚ついていて明らかに人間ではない。


「まずは状況説明じゃないかなぁ。はじめましてー、俺達は怪しいものじゃないよー?」


ヘラヘラした笑みを浮かべているのは毛先がオレンジに変わった青い髪を長く伸ばし、金色の瞳をした男性。瞳孔は蛇のように縦長で頬には爬虫類の様な鱗がついている。


そしてもう一人、髪も肌も真っ白なのに眼球と右頭部に生えた角が黒い男性がいる。瞳孔だけが宝石のように水色に輝いている。

彼はこちらを見つめるばかりだ。



人間と違う見た目を持つ彼らは、間違いなく魔族。

なぜわざわざ私を連れ帰ったのだろう。


自分が魔族達の拠点にいるのは間違いない。

少しずつ状況を理解しはじめていると、私の顔を覗き込む顔が増えた。

炎のような赤い髪と瞳。尖った耳には黒い耳飾りがついている。


彼には見覚えがある。

私が勇者達と戦った鬼だ。

確か魔王の配下と名乗っていたはず。


戦いの場で見た時はもっと恐ろしい怪物に見えたのだが、改めて見ると人間と対して変わらない。


「お前達が話していたらこいつが話せないだろ、少し黙ってろ」

「えー、ひどーい」


鬼の人が注意すると黒髪の少女が唇を尖らせる。


「俺はグレン。知っての通り、魔王の配下だ。お前は魔力切れを起こして倒れていたから俺が拾ってきた」



拾ってきた……?

てっきり人質か勇者達の情報を吐かせるために連れ帰ったのかと思ったけれど違うの?



「おい、お前口が聞けないのか?」



いつまでも返事をしない私に焦れたのかグレンと名乗った魔族は眉を寄せる。

私は肯定するように軽く頷いた。

首までなら動かせるようだ。


「え、マジで喋れない感じ?」


黒髪の少女に再度問われてまた頷く。


「……言われてみればコイツ、魔法使う時も詠唱してなかったな」


グレンが記憶をたどるように自らの顎に手を当てて呟いた。


「なるほどなるほど。でもそれは不便だねぇ……ちょっと失礼」


少女が私の喉に手を当てた瞬間、顔を覆っていた髪がはらりと落ち醜い火傷の痕が露になる。

それを見た魔族達は皆同じ様に眉を寄せた。


私は見慣れているけれどこの火傷をみた人達はあまりの醜さに同じ反応をする。

もう慣れっこだ。


「これは……酷いね」


少女がぽつりと呟いて私を見る。

てっきり醜いと罵倒されるのだと思ったが告げられた言葉は意外なものだった。




「ねぇお嬢さん。この火傷の痕、綺麗に治してもいい?」




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