ちょっとした日常
第52話 癒しを彼女に求めてみたら
「ぬわあああああああああん、疲れたもううううううううううううう」
いやいやとカナタの前で駄々をこねる男子高校生がいた。
なお、ここはカナタの家である。
人間というものは一定以上のストレスを与えられるとバカになるのである。
「そ、ソウタ……大丈夫?」
「大丈夫じゃないもううううううううううううううっ」
「……一緒にご飯たべる?」
「食べる(真顔)」
そうして、カナタには俺の大好物のごちそうをたくさん作ってもらった。
「はい、召し上がれ」
「いただきまぁす」
「どう、美味しい?」
「うん、うまい」
カナタと一緒に食事をすると、だんだんと理性が回復してきた。
思えば文化祭やら定期テスト、バイトに大学受験の勉強でめちゃくちゃ忙しかったからな。
カナタの声優キャリアも軌道になったらしく、今では女友達にあの声優に似ているねと言われるくらいになったのだという。
なお、俺はカナタが出演している全作品把握済みだしなんなら全話視聴済みである。
どうでもいいけど、食事している美少女ってなんかエロいなぁ。
最近いろいろと溜まっているせいかなぁ。
イチャイチャする余裕はもちろんのこと、セクハラする余裕もなかった。
特に秋って学校行事ないからあんまり生きていて楽しみないんだよなぁ。
去年は一人でラノベを読みまくっていた読書の秋だったけど、今年は彼女がいる!
「なぁ、カナタ」
「ん?なぁに」
箸を口にくわえたまま上目遣いでこっちを見る。
その仕草にきゅんとしながらも、俺は会話を続ける。
「この秋って忙しいのか?」
「うーん、普通かな」
「そっか」
俺は少し項垂れる。
カナタの普通は、一般高校生からするとかなり忙しい部類に入るのだ。
その様子を見てカナタがあわてて話す。
「あ、で、でもね、今日は何にも用事ないよ。セリフの読み込みも大分終わったし」
「そうなのか!(満面の笑み)」
「うん!でもエッチなのはダメなんだからね!」
「そ、そうか」
「そういうソウタは、忙しいの?」
「まぁ、大学受験勉強とバイトとあとは家の手伝いとか……妹の勉強を見たりすることがあるからな、まぁ普通だろ」
「そっか、ソウタは真面目なんだね」
「まぁ否定はしない(キメ顔)」
「ふふっソウタってば私の前だと子供みたいだね」
「そうか?」
「うん、普段は……」
「普段は?」
「な、なんでもない」
「えぇ、そこまで言ったなら言えよぉ」
「言わない、なんか悔しい!」
カナタは俺のことをかっこいいと面と向かって言うのはやっぱり恥ずかしいらしい。
俺はそのことがよくわかっているので赤面する彼女を弄り倒す。
※ ※ ※
食事を終えてイチャイチャとゲームをした後、二人で近くの公園で遊びに来ていた。
秋になったというのもあり、イチョウや紅葉がきれいだ。
「綺麗な景色だね」
「お前のほうが綺麗だぞ(イケボ)」
「いちいちそんなこと言わないの!」
でも本当に彼女は落ち着いた色合いの服を着ている。
秋をモチーフにした大人っぽい格好だ。
彼女は落ちるイチョウの葉をスカートの中にかき集めて屈託のない笑みを浮かべる。
「見てみて、こんなにたくさん落ちている!」
「お前の方がよっぽど子供だぞ」
「えっそうかな?」
「……まぁ俺も似たようなもんだし」
「そっか、おんなじだね!」
彼女が笑うので俺も笑い返す。
映画のワンシーンのように紅葉やイチョウの葉が舞う中、俺たちはベンチに座り缶コーヒーを飲みながら過ごす。
俺は彼女の肩に手を置いて、カナタは俺の肩に頭をかたむける。
よく公園なんかで見かけるカップルにまさか自分がなるとはな。
高校生活も捨てたもんじゃないなぁ。
秋独特の澄んだ空気を吸い込み、落ち着いた色合いの景色と彼女の体温を感じながら俺はゆったりとした時間を過ごしたのだった。
※ ※ ※
すっかり暗くなってしまった。
秋の虫たちが俺の寂しい気持ちを代弁するように鳴く。
カナタとは離れたくなかった。
もっと一緒にいたい。
高校生活も俺は来年受験勉強で忙しくなる。
俺は小さくため息をする。
それに気づいたカナタがこちらを振り向く。
「大丈夫、私もおんなじ気持ちだから」
「…………そっか」
「ねぇ、ソウタ、こっち向いて」
「…………うん?」
「はい」
彼女は両手を前に出した。
「…………?」
「元気になるおまじないでハグしてあげる」
俺は照れくさいなと思いながら彼女を抱きしめる。
「ぎゅうううううううううううううううう」
カナタはそんな恥ずかしいセリフを言った。
俺は黙って彼女の頭の後ろに手を置いて強く抱きしめる。
カナタの体の柔らかさとかそんなことはどうでもよくて。
なぜかとてもカナタと離れたくなかった。
純粋にカナタとずっとこうしていたい。
そう思った。
これが「愛おしい」という感情なのではないかと実感した。
数秒間抱き着いた後、俺は名残惜しそうに密着状態を解除してカナタを彼女の家まで送る。
「じゃあね、ソウタ、バイバイ」
「おう」
そうして俺は、自分の家へと帰る。
満天の星空にひときわ輝いてる星が一つあった。
その星を俺は何気なくつかもうとした。
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