第227話:不死鳥VSドラゴンゾンビ
- カイル視点 -
巨大な獲物を相手にする時、俺達は連携攻撃の形を決めている。
まず初めに、ザックが攻撃を受け止めて防御にまわり、俺とシロップで攻撃。
弱らせることと、後方にいるリリアの魔法詠唱を邪魔させないためだ。
そして、魔法の準備が出来次第、トドメを刺すようにリリアが魔法を放つ、というのがお決まりのパターン。
先に大ダメージを与えてしまえば、もし魔物が生き残ったとしても、こっちが有利に戦えるからな。
だが、今回の獲物は一味違う。
リリアが言うには、過去の大戦で死んだ古代竜のドラゴンゾンビらしい。
エルフの里で聞いた古代竜の友を死霊魔術で操っているんだろう。
これ以上厄介な相手はいないし、タツヤの料理でパワーアップをしていても厳しい相手だ。
もし、生きた古代竜を見ていなかったら、俺はチビっていたと思う。
それほどドラゴンゾンビは、圧倒的な存在感とオーラを放っているんだ。
西には獣人達の援軍がいて、東には冒険者ギルドの援軍が乱戦している。
後ろに王都があることを考えれば、この状態でドラゴンブレスを吐かれるのはマズい。
軌道を反らすだけでは、共に戦う仲間に被害をもたらすかもしれない。
本来は、こいつ一匹で国が崩壊する大物なんだからな。
当然、ダークエルフが一人いるだけでも同じことが予想されるが……、あっちはスズとリリアがいるから大丈夫だろう。
なんといっても、猫とエルフだからな。
最近俺は思うんだ。
女って、本当に強くて怖い奴らだと。
こっちには最強のウサギがいるとはいえ、ザックと俺でカバーして化け物と戦う必要がある。
伝説の冒険者である風神のトーマスさんがサポートしてくれるといっても、彼は男。
間違いなく俺達が一番危険だ。
女のパワーがない。
「ドラゴンゾンビのパワーを舐めてはいけませんわ。極力正面から攻撃を受けずに、注意を引き付けてくださいな」
うおっ! 命令を下すのは女だったか!
不死鳥の指揮は戦闘しながら俺が執っているだけに、違和感が半端ない。
かといって、相手は冒険者ギルドの統括であるイリス様だ。
刃向かうわけにもいかないし、彼女の知能は俺よりも遥かに上。
何より、女というだけで怖い!
魔物を笑って殴り飛ばすウサギのシロップ。
理不尽にキレて罵倒してくるエルフのリリア。
騎士団長のファインをいとも簡単に吹っ飛ばす火猫のスズ。
ここに冒険者ギルドの統括、智将のイリスまで加わったら、俺の精神は崩壊する!
子供のような見た目のイリス様に正論をぶつけられれば、無様な姿で大泣きする自信がある!
仮にも俺は、Sランク冒険者。
本来であれば、もっと褒められてもいいと思うんだ。
善意の塊であるスズと比べれば、ちっぽけな存在かもしれない。
でも、俺だってそれなりに善い行いをしてきたんだぞ!
巨大なドラゴンゾンビより、幼子のようなイリス様に怯えた俺は、連携を乱すように駆け抜けていく。
なぜなら、イリス様が攻撃を受けるなと言ったからだ。
パワータイプのザックは、正面から攻撃を受けとめることがパーティでの役目。
それなら、俺が中心になって行動しないとイリス様の作戦が生きてこない。
今回は俺が誘導してちょこまかと動き回り、危ないところはザックにフォローしてもらおう。
俺は体に風を纏わせ、自身のスピードを高めていく。
料理効果のおかげで、風魔法のコントロールが扱いやすい。
これなら、今まで以上に魔力をスピードにまわしても大丈夫そうだな。
視界が確保できるギリギリまでスピードを高め、グッと踏み込んで加速。
瞬間的に距離を詰めると同時に、スピードを生かして、右足を剣で斬り付けた。
が、僅かに斬れた感触があるだけで、思った以上にダメージを与えられない。
さすがは元古代竜。
ゾンビ化して防御力が落ちたとはいえ、パワーアップした俺の攻撃では歯が立たない。
それでも俺はもう1度踏み込み、同じように右足を斬り付ける。
様子を見ることもなく再度振り返り、同じ場所を連続して斬り続け、傷口を深くしていく。
手数を増やして、ダメージを高める作戦だ。
圧倒的なスピードで攻撃を与え続けていたら、ドラゴンゾンビも俺を無視することはできなくなる。
ヘイトが高まり、イライラしてくるからな。
目まぐるしく動き回って斬り続けていると、業を煮やしたのか、ドラゴンゾンビは大きく翼を広げた。
歯を食いしばるように怒り、天を仰ぐように首を空へ向ける。
「グウオオオオオオオオ!」
ドラゴンゾンビが咆哮した瞬間、シロップが地面を踏み込み、ジャンプした。
ウサギの獣人特性を活かしたジャンプ力で、ドラゴンゾンビの頭へ飛び込むように向かうと、パァーーン! という破裂音に似たビンタが炸裂。
脳が揺れたとわかるくらいに頭があさっての方を向いたドラゴンゾンビは、無抵抗にゆっくりと傾いていき、ドッシーンッ! と大きな音を立てて倒れた。
俺は生まれて初めて、ドラゴンよりもウサギが怖いと思った。
「今日は気合が入ってるね~」
マイペースなシロップは、こんな時でも自分のペースを崩さない。
お前のビンタのせいで、俺はこんなにも心が乱されているというのに。
「まぁ、当然のことだろ。ダークエルフかこいつを倒さないと、俺達に勝ち目はないからな」
「え~、本当はビビってるのに~?」
「俺の心をニオイで読み取るんじゃねえ!」
腐敗したドラゴンゾンビが大量にいる中、どうして俺のニオイをピンポイントで判断できるんだ。
カッコつけて答えた俺が、最高にダサく見えるじゃねえか!
立ち上がろうとするドラゴンゾンビに、八つ当たりをするように斬りかかる。
俺の攻撃では、僅かなダメージを与えることしかできない……いや、よく見ると違う。
シロップが殴る前に付けた傷がなくなっている。
この規模のドラゴンゾンビが再生のスキルまで持っているとは。
「シロップ、こいつは再生持ちだ。できるだけ早く頭か首をへし折って、術者を討伐した方が早い」
「じゃあ~、もっと攻撃しないといけないね~」
起き上がろうとするドラゴンゾンビに向けて、シロップが詰め寄る。
追撃を始めるシロップに気付いたドラゴンゾンビは、怒り狂うように腕を振り払った。
ガーンッッッ! という激しい音でドラゴンゾンビの攻撃を受け止めたのは、シロップの前に割り込んだザックだ。
その隙にシロップが駆け抜け、ドラゴンゾンビに飛び蹴りをかます。
やはり、智将のイリスの言葉に従って正解だった。
攻撃を受け止めたザックのこんな悲痛の表情は、初めて見る。
衝撃が強すぎて武器すら持てなくなったのか、両腕をプルプルさせて動けないでいた。
防御力の高いザックが、ワンパンで戦闘不能とは。
俺、当たったら間違いなく即死だな。
急いでザックを安全な場所まで移動させた俺は、再びドラゴンゾンビとの戦いに戻る。
シロップとドラゴンゾンビによる今世紀最大の怪獣決定戦を行う中、俺は寂しく尻尾を斬り付けるのみ。
再生力を尻尾に使わせることもできるし、前方に戦うシロップとの戦いに集中できなくさせる目的がある。
非常に姑息でSランク冒険者らしくない戦いだが、俺の役目はもう1つある。
攻撃に専念するあまり、ドラゴンゾンビの反撃をシロップが受けようとした瞬間、猛スピードで駆け抜けてシロップを救助。
ギリギリで腕をつかんで離脱させ、ダメージを食らわないように心がける。
そして、早く戦線に復帰してもらう。
笑いながら魔物を殴るシロップと、一緒に戦うのは怖い。
攻撃力も俺より遥かに上だし、隣で戦うと惨めさがすごいんだよ。
でも、ドラゴンゾンビを1人で止めるのは無理だし、他力本願も大事。
再び尻尾への攻撃に戻った、その時だ。
後方から「ヘイーン、ヘイーン」という謎のトーマスさんの声が聞こえてきた。
「カイル、シロップ、撤退をしなさいな! トーマスの魔法で迎撃しますわ!」
風神の魔法攻撃に巻き込まれないように即座に撤退。
イリス様の元へ近付いていくと、トーマスさんが「ヘイーン」と言いながらケツを叩いた。
その姿を見て、俺は理解した。
すげえ魔法がケツから出てくると。
通常、門とは敵を侵入させないための守りの要である。
だが、時には恐ろしい兵器を投入する攻撃の要にもなる。
それが、トーマスさんの肛門だ。
ダークエルフと戦うタツヤ達と獣人達は西側で、砂漠の国から来た冒険者達は東側で戦闘を繰り広げている。
間で戦う俺達の攻撃が、他の場所へ影響を与えることはない。
いくら風神の二つ名を持つトーマスさんとはいえ、そこまで広範囲な魔法を撃てないんだろうからな。
シロップの攻撃にいら立ったドラゴンゾンビは、天を仰ぐように大気から魔力を集め始めると、エネルギーが口元へ集まっていく。
「放ちなさいッ!!」
イリス様の合図があった瞬間、トーマスさんがケツをパシンッ! と勢いよく両手で叩きつけた。
すると、『キュイーーーンッ』という聞いたこともない高音が頭に鳴り響くと共に、圧縮された屁が具現化されてドラゴンゾンビに襲い掛かる。
頭をもぎ取るように屁が通過すると、ドラゴンブレスに溜めていたエネルギーが周囲に散らばった。
ズッシーンッ! と、ドラゴンゾンビの頭と共に胴体が地面に倒れ込む。
見るだけなら、まるで精霊魔法でも使われたのかと思うほど強力な風魔法だ。
さすが風神と呼ばれる伝説の男、トーマスさん。
トリュフを1つ食べただけで、ここまで風魔法の威力を高めるとは。
しかし、どこか懐かしく感じるよ。
俺達がトーマスさんと出会った1年前、似たような光景を見たからな。
あの時は確か、スズと一緒に協同で依頼を受け、砂漠の国へ向かった時だった。
ちょうど魔物が大量発生して、俺達も討伐へ参加することになったんだ。
スタンピード寸前までいっていたのに、結局はトーマスさんが風魔法で巣を破壊して、ほとんど出番がなかったけどな。
Sランク冒険者の偉大さを教えられただけでなく、リリアが驚愕の表情で驚いていたっけ。
今になったら、なぜ驚いていたのかわかるよ。
エルフであるリリアよりも、優れた風魔法だからだ。
将来のライバルとなる男を人間で見つけた喜びを、隠しきれなかったに違いない。
だが、リリアもここまですげえ男だとは思わなかっただろう。
たった一発の屁で、古代竜のドラゴンゾンビを討ち取るなんてな。
おっと、感心している暇はない。
料理効果のあるうちに、ダークエルフとの戦いの援軍へ向かわないと。
タツヤのユニークスキルを敵に知られれば、大変なことになるからな。
グッと地面を踏み込んで援護に向かおうとすると、「待ちなさい」とイリス様の声が聞こえた。
同じことをシロップも考えていたのか、少しふらつくような仕草を取っていた。
「相手は人間の術者ではなく、ダークエルフですのよ。あれくらいでは小休憩もできませんわ」
「そうは言っても、トーマスさんの魔法で……」
ふと振り返ると、俺は目の前の光景に息を呑んだ。
再生スピードが速すぎるあまり、ほぼ全快しているドラゴンゾンビがいたから。
こんな相手と長期戦……か。
タツヤ達の援護に回ってやりたいが、そうも言ってられない。
ドラゴンゾンビが倒れる時は、向こうの戦いが終わる時だからな。
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