第71話 ソウタにだけだよ

 俺は、受験勉強に勤しむ。


 真面目な一日だった。


 カナタと一緒に帰りたいなぁとおもいながら、教室外の廊下を歩く。


 下の教室まで行くと、カナタの周りに同級生男子数名が集まり、なにやらカナタが困っている。


 「なぁいいだろう、ちょっとくらい」


 「だめだよ」


 「おい、嫌がっているだろう」


 「うるせぇ……お前に関係ないだろう…………す、すいません」


 俺は威圧感たっぷりにその男子共を睨む。


 俺の目つきは怖いことで有名であるのですぐに逃げ去る。


 「大丈夫か、カナタ?」


 「う、うん。ありがとう」


 「どうして、男子共がお前の周りに寄ってくるんだ?」


 「その……私が声優なのが」


 「隠れファンか」


 「そうみたい……」


 「そうか……」


 しばらくの無言。


 やがて。


 「帰るか」


 「うん」


 下校途中でも、カナタにナンパしてくる男どもやいたずらしようとするクソガキどもがいるので、それらからカナタをまもる。


 最近物騒になってきたもんだ。


 「ソウタ、今日はありがとう」


 「いや、暗くなってきたから送るよ」


 「ありがとう」


 「…………カナタ」


 「なに?」


 「なんで、女友達と一緒に帰らないんだ?」

 

 「あの子たちひどいんだよ。ソウタの事悪く言ったの。だから距離を置いたの」

  

 「そ、そうか」


 「それに……」


 「ん?」


 「私の隣にいてほしいのは……いていいのは、ソウタだけだから」


 「…………そうか」


 俺は優しく微笑み、カナタの頭を撫でる。


 「えへへ」


 そういって彼女は笑うのだ。


 俺とカナタはその後、特に会話をしなかった。


 だが、カナタの恥じらいのある表情が見れて不思議と嫌な時間じゃなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る